No.044 ネリネの被害
後片付けが大変なんだって。
「梨奈、どうだ?」
「あぁ、艦長か。とてつもなく忙しいよ。他の班のアンドロイドにも来てもらって何とかしている。艦長が回収した人で軽症の人とかには休憩室とかで休んでもらっている。重症者とかは治療室と、仮設無菌室を設置して対応しているよ。……宗光くんは一命をとりとめたが、まだ意識は回復していない」
「そうか……二葉と有次は?」
「その2人は今は休憩室で休ませているよ。あとは3人ほどネリネのクルーで倒れてしまってね。そのうちの1人の佳代ちゃんは一応治療室で様子を見ているよ」
「分かった。また来る」
あかねに伝えようか?……いや、今はやめておこう。結局数時間かけてここらへんと隣のあと2つぐらいの宙域を全部見まわることとなってしまった。……殆どの戦闘機が撃墜されているやん。宙域全体で撃墜されずに生き残った戦闘機は脱出カプセルのみを除くと10数機しかいねぇぞ……そもそも沈められた船が圧倒的に多いんだけどね……大丈夫なのか地球。
「くれぐれも気をつけてくれよ。他の船の乗組員とかは母艦が撃沈されてしまったりしてピリピリしているから」
「分かった。みんなを頼む」
「任されたよ」
とりあえず、食料とか持ち回り品を何とかしんとな。
「あかね。補給班に言って軽食の用意をさせてくれ。それと手の空いているものは補給班、医療班、メカニック班の手伝いをさせてくれ。艦橋からも……そうだな、広海に来てもらってもいいか?」
『分かった。皆に伝えるわ』
「おい‼そこのマントのやつ‼」
……早速絡まれたじゃないか。
「はい。どうしました?」
「状況はどうなっているんだよ‼いつ基地に買えるんだこの船は‼食事は‼」
「そうだ‼どうなってんだこの船は‼」
「みんなこの艦長が助けてくれたんだぞ‼新人なのにこれだけ頑張ってるんだ‼大目に見てやれよ‼」
「何だと‼」
あぁあ……喧嘩が始まったよ。やめてほしいな。
「私はここの艦長です。みんな疲れているだろうし、イライラするのは分かります‼でもここには重症者も、精神的に壊れてしまった人も、様々な人がここにはいるんです‼この船はもう少しこの宙域で哨戒をしたあと、基地に戻る予定です‼食事については今補給班が温かい食事の準備をしています。もう少しお待ち下さい‼」
「……」
誰も話さなくなった。
「何かあれば他の人達やアンドロイドに言ってください」
「艦長」
……えぇ〜。そこにいたのはアジア地区の青州の艦長用の制服を纏った人だ。
「青州の艦長さまですか⁉」
「そうだ。済まないな」
「……お気持ち、お察しします」
「まあ良い。ここにいる人達は全員軽症者だな」
「はい。そうです」
「よし、動けるものはこの船を手伝え‼俺はブリッジに行って良いかね?ネリネの艦長くん」
「許可します。ブリッジコードを送信します。今は戦闘艦橋での指揮をしております」
「分かった。副長‼通信士‼付いてこい‼他の人達はそれぞれの得意な分野の持ち場に行ってくれ‼」
「了解しました‼」
人が少ないからめっちゃ助かる。
「ありがとうございます‼俺は他の所も回りまって状況確認と報告をさせていただくので、少し遅くなります」
「分かった。何かあれば連絡するから任せておいてくれ」
「お願いします」
それにしてもすごいな、本当の艦長は。何より貫禄がある。てかそんなことしている場合じゃない‼
「二葉‼孝宏‼大丈夫か‼」
「うん、何とか落ち着いた」
「僕の方こそすみません……大事なときに倒れてしまって……」
いやそれが普通だから。倒れないほうがおかしいから普通。
「あんなの聞いていたらそりゃおかしくなるわ。というかずっとあれ聞いていて今はもう大丈夫なのか?」
「あ……まあそうですね……」
なんか含みのある言い方だなぁ。
そんなことを思っていると調理班の佳代がやってきた。
「艦長‼食事もうちょっとで出来ます‼」
「ありがとう。出来たら配ってくれ。それと広海は来たか?」
「ここにいるよ」
うぉっ‼いつの間にか後ろに来ていた。
「広海は僕と一緒に回ってくれ」
「分かりました」
「2人共、今日はもう部屋に戻っていいぞ?何かあったらまた呼んでくれ。くれぐれも自分だけで抱え込むなよ?」
それが1番自分にも他人にも駄目だからな……言っておいてなんだが僕はそのタチだからな……
「ありがとうございます」
「すみません。戻らせてもらいます」
何かあればわかるだろう。そう信じたい。
「艦長、どうしますか?」
「とりあえず全体をまわっていく。まずは格納庫だな……下の方が被害が大きいから絶賛復旧作業中のはずだ」
格納庫区画の内部にまで被害が出てしまったので、戦闘機を留める格納庫を回すことができなくなってしまたからなぁ。今は飛行隊が全滅して僕の戦闘機と脱出したノーズだけなので、2区画だけで何とかなっているが。ちなみに他に生き残った戦闘機でネリネとフローレスに来たのは10数機程度なのだが、フローレスに回せるだけ回して、それでも無理なやつは1番カタパルトを展開したままにして生き残った戦闘機を駐機させている。
まあ自分たちの船で手一杯で修理まで手が回っていないんだけどね……
「こっちに資材を持ってきて‼まだ穴が塞ぎきれてない‼」
「白美ちゃん‼こっちでまた問題が発生した‼電子部品もう無いのか⁉」
「すみません‼そこの戦闘機のパーツと繋げるので持ってきてもらってもいいですか⁉」
色々と騒がしいな。
「白美‼ちょっと良いか⁉」
叫んだのが聞こえてるかな?近づくか……
「白美、お疲れ様」
「艦長‼すみません騒がしくて」
「良いよ。頑張ってくれているのがわかるし。修理の状況は?」
「ありがとうございます。今のところは船底の修復と、飛行機の格納庫の回転装置の復旧、片方のカタパルトデッキの応急修理ですね」
出来るのかそんだけ⁉
「ちょっと厳しいですね……艦長のおかげで他の艦の人たちも手伝ってくれているんで作業効率は格段に上がってはいるんですけど……」
「そうか。休みながらやってくれよ?ぶっ倒れられたら今は医療班も大変だから手が回らなくなる」
「そうですね……頑張ります」
「また暇になったら手伝うし、何かあったら言ってくれ。回せたら人手を回す」
「お願い。ちょっとマジで色々ぶっ壊れているから……」
深刻そうだな……
「分かった。」
「広海、一応さっきの被害のやつは打ち込んだか?」
「うん。次は?」
「次は……システム班と機関班に行くか」
「分かった」
「矢一?どうだ?」
「艦長‼今はいつもどおり今回の戦闘についてのシミュレーションをしています」
「いつもありがとうな?」
「はい。それと分かったことがあります」
なんだろう?
「……ストレンジャー側も脱出装置があるのではないかと思います」
おーん……どういうことだ?
「多分ですけど、最後に僕らが戦った中型戦艦をシミュレーションで改めて見ると何か出てきているんですよ。それが何隻かの戦艦に回収されているように見えるんです。他の宙域でも可能な限り映像を獲ってきて見ているんですけど、なにか飛び出たあとに自爆している船もあるんです」
何で気づかなかったんだろうか?
「ただでさえレーダーも何も使えない状況でそんなものが飛び出してきても分からないですよ。それに映像を見返すにしてもここまですることはあったとしても気づかないんじゃないですか?」
そういうものなのかぁ。誰か気づいていそうだけど。
「いつもすまんな」
「いえ、これが僕の仕事ですから」
「それじゃあ頼む」
「分かりました」
「機関出力が落ちているな……」
「それ大丈夫か?」
「あっ、艦長‼一応大丈夫です。色々撃たれて動けないところもありますが……」
「ごめんな?やよいを連れ出して」
「そろそろ返してくださいね?エンジンも保たせてはいますが良くないので」
やっぱ全部の班が忙しいな……もうちょっと人手がほしいもんだな。
「そうですね。25人だけでこのバカでかい船を動かせても、修理はそれ以上かかってしまいますからね。しかも今は他のところからも人が来ているので問題だらけですね」
だよなぁ……このまま何ごともなく基地に戻ることができれば良いのだが……




