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異世界ピッツァ戦記〜魔王も並ぶ伝説の窯〜  作者: たむ


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111/242

第111話『海辺のバジル畑と、消えたレシピ帳』

雲の上の街ソレリスを後にし、レンたちは再び地上へ。

向かう先は、香草の産地として名高いアクアレッタ――海辺の町。

そこでは“幻のレシピ帳”をめぐる、少し切なく、心温まる出会いが待っていた。

 潮風が吹き抜ける。


 青い海に沿って続く一本道。

 その先に、白い壁の家々が点在する小さな町があった。


 アクアレッタ――

 海とバジルの町として知られるこの場所では、丘の斜面一面にバジル畑が広がっていた。


「うわあ……いい香り」

 リリィが鼻先をくすぐる緑の風に、目を細める。


「風に乗って広がる香り……ピザに使うには、理想的なハーブね」

 ヴァレッタもその豊かさに感心した様子だった。


「ここにはね、“海風バジル”っていう、この土地にしかない品種があるらしいよ」

 そう説明したのは、道中で出会った青年・ミロだった。


 ミロは町の農家のひとりで、先代の祖母から畑を継いだという。


「でも、肝心の“レシピ帳”がないんだよなあ……」


「レシピ帳?」


「ああ、バジル料理の元祖とされる、曾祖母の手書きの本なんだけど……どこかにしまい込んじゃって、見つからなくてさ」


 その話を聞いたレンたちは、ミロの家の蔵でレシピ帳を探すことにした。


「これ全部……ノート? 本棚3つ分あるけど」

 リリィが目を丸くする。


「うちのばあちゃん、記録魔だったから……農作業、収穫量、潮の満ち引き、バジルの葉の向きまで、なんでも書いてたらしい」


 数時間後――


「……あった!」

 ヴァレッタが埃だらけの箱の中から、革の表紙に『BASILICO』と刻まれたノートを取り出した。


 レシピ帳には、驚くほど繊細な手描きの挿絵と、風景の描写、そして料理の記憶が綴られていた。


“昼下がり、南の風。潮の香りが強い日は、バジルを一晩寝かせると良い”


“ピザの生地は、決して急がず。香りが息をする時間を与えること”


“最後に載せるオイルは、家族が笑っている日だけ、少し多めに”


「……料理のレシピっていうより、詩みたいね」

 ヴァレッタがそっとページをめくりながら呟く。


「でも、ちゃんと料理の本だよ。おばあちゃん、料理って“想いの継承”だって言ってたから」


 レンはそのレシピ帳を元に、ピザを焼くことにした。


 名前は――

 『風のうたピザ ~アクアレッタ風~』


 海風バジルをたっぷり使ったグリーンソースを、オリーブとレモンピールの香りで引き立てる。

 生地には、地元産の麦と少量の塩を混ぜた“潮風ブレンド”。

 焼き上げた後に添えるのは、バジルの花と、ひと雫のバジル・オイル。


「……香りだけで幸せになるね、これ」

 リリィが、目を閉じて深く吸い込む。


「味も……風みたいに、どこまでも広がるわ」

 ヴァレッタも、しみじみと呟いた。


「これ、おばあちゃんに食べさせたかったなあ」

 ミロが、少し照れながら言った。


「……でもきっと、どこかで見てると思うよ」

 レンがそう答えた時、ちょうど海風が店先を通り抜けて、レシピ帳のページをめくった。


 そのページには、こう記されていた。


“風の来るところに、また人は集まる”


“笑い声があるところに、料理は生まれる”

香りは、記憶を呼び覚ます。

消えたレシピ帳に綴られていたのは、味だけでなく、家族の想いと、土地の風だった。

レンはまた一つ、“物語のあるピザ”を焼き上げた。

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