12 俺しかいない
『どれ…力も戻ったかな…?』
そう言うと奴は腕を突き出してくる。
なんだ…?さっきまでの氷柱を飛ばす攻撃か…?
「……!?」
「みんな飛んで!避けて!!」
フィアスコの叫び声に驚くかのように走って逃げる。
だから人間が飛べるかよ…!
すると、さっきまで俺たちがいた場所に氷山が咲く。
辺り一帯の空気が冷え切っていて寒さすらも感じる。
あっぶな!フィアスコの警告が無かったらフォルティのように串刺しになっていただろう…
……え?フォルティ!?
「ちょっと!なんで避けてないのよ!!」
「避けられ…ないんだ……ぐッ…!解放や白化の後は…」
フォルティは剣を地面に向けて防御態勢を取っていたようで、胸部や腰部は守れているが、腕や足には鋭い氷の棘が突き刺さっている。
あの硬そうな鎧を貫通し、青白いはずの氷の棘の先端は赤く染まっていた。
だが、フォルティから流れ出すはずの大量の血は、氷の棘に垂れることは無く、鎧へと吸い込まれて行っている。
純白に戻っていた彼女の鎧は、三度目の薄いピンク色へと変色していた。
『フハハハハ!どうした?力を使い切って逃げる事すら出来なかったのか?』
『安心するがいい、すぐに楽にしてやろう』
そう言いながら大きい体を着実に一歩ずつ、徐々にフォルティへと近付いていく。
「アンタ!さっきアタシが捕まっていた時に投げてくれた薬!もうないの!?」
「ーー!あ、あるぞ!」
「アレ、何か知らないけどアイツの体がダメージを受けたような反応をしていたわ!足止めくらいは出来るんじゃない!?」
ただのポーションなんだが…最高品質の。
だが、それが本当なら試してみる価値はある。大量にあるからな。
今度は一回くらい外しても大丈夫だ。
フォルティまでの距離はまだかなりある。
落ち着け…
大丈夫だ…さっきも当てられただろ…!
マジックポーチから3本取り出し、その内の1本を右手で握りしめる。
アイツの腰を目掛けて、思いっきり投げる…!
『ふん、同じ手段で我に傷をつけられると思ったか!小僧!』
俺の投げたポーションは、あっけなく躱されてしまった。
「火球!」
だが、フィアスコは一瞬の隙を逃さなかった。
俺の横を掠めるかのように、空気が燃える音が飛んでいく。
『いくら練度が高い魔導士の術でも、この階位は避ける価値もないわ』
真正面からフィアスコの炎を体で受け止めた。
一瞬体を包むように燃え広がったが、すぐに消えてしまう。
少し焦げた跡がついたが、すぐに再生を…
…再生しない?
まるでガラスを叩き割るような音が響いた。
フォルティが氷の棘を叩き割り、体から引き抜いている。
「ぐあッ…!!」
それでもフォルティの体から血が飛び散ることは無く、徐々に鎧が赤くなっていく。
『…何故だ?何故再生しない…?』
ナイトキングデーモンが一歩後ろへと下がる。
真っ赤なフォルティもフィアスコと合流出来た。
『…!?これは…銀か!?』
アイツの右足の踵辺りに、何かが突き刺さっている。
「あ…あれは、あの時アイツが捨ててた剣じゃない…!」
やべ。剣捨てたの見られてた…
…ん?銀?確かに銀剣を買ってきたが…
え!?まさかソレが刺さってるのか!?
そして銀が弱点…!?
『体を溶かす薬だけなら再生で対応できたものを…!』
まずい…!剣を抜かれる…!
だが、流石は本物のSランク冒険者、フォルティ。
俺が考えを整理している間に、彼女は飛び出していっていた。
既に足元の銀剣が突き刺さっている所にたどり着いた彼女は、自慢の両手剣を振りぬき、剣の腹で思いっきり銀剣の柄を押し込んだ。
「さぁせるかぁあああ!」
『ぐぉッ!?』
剣を抜こうとしていたナイトキングデーモンは体勢を崩す。
銀剣はさっきまでよりも深く、刀身が見えなくなるほど突き刺さっていた。
「さっきのお返しよッ!!」
フォルティが銀剣を深く突きさしたのと同時、フィアスコが魔法を唱えていた。
…やはり受付嬢ではないな。
高ランク冒険者なのだろう。
刹那、またしても俺の真横を空気が燃える音が走り抜ける。
先ほどのよりも音が結構大きかったことを考えると、威力は火球よりもかなり高そうだ。
…というか、わざと俺の横ギリギリを狙ってたりしないよね?
虐められてるわけではないよね?
(…ついでに魔法をギリギリで撃ち込んでビビるかどうか見てやろうと思ったのに、何よ!澄ましちゃって!)
(アタシの魔法なんて気に留める必要もないってこと!?)
ナイトキングデーモンが体勢を崩していたところにフィアスコの爆炎がクリティカルにヒットする。
明らかに火球の数十倍はありそうなほど激しく炎が燃え上がる。
結構な距離があると言うのに、俺の肌まで焼けそうに熱い。
『がぁッ!!』
再生はしていないが、致命傷という訳でもなさそうだ…
元来のステータスがかなり高いのだろう…
『…調子に…乗るなぁァツ!!』
ナイトキングデーモンが俺には捉えられなかった速度でフォルティを蹴り飛ばす。
フィアスコの近くまで吹き飛んでいたが、剣で受けとめていたのかダメージは無さそうだった。
フォルティの勢いがなくなり、止まったかと思ったらナイトキングデーモンの方を目掛けて地面を踏み込み、駆け出した。
「フィア!もう一度、アイツの動きを止められるかい!?」
「…ホントにあと一回が限界よ!!魔力的にも!体力的にも!」
フィアスコも位置を変えるべく、疾走しながら答える。
俺も攻撃が来たら躱せないため走り出しているが、速度に天と地ほどの差がある。
「ボクの方も限界は近い…ラストチャンスだね!」
『やはり…まずは魔術師!!お前からだァツ!!』
ナイトキングデーモンが恐ろしい速さでフィアスコとの距離を詰めていく。
既にフィアスコは詠唱に入っていた。
いや、詠唱を始めてから狙ったと言った方が正しそうだ。
フォルティの方を見ると、構えを低く保ち、体中から湯気のようなものが出てきていた。
やはり握りつぶされたダメージは相当なのか、フィアスコの詠唱が途絶えたり、息が荒くなってきている。
ナイトキングデーモンは、もうすぐそこという所まで距離を詰めていた。
……俺しかいない!
やれ!ここで動け!仮にもAランクになったんだろ…!
「こんのやろぉがあぁあァッ!!」
さっき取り出していたポーションを2本とも同時に投げる。
正直、狙いも何もあったようなもんじゃない。
だが、気を逸らせられれば…!
『ーー!!』
ナイトキングデーモンが僅かに横に飛ぶ。
フィアスコまでの軌道は逸れていないが、距離は少し空いた…!
俺は全力で投げたため、その勢いのまま地面に転がった。
「行くわよ!紅蓮……!!束縛の茨!!」
瞬間、ナイトキングデーモンの上空と足元2か所ずつ、何もない空間が紫色に裂かれた。
裂かれた空間から深緑色の刺々しい茨が鎖のような音を鳴らしながら伸びてくる。
伸びてきた茨はヤツの両腕と両足に絡みつく。
裂かれた空間とナイトキングデーモンを結ぶ茨がピンと張る。
『この程度…!』
茨を断ち切ろうと暴れ出すが、暴れる度に棘が肉に刺さり鮮血が噴き出す。
暴れれば暴れるほど、肉に突き刺さっていく。
腕を引けば茨が伸びるが、裂かれた空間はビクともしない。
肉を貫く鈍い音を撒きながら最初の位置へと戻っていく。
すると、耳が破裂しそうなほどの轟音。
大地が盛り上がり、大きな岩の破片が飛散する。
フォルティの踏み込みだ。
そう気づいたときには、既に彼女の間合いだった。
「これで…最後ォッ!!」
(もう目も限界か…!視界が歪んで狙いが定まらない…!)
(だけど……!ここで止まるわけには……いかないッ!!)
『なっ……!ま、まて…!やめろォォ!!』
「紅蓮宥恕ェッ!!」
視界が全て赤に染まる。
一瞬、世界が静寂に包まれたのかと錯覚した。
そして、大地を引き裂くかのような爆発音と共に視界の赤が消え、純白の眩しい光に包まれる。




