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異世界ピッツァ戦記〜魔王も並ぶ伝説の窯〜  作者: たむ


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116/256

第116話『嵐の海と、潮のピザ』

森で“葉のピザ”を完成させたレン一行は、南へ進み、ついに海沿いの漁港へ。

しかし目指す海域は、海神の怒りが吹き荒れる嵐の海。

そこには、“潮のピザ”に欠かせない伝説の塩と魚介が眠っているという――

 港町グランデル。

 波止場は潮の香りと魚の匂いに包まれ、船乗りたちの怒鳴り声と笑い声が飛び交っていた。

 だが、沖の水平線は異様だった。黒い雲が渦を巻き、稲光が海面を裂く。


「ありゃあ、海神“ウィオル”の怒りだ」

 漁師の老人が吐き捨てるように言った。

「沖にある“潮宝島”に近づく奴は、みんな飲み込まれちまう」


 潮宝島――そこには“蒼潮塩”と呼ばれる特別な塩があり、取れた魚介は百年物の旨味を持つと伝えられていた。

 レンは、嵐の海でしか生まれないこの食材で“潮のピザ”を作ることを決める。


「嵐を越える船があるのか?」

「一隻だけある。だが、舵を取れるのは……」

 港の者たちの視線が一斉に桟橋の先に立つ女船長へ向いた。


 女船長の名はカーミラ。

 長い黒髪を後ろで結び、海風に揺れる外套を纏っている。


「潮宝島に行く? 正気じゃないね」

「……どうしても必要なんです。あの海の味が」

 レンが真っ直ぐな眼差しで答えると、カーミラはわずかに笑った。


「いいだろう。ただし、沈んでも恨むなよ」


 出航の日。

 船は港を離れ、やがて暗雲の下へ。

 風は荒れ狂い、波が船を叩きつける。

 レンは甲板にしがみつきながら、嵐の向こうに見える小さな島を見つめた。


「行くぞ! 舵、右へ!」

 カーミラの声が雷鳴を突き抜ける。


 島に上陸すると、白い砂浜の奥に小さな泉があった。

 その水面には、青く光る結晶――蒼潮塩が沈んでいる。

 近くの岩場では、黄金色に輝く“雷貝”が波しぶきの中で息づいていた。


「……これが潮宝島の恵み」

 レンは胸が高鳴るのを感じながら、素材を抱えて船へ戻った。


 港に戻るとすぐ、レンは蒼潮塩と雷貝、そして新鮮な海藻を使って生地をこね始めた。

 焼き上がった“潮のピザ”は、香りだけで海の情景が広がるようだった。


 ひと口食べれば、塩のまろやかさと魚介の旨味が波のように押し寄せ、雷貝の貝柱が小さく弾ける。

 カーミラは黙って食べたあと、低く言った。


「……悪くない。海神も、これなら許すだろう」

嵐の海で得た蒼潮塩と雷貝。

レンの“潮のピザ”は、港町グランデルに新たな名物となった。

だが、次なる海路はさらに危険な場所――

そこは、海と空と大陸を繋ぐ“巨大な橋”の物語へと続く。

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