魔族との邂逅⑧
俺のライフは残りわずか『2』。盤面にはユニットが一体もいない絶望的な状況。
だが、全然諦めてなんていない。
俺はドローの後、黒マナを追加し勝利の布石を打っていく。
「まずは黒魔法、クラス3『黒の奔流』を発動! 1枚ドローし、アナザーフィールドに黒魔法が存在するため、俺のライフを2回復する! 」
「チッ、姑息な延命を……!」
黒い魔力の波が俺の身体を包み込み、傷を癒やす。『黒の奔流』は低コストで使いやすいためいつも初動で使っているが、中盤以降でも使用すればライフ回復を見込める良いカードだ。
続いて、新たな黒魔法を俺は使用する。
「黒魔法、クラス4『黒の斬撃』を使用! アナザーフィールドに黒魔法が2枚以上存在するため、手札を1枚捨てることで、クラス6以下の敵ユニットを破壊する! 消えろ、『緑角の小悪魔』!」
俺の放った漆黒の斬撃が、ギヴァーのフィールドに居座る小悪魔を両断し、光の粒子へと変えた。役目を終えた『黒の斬撃』もまた、アナザーフィールドへと送られる。
「そして、ガーディアンゾーンにクラス6『黒の回復術師』を召喚! 召喚時効果により、アナザーフィールドにある黒魔法の枚数分ライフを回復する!」
回復術師の杖から放たれる癒やしの光が俺を包み込み、ライフを3回復し合計『7』まで持ち直した。
さらに『黒の回復術師』は召喚したターン中、アナザーフィールドにある黒魔法1枚につきBP+1され、3枚以上あればさらに+1される。元々のBP7と合わせて合計はBP11となり、ギヴァーのベヒモス(BP10)を倒すことができる。
俺は反撃に出るべく、バトルフェイズを宣言した。
しかし――
「我がベヒモスの前で、その程度の雑兵が動けると思うか?」
ギヴァーが鼻で嗤う。
その瞬間、ガーディアンゾーンに聳え立つ『緑角の獣王ベヒモス』が地響きのような咆哮を上げた。圧倒的な威圧感がフィールドを支配し、俺の回復術師が恐怖で身をすくませる。
「ベヒモスのガーディアンスキル!コスト6以下のユニットが攻撃するためには、マナを1つ支払わなければならない!」
「なにぃ!?」
俺は背後のマナを確認する。回復と除去に全てのマナを使い切ってしまっており、攻撃のためのマナが1つも残っていなかった。
ベヒモスを倒す絶好の機会を失った。これがクラス8の力……なんて圧倒的なんだ。
「……攻撃は不可能だ。ターン終了」
俺は成す術もなく、ターンを終了するしかなかった。
【プレイヤー:7】
【エネミー:10】
「クハハハ! 我がベヒモスの前には全てが無力だ! 俺のターン!」
ギヴァーのターンが始まる。倒せなかったベヒモスが再び行動可能になる。
「クラス6『緑角の小悪魔』を召喚し、効果によりエクストラマナを1つ獲得! さらにクラス5『緑角の狼』を召喚!
一気に2体のユニットを召喚された。ベヒモスも合わせてギヴァーのフィールドにはユニットが3体も存在する。
俺が勝つためには、これから繰り出されるであろうユニット達の猛攻をを乗り越えなければならない。
「さぁ、蹂躙の時間だ。バトルフェイズ開始時、ベヒモスの効果でエクストラマナを2つ消費し、BPを+3、そして貫通を得る!」
ベヒモスの筋肉が異常に膨張し、凶悪な角に破壊の魔力が宿る。
「まずは邪魔なガーディアンを粉砕しろ! ベヒモスで『黒の回復術師』に攻撃!」
ベヒモスの圧倒的な突進が回復術師を粉砕した。そのまま『貫通』の効果が衝撃波(4ダメージ)となって俺を襲いかかろうとする。
「『黒の回復術師』の破壊時効果発動!」
俺は素早く手札の『黒の魔弾』を1枚捨てた。
「ガーディアンゾーンの回復術師が破壊された時、手札を1枚捨てることで貫通によるダメージを無効化する! さらに、今捨てたカードが『黒魔法』だったため、俺のライフを2回復する!」
粉砕された術師の残滓が、黒い壁となってベヒモスの衝撃波を完全に相殺。同時に俺の傷を癒やし、ライフは『9』まで回復した。
さらにガーディアンのユニットが破壊されたことで、俺はエクストラマナを追加する。
「チィッ、しぶとい奴め! だが、小悪魔と狼の追撃は躱せまい!」
ギヴァーの苛立った号令と共に、『緑角の小悪魔』が俺に攻撃を仕掛け、3ダメージを与えてくる。
続いて、『緑角の狼』が牙を剥く。
「『緑角の狼』は、このターンにエクストラマナが2つ以上消費されている場合、BP+2、AP+1の強化を得る! 」
強化された狼の一撃が俺の身体を深く切り裂く。外傷は無いが激しい痛みが全身を襲うとともに、俺は3ダメージを受けた。
一気に6ダメージを受け、ライフは残り『3』まで削られた。
「これで終わりだ! 2マナを使用し、スキル『魔旋風』を発動! エクストラマナを消費しているため、貴様に直接3ダメージを与える!」
俺の残りライフと同じダメージ量を持つ、魔力の暴風が放たれる。
勝負あったと確信し、ギヴァーは勝利の笑みを浮かべていた。
だが――俺は慌てることなく、先程獲得したエクストラマナを使用した。
「勝負はこれからだ!エクストラマナを消費し
、クラス4『黒の鎧』を発動!」
「馬鹿な!?」
勝利を確信していたギヴァーから、これまでの言動からは想像もできないほどの驚愕の声が発せられた。
「『黒の鎧』はアナザーフィールドに黒魔法が存在するため、エクストラマナ1つを消費して発動できる! 受けるダメージを『0』にする!」
俺の身体を漆黒の魔力装甲が覆い尽くす。
「な、に……!?」
『魔旋風』は『黒の鎧』に触れた瞬間に霧散した。俺は1ダメージも受けることはなかった。
効果を発揮した『黒の鎧』はアナザーフィールドに送られる。
「……ターン、エンドだ」
ギヴァーはギリッと奥歯を鳴らし、忌々しそうに宣言した。
【プレイヤー:3】
【エネミー:10】
ライフ・ユニットの数は依然としてギヴァーが圧倒的に有利。
だが、俺のアナザーフィールドには十分な枚数の黒魔法が溜まっている。準備は全て整った。
「いくぞ、ギヴァー。超越宣言!!!」
フィールド全体が、俺から溢れ出す漆黒の魔力に共鳴して激しく震動する。
「クラス7『黒の大魔女イヴミラ』を盟約召喚!!」
足元に巨大な黒い魔法陣が展開され、そこから漆黒のローブを纏った美しき魔女――イヴミラが、圧倒的な魔力を伴ってフィールドに降臨した。
「私を盟約召喚したんだ。今回も勝たせてやる、アルス」
イヴミラが高らかに勝利宣言をする。前回の騎士団長との試合では、俺の知識不足で盟約カードであるイヴミラを盟約エリアにセットしなかったせいで、デッキから引くしかなかったが、今回はちゃんと盟約エリアにセットして、そこから盟約召喚をした。
恐らく彼女の「私を盟約召喚したんだ。」という言葉は、前回の失敗をイジってきてるのだろう……。
イヴミラの言葉を聞いたギヴァーが怒りを露わにして声を上げる。
「勝たせてやるだと?この絶望的な状況で、どうやって勝つつもりだ!?貴様達はどうやっても俺に勝つことはできない!」
俺の相棒は、ふわりと微笑みながらギヴァーを冷たく見下ろした。
イヴミラは、俺の勝利の戦略を理解しているのだろう。
「イヴミラのオーバースキル発動! デッキから黒魔法クラス6『黒の闘気』を手札に加える! 」
今加えたこの『黒の闘気』こそ、この戦いを勝利に導くキーカードだ。
「さらに、クラス6『黒の魔導士』を召喚! 召喚時効果で手札を1枚捨て、アナザーフィールドにある『黒の魔斬』を使用する!」
黒の魔導士が手持ちの魔導本を広げ、アナザーフィールドにある漆黒の斬撃を、『緑角の小悪魔』目掛けて放つ。
不気味な笑みをひたすら浮かべていた小悪魔を、『黒の魔斬』は一瞬にして真っ二つに切り裂いた。
「今度こそ引導を渡してやる!バトルだ! 『黒の大魔女イヴミラ』で、『緑角の獣王ベヒモス』にアタック!」
クラス7のイヴミラなら、ベヒモスのガーディアンスキルであるクラス6以下のアタック時にマナを支払う効果は適用されない。
後続の攻撃のためのマナを温存できる。
「ベヒモスのBPは10だ! 貴様のユニット如きで勝てるわけが――」
単純にユニット同士がバトルするだけならベヒモスは倒せない。だが、俺のデッキはユニットのパワーゲームをするものじゃない。黒魔法を駆使して、臨機応変に戦うことができる。
「イヴミラのアタック時効果! 手札の黒魔法、クラス6『黒の闘気』を、コストを支払わずに使用する!」
「コストを払わずに使用できるだと!?」
イヴミラのアタック時効果、対戦相手は毎回驚くよな。コスト払わずに高いクラスの魔法が使えるのは流石に強いか。
イヴミラの身体を、燃え上がるような黒い闘気が包み込む。
使用済みの『黒の闘気』はアナザーフィールドへ送られる。
「『黒の闘気』により、イヴミラのBPは+3され合計BP12となる! ベヒモスを消し飛ばせ、イヴミラ!!」
「その巨体、消し去ってやる!」
イヴミラから放たれた極大の闇が、獣王ベヒモスを飲み込み、跡形もなく消し去った。
「ば、馬鹿な……俺の最強のガーディアンが……ッ!」
ギヴァーはガーディアンユニットが破壊されたことでエクストラマナを獲得するが、そんなものはもう意味を成さない。
「さらに『黒の闘気』の効果で、アナザーフィールドに黒魔法が3枚以上あるために、ガーディアンユニットを破壊したイヴミラはスタンド状態(行動可能)となる! 」
「なん、だと……」
ギヴァーの顔が青ざめる。『黒の闘気』によって、ガーディアンユニットとのバトルによって行動不能になったイヴミラがもう一度攻撃可能になった。
これでギヴァーのライフ10を一気に削り切れる!
「奴を守るユニットは消えた! 『黒の魔導士』でプレイヤーにアタック!」
「ぐぁぁッ!?」
魔導士の放った魔法弾がギヴァーに直撃し、3ダメージ。
「追撃だ! 『黒の大魔女イヴミラ』でプレイヤーにアタック!!」
「まったく、ユニット使いが荒い契約者だ」
イヴミラは軽口を叩きながら、腰に据えていた剣でギヴァーを切り裂き3ダメージを与えた。ギヴァーのライフは一気に『4』まで削り落とされた。
「ハァ、ハァ……! だが、お前の攻撃もここまでだ! 俺のライフを削りきれなかったな!」
満身創痍のギヴァーが吠える。
だが、俺の超越宣言は、こんなものでは終わらない。
「イヴミラのバトル終了時、効果発動! アナザーフィールドにある『黒の斬撃』を指定し、魔装召喚を行う!」
「魔装召喚だと……!?」
アナザーフィールドから溢れ出した漆黒の魔力が剣の形成する。イヴミラの手に収まった瞬間、彼女の姿が戦闘に特化した美しい鎧を纏った姿へと変化していく。
「斬撃属性を媒介に魔装召喚! 『黒魔装イヴミラ・魔斬』!!」
「この刃で、貴様に引導を渡してやる」
新たな姿となったイヴミラが、刀身をギヴァーへと向ける。
「いけ!イヴミラ! これが最後のアタックだ!!」
「無駄だ! そのユニットのAPは3! 俺のライフはまだ4残っている!」
「それはどうかな! 『黒魔装イヴミラ・魔斬』は、アナザーフィールドにカードが4枚以上存在する場合、APが+2されるんだよ!!」
「なっ――!?」
ギヴァーが絶望に顔を引き攣らせた。
アナザーフィールドには、『黒の奔流』が2枚、『黒の斬撃』が1枚。そして、さっき使用した『黒の闘気』を合わせて4枚だ。
幾度となく黒魔法を使用してきた俺のアナザーフィールドには、この時のためのカードが蓄積されていた。
「合計5ダメージだ! これで終わりだ!ギヴァー!!」
「一撃で楽にしてやる!『魔剣の一閃!!』」
黒魔装イヴミラが放った、空間そのものを切り裂くような巨大な漆黒の一閃。
「ばかなぁぁぁあ!!!」
イヴミラの一撃はギヴァーの星の加護をいとも容易く粉砕し、その巨体をフィールドの果てまで吹き飛ばした。
【エネミー:0】
「星の聖戦の終了を確認。勝者、アルス」
星の意志たる無機質な音声が響き渡る。
ライフが0となり吹き飛ばされたギヴァーは、白目を剥いたまま気絶してる。俺の完全勝利で、この星の聖戦は幕を閉じた。




