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ステラセイド  作者: うつつ戯言


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9/21

ダンジョン攻略で修行せよ④

 ――『ガガ……ピピピピピ……修復プロセス、完了』


 機械的な音声が響いた直後、巨像の全身から放たれていたランプの色が、不気味な『赤』から、妖しい『紫』へと変色した。


「おいおい、冗談だろ……」


 俺は咄嗟に巨像から距離を取る。


 再生を果たした巨像の身体は、先ほどまでのゴツゴツとした岩の塊から、表面が滑らかに削ぎ落とされた鎧を全身に纏ったフォルムへと変形していた。さらに、両腕の岩石が鋭く伸長し、巨大な二振りの剣のような形を形成している。


(色が変わった……。見た目も、あからさまに攻撃特化になってるぞ)


 紫に発光する巨像が、両腕の剣を擦り合わせながら俺に向けて走り出す。

 先ほどの弾丸のようなタックルに比べれば速度は落ちているが、それでも巨体に見合わぬ異常な速さだ。距離を取ろうと後退する俺の脚より、巨像が追いつく方がはるかに早い。


「なら、近づかれる前に撃ち抜く!」


 俺は左手に極限まで魔力を圧縮し、最大出力の『魔装弾』を乱れ撃った。


 漆黒の銃撃が、迫り来る巨像の全身めがけて殺到する。


 ――ガキィィィンッ! キィンッ!!


「なっ……!?」


 弾かれた。


 先ほどは確実に岩の身体を貫いていた魔装弾が、紫色の滑らかな装甲に傷一つつけられず、すべて無力に弾き飛ばされてしまったのだ。


「なんで効かないんだよ!?」


 ダメージの手応えが全くない事実に、一瞬だけ思考がフリーズする。


 だが、戦闘中に自信を喪失するそのコンマ数秒の隙が、命取りだった。


『ガァァァァッ!!』


「しまっ――!」


 気づけば、巨像は俺の目の前まで肉薄していた。


 風を裂く音と共に、両腕の巨大な石剣が振り下ろされる。俺は必死に身を捩って剣撃の雨を躱していくが、休む間もない連撃に徐々に追い詰められていく。


(このまま躱し続けるのは無理だ……!)


 俺は腰の狩猟剣を引き抜き、『魔装剣』を発動。振り下ろされる巨像の右腕の剣めがけて、逆にこちらから斬撃を叩き込み、破壊しようと試みた。


 ガギィィィィンッッ!!!


「あ、がァッ!?」


 だが、激突した瞬間に伝わってきたのは、絶望的なまでの質量と威力の差だった。


 巨像の剣の勢いを殺しきれず、俺の身体は凄まじい勢いで吹き飛ばされた。


「ぐ、はぁッ……!」


 ドームの石壁に背中から激突し、肺から空気がすべて搾り出される。


 血を吐きながら床に崩れ落ち、霞む視界でゆっくりと迫り来る紫の巨像を睨みつけた。


(……考えろ。何が起きている)


 再生前の巨像は『剣(斬撃)』は効かなかったが、『弾(銃撃)』は効いた。


 だが、再生後の紫の巨像には、斬撃も銃撃も効かない。


 再生の前後で、発光している色と攻撃パターンが変わっている。


「……そういう、ことかよ」


 俺の頭の中で、一つの仮説がカチリと音を立てて組み上がった。


 俺の攻撃が効かないのは、威力が足りないからじゃない。巨像の色と形態が変わったことで、『無効化される攻撃の耐性』そのものが変化しているのだ。


 だとしたら、致命的だ。


 今の俺が使える攻撃技は、斬る『魔装剣』と、撃つ『魔装弾』しかない。そのどちらも効かないのなら、打つ手がない。


 完全に詰んでいる。


(俺は……ここで、終わりなのか……?)


 弱気が顔を出し、目の前が暗くなりかけた瞬間。


 脳裏に、焼き尽くされた魔女の村の光景がフラッシュバックした。


 泣き叫びながら、無理やり馬に乗せられて攫われていったルミナの顔が浮かんだ。


『――お兄ちゃんっ!!』


「……まだだ。こんな所で死ねるかよ」


 奥歯を噛み締め、俺は血に濡れた壁に手をついて立ち上がった。


 俺にはまだ、やらなくちゃならないことがある。


 ルミナを取り戻すまで、絶対に倒れるわけにはいかない。


「通用する技がないなら……今、この瞬間に開発すればいいだけだろ!!」


 目の前まで迫った巨像が、止めとばかりに両腕の剣を振りかぶる。


 俺は回避行動を取らなかった。むしろ、死の刃を振り下ろそうとする巨像めがけて、正面から飛び込んだのだ。


(斬撃がダメで、銃撃がダメなら、答えは一つしかない!)


 俺は右腕の拳に、ありったけの魔力を一点集中させた。


 禍々しく、暴力的なまでに膨れ上がった漆黒の魔力が、俺の右腕を分厚く覆い尽くす。食らえば、ただでは済まないであろう破壊の塊。


 シンプルな答え。


 斬撃がダメで、銃撃がダメなら――『打撃(殴る)』だ!!


「砕けろォォッ!! 『魔装パンチ』ッ!!!」


 即興で編み出した魔力凝縮の拳を、巨像の胴体めがけて渾身の力で殴りつけた。


 ドゴォォォォォォンッッ!!!


『ピ、ガガ……!?』


 爆発のような轟音。


 剣でも弾でも傷つかなかった紫の装甲が、俺の拳を中心に蜘蛛の巣状にひび割れ、強烈な衝撃が巨像の巨体を完全に後方へと弾き飛ばした。


 仰向けに倒れ伏す巨像。手応えは、完璧にあった。


「……やったか?」


 警戒して様子を見ていると、巨像が再び立ち上がろうと身じろぎする。


 ダメだったかと思ったその瞬間、殴った胴体の装甲からガラガラと音を立てて崩れ始め、やがて全身の石が雪崩のように崩壊した。


「はぁっ、はぁっ……」


 肩で息をしながら、俺は自分の右拳を見つめた。


 また一つ、自分の限界の壁を破った。極限の戦闘の中で、俺の感覚は今までになく研ぎ澄まされている。


 だが、俺は剣を構えたまま、全く油断していなかった。


 次階層のゲートが開かない。巨像が魔石化しない。


 何より、俺の研ぎ澄まされた直感が「まだ終わっていない」と警鐘を鳴らし続けていたのだ。


(来るぞ。……そして、次が恐らく最後だ!)


『ガガガ……これより最終形態へ移行』


 崩れ去った岩が、三度目の再生を果たす。


 今度の発光色は『青』。両腕や脚は細くなった代わりに、胴体にのみ重装甲の鎧を何重にも重ねた、まるで人型の機械のような歪な見た目へと変貌した。


 俺が次の攻撃に警戒していると、突如、巨像の胴体の重装甲が左右にガシャリと展開した。


 奥から現れたのは、眩い光を放つ球状の『コア』。そこへ、膨大なエネルギーが収束していくのが分かった。


「マズい……ッ!!」


 俺は直感で死の危険を察知し、ドーム状の部屋の壁沿いに向かって全力で走り出した。


『ピィィィィィィンッ!!』


 直後、巨像の胴体から極太のレーザーのような『ビーム砲』が放たれた。


 圧倒的な熱量が空間を焼き焦がす。巨像は壁沿いを走る俺を捉えようと、ビームを放射し続けたまま、砲台のように身体を旋回させ始めた。


 俺のすぐ後ろを追従する光の束が、硬固な石壁をバターのように溶かし、深い溝を刻んでいく。


(このまま全周されたら、ドームの天井が支えを失って崩落するかもしれない……!)


 逃げ場はない。俺は壁沿いを走りながら巨像の背後へと回り込み、距離が近くなったその瞬間、壁を強く蹴り上げて巨像の足元へと急接近した。


(紫が打撃、赤が銃撃なら……今の青い巨像に効くのは!)


 空中で狩猟剣を引き抜き、『魔装剣』を発動。


 すれ違いざまに、巨像の脚を思い切り薙ぎ払う!


 ズバァァッ!!


 思った通りだ。青の形態には『斬撃』が効く。巨像の脚が綺麗に切断され、バランスを崩してビームの軌道が逸れた。


 だが。


『修復……完了』


 切断された脚の断面から光が漏れ、一瞬にして元の脚が構築された。


 着地と同時に、俺の脳は極めて冷静に状況を処理していた。


 今の俺は、自分で言うのもなんだが異常なほど頭が冴えている。


 敵の弱点は斬撃だ。しかし、いくら外装を斬り飛ばしても一瞬で修復されてしまうなら、外側からダメージを蓄積させる戦法は全く意味がない。


 ならば、ビームを撃つために無防備に展開されている大元の動力源――あの『コア』を直接突き刺して、完全に破壊するしかない。


「――次の一撃で、終わらせる」


 巨像が体勢を立て直し、再び胴体を展開して俺にビーム砲の照準を合わせる。


 俺は、回避行動を取るのをやめた。


『ピィィィィィィンッ!!』


「うぉぉぉぉぉぉぉお!!」


 迫り来る極太の熱線めがけて、俺は真っ直ぐに突っ込んだ。


 走りながら右手を前に突き出し、掌に黒い魔力を極限まで収束させる。先ほどの『魔装パンチ』の応用。打撃用の魔力をさらに平たく、硬く圧縮展開し、即席の『魔力の盾』を形成する!


 バチバチバチィィィッッ!!!


「ぐ、おぉぉぉぉぉっ!!!」


 右手の盾とビームが激突し、凄まじい反発と熱が俺を後方へ吹き飛ばそうとする。


 だが、俺は歯を食いしばり、大地を強く踏みしめ、ビームの奔流を押し返すように一歩、また一歩と前へ進んでいく。


 右手の皮膚が焼け焦げ、肉が悲鳴を上げている。


 構うものか。ここで一歩でも引けば、俺の負けだ。


「これで!終わりだぁぁぁあ!」


 ビームを強引に押し掻き分け、巨像の懐へ潜り込んだ。


 即座に左手に握りしめた『魔装剣』を、無防備に光る胴体のコアめがけて、渾身の力で突き刺す!


 パキィィィンッッ!!!


 ガラスが砕けるような甲高い音が響いた。


 漆黒の刃に貫かれたコアが粉々に砕け散り、同時にビーム砲の光が完全に消失する。


『ピ……ガ……機能、停止……』


 巨像の瞳の光が消え、今度こそ完全に、ただの重たい機械の塊となって地に伏せた。


「はぁっ……はぁっ……」


 俺は剣を杖代わりにして、その場に膝をついた。


 盾として酷使した右手は真っ黒に焦げ、強烈な痛みで感覚がなく、もう指一本動かす力も残っていない。


 もし、これで真・最終形態とかなんとかで再生されたら、今度こそ勝ち目はない。


 ゴトッ、と。


 倒れた巨像から機械音が発せられ、その巨体がビクビクと痙攣した。


「まじかよ……嘘だろ……」


 絶望しかけた、その時だった。


 巨像の全身が眩い光の粒子となって空間に溶け、跡形もなく消滅した。


 後には、静けさと共に、淡く発光する大きな『魔石』だけが残されていた。


「……今度こそ、倒した……」


 全身の力が抜け、俺は仰向けに冷たい石畳の上へと倒れ込んだ。


 疲労と痛みの限界だった。


「全く、とんでもない無茶をするやつだ」


 呆れたようなため息と共に、視界の上からイヴミラが顔を覗き込んできた。


 彼女の温かい手が俺の右腕に触れ、優しい治癒の魔力が流れ込んでくる。痛みが引いていくのを感じながら、俺は力なく笑った。


「無茶でもしないと、この先……王都と戦っていけないだろ?」


「……ふっ。違いないな。」


 イヴミラが僅かにに微笑んだ、その時。


 巨像が元々いた部屋の中心部で、ゴゴゴと音を立てて床の扉が開き、青黒い渦を巻く『次階層へのゲート』が現れた。


 第二階層、試練突破。


 俺の戦いは、着実に未来へと繋がっていた。


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