第131話『幻の渦』
レンたちは商人ギルドの隊商に加わり、砂漠横断の旅を開始した。
だが三日目、砂の海に不穏な影が現れる――。
昼下がりの砂漠。
陽炎が揺れ、空と大地の境目が溶けるように霞んでいる。
隊商はゆっくりと進み、前後をラクダと馬が連なっていた。
レンは荷台の上で汗を拭いながら、乾燥に耐えるための「塩漬けオリーブ入りピザ」を焼いていた。
熱気でさらに水分が奪われるが、これが隊商員たちの士気を支えている。
その時――前方で先頭を行く斥候が旗を振った。
「渦だ! 幻の渦が出たぞ!」
砂漠の地平に、不自然な煙のような柱が立ち上っている。
近づくと、それは無数の砂粒が螺旋を描きながら舞い上がる巨大な渦だった。
だが……奇妙なことに、その渦の中心には何か光る影が見える。
「自然現象じゃない……魔法の気配だ」
ルッカが剣に手をかけ、警戒を強める。
渦は唸りを上げながら接近してくる。
砂粒が肌を刺し、目を開けていられない。
隊商は左右に避けるが、一部の荷が渦に吸い込まれて消えていった。
「隊商の荷が……!」
商人たちが悲鳴を上げる中、レンはふと思いついた。
ピザ窯の熱と香りで風向きを乱せば、渦の流れを変えられるかもしれない――。
レンは窯に大量の香辛料を投入し、強火で一気に煙を立ち上らせた。
カレーのような濃い香りが風に乗り、渦の進行方向がわずかに逸れる。
そこをルッカと護衛たちが突入し、渦の中心を目指した。
中には――黒衣の魔導士が立っていた。
目深にフードをかぶり、両手で砂を操っている。
「異邦の商人よ……この道を越えることは許さん」
ルッカが一歩前へ出る。
「許すも許さぬも、こっちはピザを届けに行くだけだ!」
そう叫ぶや、彼女の剣が渦を裂くように閃き、魔導士の結界を破った。
渦は一瞬で形を失い、砂が静かに地面へ落ちていく。
だが魔導士は黒煙となって消え、行方をくらませた。
こうして隊商は危機を脱したが、ハディールが呟いた。
「奴は“砂の王国”の尖兵だ……。これからが本当の試練だぞ」
レンは握りしめたピザの生地を見つめる。
――まだ旅は、始まったばかりだ。
幻の渦を退けたものの、背後に砂の王国の影が見え隠れする。
次なるオアシス都市バルザックで、レンはさらに大きな試練と出会うことに――。




