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異世界ピッツァ戦記〜魔王も並ぶ伝説の窯〜  作者: たむ


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112/241

第112話『塩の都と、涙のパスタ職人』

海辺の香草の町・アクアレッタを後にしたレンたち。

次に訪れたのは、内陸の塩湖に面した都市セーリオ。

その町には「塩」を巡る歴史と、ある“涙の職人”の物語が眠っていた。

「うわっ……空気がしょっぱい!」


 町の入り口に差しかかると、リリィが鼻をひくつかせながら声を上げた。


「塩湖って本当にこういう匂いがするのね……」

 ヴァレッタも、帽子を深くかぶり直す。


 セーリオは、かつて“塩の都”と呼ばれた交易都市。

 巨大な塩湖と塩鉱を抱え、塩の精製と交易で栄えたが、今ではその賑わいも落ち着き、静かな町並みが広がっていた。


 そんなセーリオで、レンたちは一人の青年職人と出会う。


「……ようこそ。ピザ屋さんだって?」


 塩倉庫の裏手、簡素な屋台の脇に座っていた彼の名はニーノ。

 小麦粉にまみれたエプロン、手には木製のパスタマシン。

 肩をすくめながら、どこか人見知りな様子だ。


「俺はパスタ職人なんだ。でも、味に迷っててね……今は屋台だけで細々とやってる」


 レンたちは、その場でニーノの塩パスタを試食させてもらうことにした。


「……しょっぱい。でも、なんかやさしい味」


「うん、噛めば噛むほど、甘さが戻ってくる感じ」


 リリィとヴァレッタが口を揃えて褒めると、ニーノの目が潤んだ。


「……や、やめてくれよ。褒められると、すぐ泣くんだ……」


「……泣いてる?」


「泣いてるね」


 それが彼のあだ名の由来だった――“涙のニーノ”。


 話を聞くと、ニーノは父親も祖父も代々パスタ職人。

 だが伝統の味を継ぐことにこだわりすぎて、最近では地元でも顧客が離れてしまっていた。


「……でも、味を変えるのが怖くて。父さんに怒られるような気がしてさ」


 レンは、静かに頷いた。


「じゃあ一緒にやってみよう。『伝統』を残しつつ、『進化』する味を」


 レンが提案したのは、「塩」をテーマにした新作ピザとニーノの塩パスタを組み合わせたコース。

 名づけて――

 『しょっぱい涙セット』


 ・前菜:塩麹でマリネした野菜の冷製

 ・主菜:塩窯焼きのチーズピザ ~湖の風仕立て~

 ・締め:ニーノの自家製塩パスタ ~涙のトマトソース~


 特に主役となったのが、セーリオの岩塩で焼き上げる「塩窯ピザ」。

 生地を塩のドームで覆い、じっくり火入れすることで、外はカリッと、中はふんわり香ばしい。


「……すごい、塩なのに、しょっぱすぎない」


「塩が“味”じゃなくて、“香り”になってる」


 訪れた町の人々も、その新しい味に驚いた様子だった。


「ニーノ、このパスタ……あなたらしさが出てるわ」

 ヴァレッタが微笑むと、案の定ニーノは涙目に。


「……もう、泣くのもいいことなのかなって、思えてきたよ」


 その夜、倉庫の裏にぽつんと立っていたニーノの屋台には、灯りがともっていた。


 塩風が吹く町で、少しずつ、新しい物語が始まっていた。

「変えないこと」と「変わること」。

そのはざまで揺れる青年の心を、料理でそっと包み込む――

そんな“涙の味”が生まれた回でした。

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