第116話『嵐の海と、潮のピザ』
森で“葉のピザ”を完成させたレン一行は、南へ進み、ついに海沿いの漁港へ。
しかし目指す海域は、海神の怒りが吹き荒れる嵐の海。
そこには、“潮のピザ”に欠かせない伝説の塩と魚介が眠っているという――
港町グランデル。
波止場は潮の香りと魚の匂いに包まれ、船乗りたちの怒鳴り声と笑い声が飛び交っていた。
だが、沖の水平線は異様だった。黒い雲が渦を巻き、稲光が海面を裂く。
「ありゃあ、海神“ウィオル”の怒りだ」
漁師の老人が吐き捨てるように言った。
「沖にある“潮宝島”に近づく奴は、みんな飲み込まれちまう」
潮宝島――そこには“蒼潮塩”と呼ばれる特別な塩があり、取れた魚介は百年物の旨味を持つと伝えられていた。
レンは、嵐の海でしか生まれないこの食材で“潮のピザ”を作ることを決める。
「嵐を越える船があるのか?」
「一隻だけある。だが、舵を取れるのは……」
港の者たちの視線が一斉に桟橋の先に立つ女船長へ向いた。
女船長の名はカーミラ。
長い黒髪を後ろで結び、海風に揺れる外套を纏っている。
「潮宝島に行く? 正気じゃないね」
「……どうしても必要なんです。あの海の味が」
レンが真っ直ぐな眼差しで答えると、カーミラはわずかに笑った。
「いいだろう。ただし、沈んでも恨むなよ」
出航の日。
船は港を離れ、やがて暗雲の下へ。
風は荒れ狂い、波が船を叩きつける。
レンは甲板にしがみつきながら、嵐の向こうに見える小さな島を見つめた。
「行くぞ! 舵、右へ!」
カーミラの声が雷鳴を突き抜ける。
島に上陸すると、白い砂浜の奥に小さな泉があった。
その水面には、青く光る結晶――蒼潮塩が沈んでいる。
近くの岩場では、黄金色に輝く“雷貝”が波しぶきの中で息づいていた。
「……これが潮宝島の恵み」
レンは胸が高鳴るのを感じながら、素材を抱えて船へ戻った。
港に戻るとすぐ、レンは蒼潮塩と雷貝、そして新鮮な海藻を使って生地をこね始めた。
焼き上がった“潮のピザ”は、香りだけで海の情景が広がるようだった。
ひと口食べれば、塩のまろやかさと魚介の旨味が波のように押し寄せ、雷貝の貝柱が小さく弾ける。
カーミラは黙って食べたあと、低く言った。
「……悪くない。海神も、これなら許すだろう」
嵐の海で得た蒼潮塩と雷貝。
レンの“潮のピザ”は、港町グランデルに新たな名物となった。
だが、次なる海路はさらに危険な場所――
そこは、海と空と大陸を繋ぐ“巨大な橋”の物語へと続く。




