6.ルイ王子の秘密
お忍びで私の部屋を訪ねてきたのは、側妃のマーガレットと第二王子のルイ。
第一王子のフリードリヒが死んで一番得をする人たちだ。
身の危険を感じつつも、仕方なく部屋に招き入れることにした。
さて相談事とは何だろうか。
「どうぞ、お入りになってください。お茶も何もお出しできないですが……」
「かまいません、こんな夜更けに、しかも今日あんなことがあったばかりにもかかわらずお招き入れてくださり感謝しております」
あんなこと……フリードリヒが死んだことは秘匿にされたが身内であるマーガレット妃には伝えられたらしい。
とりあえず2人にはソファーに座ってもらった。2人に怪しい様子はない。
念のため忍ばせておいた短剣の出番はなさそうで安心した。
私も2人と対面のソファーに座って、まじまじと2人を見つめた。
マーガレット妃とルイ王子。2人ともこうして対面するのは初めてだった。
マーガレット妃は私が目覚めた日にこの部屋を訪ねて来ていた。中には入ってこなかったけれど。あとはフリードリヒとイリスの婚約発表パーティの日に見かけたのみ。
ルイ王子に至っては初めて見た。原作の乙女ゲームにも存在しか書かれていなかったし。
ルイ王子は、ヘンリーを碧眼にしてそのままちっちゃくしたような子どもだった。ボルドー公爵家特有の燃えるような赤い髪はマーガレット譲りで、碧眼は王家譲りか。
病弱と聞いていたが……やや華奢で女の子のように見えるものの、いたって健康そうな子どもに見える。
「えーっと、義母上、どういったご用件でしょうか?」
「こうして話すのは初めてですね。6年前貴女が目覚めたと聞いて、その姿一目見ようと思いこの部屋の前まで来ました」
柔らかな口調で、思ったより穏やかな人だという印象を持った。
「貴女の姿は陛下にも、シルビア王妃にも似ておらず……ほっとしました」
「母上、それは王女殿下に失礼かと……」
言葉を発したルイ王子の声は10歳にしては少し甲高いようにも聞こえた。
「えーっと、よく言われます。あの、それよりもご用件をお伺いしてもよろしいでしょうか?」
「……貴女にお願いがあってまいりました。陛下は王女殿下のことを特に目にかけていらっしゃって、もしかしたら貴女の言うことなら聞き入れてくださるかもしれません」
王に気に入られている自覚はあるけれど、何を王に乞えというのだろうか?
フリードリヒが死んだから王位継承権はルイのものだし、わざわざ私が口を挟むこともないと思うのだけど。
「貴女は私がルイを王座につけるためにフリードリヒ王子を殺害したと思っているかもしれません。……ですが、それは違います。私はルイを王座につけたくないのです。どうか陛下に次期国王にはルドー公爵家のヘンリーかエヴァンス公爵家のセシルをお立て下さいと、貴女から進言していただきたいのです」
「えっ? 何でですか? だってルイ王子が王になれば貴女は国母ですよ、名誉なことじゃないですか。それに、えーっと……、私が見たところ、あくまでも外見からの所感ですが、ルイ王子は病弱というわけではないですよね? それなのに何故?」
「王になれば一生自由はありません。……私はこの子を手放したくないのです」
まぁ一理あるし、子離れできないママと思えば確かにそうも見えてくる。しかし釈然としなかった。
元々マーガレット妃は王妃になるべく育てられた人物だし、そういった分別は叩き込まれてきたはず。なのにそれが理由って釈然としない。
考え込んでしまった私を見て、ルイ王子が言葉を発した。
「母上、本当のことを言いましょう。そんなうわべだけの理由では、賢い王女殿下は納得しませんよ」
おい、やっぱり嘘かよ。
「信じていただくには丸裸になるしかありませんよ、母上。……初めまして、姉上。私はルイといいます。嘘をついてごめんなさい、私は病弱でも何でもないんです。でも王にはなれません。……私は貴女の…………妹です」
なっ何だってー!?
ルイ王子は衝撃の妹発言をして、突然衣服を脱ぎ始めた。
ちょ、丸裸ってそういう意味か!
流石に全部取っ払いはしなかったけれど、あれよあれよという間にルイは上半身裸、下半身も下着だけになってしまった。
股間にモッコリはなし。胸には晒を巻いていたが、それを外すと胸は腫れ物とかではなくてBカップくらいに膨らんで見えた。前世に引き続き万年Aカップの私よりは確実にあった……。泣いてはない、泣いてはないぞ。
ルイのその姿を見たマーガレット妃は、とうとう観念したように全てを白状した。
「私は元々王妃になるはずでした。疑うことなくただ真っ直ぐにリチャード陛下を愛していました。しかし陛下の心はシルビアに移ってしまい私は王妃にはなれなかった。……恨みました、私の友人として親しくしていたシルビアが私を裏切ったと。……それ以上に陛下が憎かった!」
恨んだというシルビア王妃のくだりよりも、明らかに王に対する憎しみの部分には力がこもっていた。
「結局私は側妃として王の妻にはなりましたが、陛下への愛情は消え失せていました。陛下はシルビアに夢中で私は捨て置かれましたが、私はそれでいいと思いました。このまま城の片隅で静かに生きていこうと思っていました。なのに……」
そこまで言っていったん言葉を切ったマーガレットは、突然テーブルを両手でバンッとぶっ叩いて立ち上がった。
「マッマーガレット妃!?」
突然の行動にビックリした!!
マーガレットは明らかに激昂している。
「なのにあの男ときたら! シルビア王妃がもう子供を産めないだろうから、もう1人王子がいないと心配だからとか言って私に手を出してきて!! ルイを授かったのは嬉しかったけれど、あの男マジクズだわ!!」
ついに陛下ではなくあの男&マジクズ呼ばわり! いや、マーガレットの話を聞く限り、マジでパパ上クズやんって話になる。
「いや、それ、ホント父がすみません……ホントマジクズのウ〇コ野郎ですね」
「ごっごめんなさい! つい……言葉が過ぎました」
マーガレットは少し冷静になったのか、ソファーに座りなおした。……切れやすいのはボルドー公爵家の血筋だろうか、流石ヘンリーと同じ血が流れているだけのことはあると思った。
「こほん……失礼いたしました。そのようなわけで娘のルイを産んだのですが、王女であればいつか他国に政略結婚の道具として嫁がされてしまいます。そうなってしまえば二度と会うことが出来なくなるかもしれないし、万一嫁ぎ先の国と戦争にでもなれば真っ先に殺されてしまう……。そこで、この子を男の子として育てることにしました。幸いフリードリヒ王子という王位継承者がおり、この子が王になるようなことはない。陛下はもう1人王子が欲しかっただけですから、これでもう私にも手を出してくることはないだろうと……そう思っていたのに……。もしこの子が王になったらすべてバレてしまう」
「そうでしょうね、もしバレたら王を欺いた罪に問われるかもしれませんし。確実に貴女とルイ王子は引き離されることでしょうから」
「私たちにはもう何も隠すことはありません。どうか私たちを信じてください、助けてください」
そう言ってマーガレットは深々と頭を下げた。ルイも同様に頭を下げている。
本当にどうすんのよこれ、どうすんのよ……マジで。
それにしても父上マジクズ過ぎやん。
◇◇◇
まとまらない思考のまま、気が付いたら陛下に掛け合ってみますと返事をしていた。
「あの、あなた方のことは信じます。そのような秘密を教えて下さったのですから。陛下に進言してみます。でも陛下がそれを受け入れてくれる保証はできません。それでもいいですか?」
「もちろんです、この子は病弱なので王にはなれない。そう進言してくだされば、きっと大丈夫……」
祈るようにマーガレットは呟いた。
マーガレットのいうことは本当だろう。嘘偽りなくマーガレットはルイを王にしたくない、例え性別を偽っても玉座なんてまっぴらだという顔をしている。
もしこれで全部演技だったら、人間不信になるわ。
マジで。
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