プロローグ
無銘の世界のリメイクを始めました。どうぞ、よろしくお願いします。
僕、春風カナタは死んだ。他でもない自殺だった・・・
唐突に何を言うんだと思うが、僕は死んだ筈だった。そう、死んだ筈だった。なのに、これは一体どういう事なのだろうか?というか、此処は何処だ?死後の世界だとでも言うつもりか?
周囲は一帯、空色の空間が広がっている。空色の空間に、クリーム色の地面が広がっている。そんな中に僕は知らない青年と向き合っていた。そう、目の前に知らない青年が居た。
とりあえず、様式美として・・・
「此処は何処?貴方は誰?」
「おおっ、何ともテンプレートな!」
「いや、結局此処は何処だよ?つうか教えろやコラ」
僕は辟易しながら問い掛ける。しかし、青年の方は至って呑気なものだ。別段気負った雰囲気は存在しないようで何処からか湯気の立つ湯飲みを出した。一体何処から出したのか?
・・・まあ、別に良いけどさ。どうでも良い。
「まあ、そう言わずにこれでも飲んで落ち着けよ」
「はあ・・・、まあ。僕、自殺した筈なんだけどなあ?はぁ・・・」
何処か釈然としない。しかし、とりあえずお茶を飲む。うん、美味しい。別段変な味はしない。
・・・何か、思ってたのと違うな。もっと、自殺ってこう・・・なあ?普通こんな呑気な雰囲気じゃない筈ではないのだろうか?少なくとも、こんなまったりした空気であってはならない筈だ。
「では、改めて名乗ろうか。俺はデウス、神王デウスだ。取り敢えず神々の王をやっている」
「・・・はあ、神様ねえ」
「ふむ、特に驚いた様子は無いな」
「いや・・・まあ、なあ?」
そう言われてもなあ?
こんな状況下で驚けと言われてもなあ。このまったりとした雰囲気で驚けなんて・・・
「無理じゃねえか?」
「そりゃそうか・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
結局、この神様は一体何がしたかったのだろうか?流石に意味が解らない。しかし、だとすればこの空間はあの世とこの世の狭間みたいな物だろうか?しかし、それにしても気になる・・・
先程、デウスと名乗ったこの青年は言った。自分は神々の王だと。だとすれば、少なくともデウス以外にも神は存在している筈だ。少なくとも、自殺した僕の前に、いきなり神々の王が現れるとは・・・
僕が一人考え込んでいると、デウスは言った。
「言っておくと、この空間はお前一人の為の用意した特殊な空間だ。別に、生と死の境界とかそういう空間では断じて無いぞ?」
・・・心の中を読まれた?
「はあ、では何故神王とも呼ばれる貴方が直々に僕の前に現れたのでしょうか?」
「そうへりくだられてもな・・・。まあ良い、お前には一つ提案がある」
「・・・?提案?」
僕は思わず首を傾げた。それもその筈、神王とも呼ばれる存在が僕如きに一体何の用だ?少なくとも人間なんかよりも遥か上位の存在である神々の、その更に上位の存在たる神王が。この僕に提案?
恐らく、今この僕はとてつもなく怪訝な顔をしていた事だろう。
僕は、少なからず嫌な予感がした。そんな僕の様子を、デウスは楽しそうに見ている。
「まあそう身構えるな。別に、おかしな要求はしねえから」
「・・・はあ、じゃあ何を?」
それでも身構える僕に、デウスはにやりと笑って言った。その笑みが、何処となく不気味だ。
「お前、人生をやり直してみないか?」
「人生を・・・?」
「ああ、いわゆる転生という奴だ。どうだ?お前の人生をやり直してみないか?」
・・・いや、人生をやり直してみないかと言われてもだな?そんな事、この僕にどうしろと?この神王は僕に一体どういう返答を望んでいるんだろうか?じっと、デウスの瞳を覗いてみる。
しかし、神王の考えている事など解る筈がない。当然だ、人間であるこの僕に神々の王たるデウスの考えなど解る筈が無いだろう。しかし、人生をやり直すか・・・
僕は考えてみる。一体、僕は何を思って自殺をしたのだろうか?少し、振り返ってみよう。
・・・・・・・・・
思えば、僕の人生は孤独と挫折の連続だった。別に、傍に誰も居ない訳が無かった。しかし、僕は何があろうと何を見ようと何も感じなかった。何を聞いても、何も感じなかった。
それは、無感動の現れだろう。要は、僕がコワレテいただけだ・・・
感動的な映画を見ても、素晴らしい音楽を聴いても、それに感動しなかった。何も思わない。
しかも、普通の人間なら恐らくこれは感動するのだろうと理解出来るからこそ尚タチが悪い。周囲の人達が感動で涙を流しているのに、一人だけ白けた顔でそれを見ている。
これ程場違いな存在は無いのではないだろうか?結婚式の際、一人だけ葬式みたいな空気を放っている奴が居るのと似た物があるのだろう。要は、果てしなく場違いなんだ。周囲から独り、乖離している。
そして、そんな空気を放っている奴が居ると周囲が放っておく筈がない。
昔から、そんな僕を周囲は執拗に攻撃した。幼少期から続く虐めの連続。何かあれば、全て僕が悪い事になるという理不尽な現実。両親だけは僕の味方だったのは、せめてもの救いか・・・
しかし、その両親も精神を病んですぐにこの世を去ったけど。
社会に出てからも、僕は悪者だった。僕一人が、悪者だった。パワハラなど、当たり前だった。
最後には、僕はにこりともせずに周囲を睨むように険しい目付きをした人間になった。元々、ろくに笑わない人間ではあったけれど。もう、僕は疲れ果てていた。
結局、僕は全てに絶望して自殺した。線路に飛び込んで・・・
・・・・・・・・・
そうして、僕は神王を前に選択した。僕の回答をした。
・・・・・・・・・
・・・目を覚ますと、其処は古びた木造の家だった。此処は何処だ?僕は何故、此処に居る?そんな事をぼんやりと考えていると、そっと僕の手を握り締める者が居た。黒髪に綺麗な青い瞳の女性だ。
僕は、この女性を知っている?不思議な感覚に包まれながら、僕は口を開いた。
「・・・母さん」
「目を覚ましたのね・・・シリウス」
涙ぐんだ瞳で僕を見るその女性。そうだ、僕の名前はシリウス。この女性は僕の母親のマーヤー。
よく見ると、母の隣にベッドに縋り付くように眠る、双子の妹のミィの姿がある。そうだ、僕は山で妹と遊んでいたら急に頭が痛くなって・・・。どうやら、その後倒れたらしい。
僕は自らの記憶の整理をする。僕の名はシリウス、エルピス伯爵領の辺境の村に住む魔女マーヤーの息子で名をシリウスという。双子の妹に、ミィが居る。
僕は村の裏山で妹と良く遊ぶ、活発な少年だったらしい。
しかし、どうやら僕は前世の記憶を取り戻したらしい。それも、恐らくは神王の計らいだろう。
神王デウス———僕は、あの後彼の提案を受けて転生をした。その転生後の姿が、今の僕らしい。
・・・そう、僕は前世の記憶を取り戻したのだろう。今、此処で。
「・・・シリウス?どうしたの?」
「ううん、何でも無いよ。ごめん、母さん・・・」
そう言って、僕は母親に苦笑を向けた。僕の人生のやり直しが今、始まった・・・




