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原作崩壊した世界で男装王女は生き抜きたい  作者: 平坂睡蓮
第一部 第2章 呪詛と陰謀
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7.マーガレット妃の証言

 ルイ王子は、王子ではなく王女だった。


 ということは王家直系男子の王位継承者はいなくなってしまったということになる。

 もうこれはどうしようもない。


 そうするとだ、国法に従い次の王はボルドー公爵家のヘンリーかエヴァンス公爵家のセシルということになる。


 しかしボルドー宰相とエヴァンス将軍の話を盗み聞きしたところによれば、王家には『王になる男はみんな死ね!(意訳)』のシルビア王妃の呪詛がかかっている。

 仮にヘンリーかセシルが王になったところで死ぬだけではないのだろうか?


 マーガレット妃の申し出については、別に私が王にそれを進言することは構わない。ルイ王子は今までボロを出さないようにするためだろう、病弱キャラを貫いてきたし。そんな虚弱な王子よりも健康な2人を推したほうがいい。


 王位を継承する可能性が高いのはヘンリーの方だ。最近ぐれてしまっているようなのは心配だけど……。

 ヘンリーはルイ王子の従兄弟にあたるわけだし、かつてエヴァンス公爵家のシルビアが王妃の座をボルドー公爵家のマーガレットから盗ってしまったということを考えれば、セシルを王にするのはボルドー公爵家を蔑ろにしすぎている。


 どちらにせよだ……、私の手に負える話ではない。


 王に進言はするが、その結果にまでは責任は持てない。全て決めるのは王だし、王の決定に私たちは従うしかない。

 呪詛についても魔力のない私ではどうしようもない案件だった。


「いいでしょう、わかりました。明日にでも陛下に進言してみましょう」

「ありがとうございます! 何とお礼を言っていいのやら……」


 涙ながらにマーガレットはルイを抱き寄せて喜んだ。


「先ほども言いましたが希望通りになるとは限りません。……それとお礼が替わりといっては何ですが、いくつか私の質問にお答えいただけませんか?」


 せっかくだ、マーガレットからも情報収集をしておこう。マーガレットは私に動いてもらいたい一心だから、私に不審を持たれるような答えはできないはず。

 今のうちに情報を引き出してしまおう!


「なんでも、私が知っている範囲であれば……」

「ではまず、私の母シルビア妃が何故死んだかご存じですか?」


 原作の乙女ゲームではマーガレット妃がシルビア王妃殺害の容疑者扱いされていた。

 しかしマーガレットの様子だと、シルビアよりも王の方をより強く恨んでいるように思える。実際のところどうだったのか気になった。


「……当時王妃様を殺害したのは私ではないかという噂が流れましたが、私は無関係です。城に側妃として召されてから、一度もシルビア王妃には会っておりません。王妃様は亡くなる以前からご病気だったと聞いていました。身体もあまり強くなかったようですが、亡くなるころには心のご病気だったとも……」

「シルビア王妃が精神を病んでいた?」

「原因は分かりませんが。シルビア王妃の最期は、陛下と兄上……ボルドー宰相とエヴァンス将軍が看取ったと聞いておりますので、そもそも他殺ということではないかと」

「それでは、その時シルビア王妃は何か言い残したとか聞いていませんか?」


 シルビアは死ぬ間際に呪詛の言葉を吐いた。それを彼女は知っているのだろうか?


「? いいえ、何かおっしゃっていたのですか?」

「すみません、変なことを聞いて。ご存じのように私は8歳まであの有様だったので、母について知りたかっただけです」

「そうでしたね、貴女のことはシルビア王妃自らが世話をしていたと聞いています。乳母もつけず献身的だったと」


 マーガレットはシルビアの最期の言葉を知らない。

 この点についてはこれ以上情報は得られそうにない。なので、適当に話をはぐらかした。


「義母上が知っている母上はどのような人でしたか?」

「……浮舟」


 少し考えた後マーガレットはそう答えた。


「大河に浮かぶ船のように、流されていくような儚い女性でした。強い人ではなかったと思います。だから余計に気に病んで病に伏したのかもしれません。……世の中には未だにシルビア王妃が色仕掛けで陛下を誑かして王妃の座を得たというものもおりますが、私はそうは思っていません」

「……私はてっきり母上のことを憎んでいると思っていました。……そうですね、ドクズのくそ野郎は父上でしたね」


 浮舟と言えば前世で源氏物語という古典文学の傑作があったけれど、あれの2部にあたる宇治十帖のヒロインは浮舟と呼ばれていた。

 儚く流されていくだけの浮舟……そんな性格のシルビアが最期にあれだけの呪詛を吐いて、おそらくその禍は実際にフリードリヒを死に至らしめた。


 しかし実行者は別だ。

 誰かがシルビアに呪詛を教え助け、そしてフリードリヒを殺すために媒介となる人毛の灰を飲ませ呪詛を発動させたのだ。


「……最後の質問です。貴女は魔法が使えますか?」

「フリードリヒ殿下は呪詛で亡くなったと聞きました。王女殿下は私が呪ったとお考えなのですか?」

「いいえ。……実は兄を死に至らしめた呪いは誰がかけたのかは既に予想できています。しかしその人物は既に故人なので、今回の事件については誰か別の人間が実行したと考えています」

「故人……まさか、シルビアが?」


 しまった、少しマーガレットに情報を与えすぎた。


「……断定はできませんけれど、あくまでも可能性です」

「私は魔法が使えます。強いものは使えません。得意なのは植物に関するものです」

「植物ですか?」


 植物と聞いてゲルバ草が脳裏をよぎった。……いや、あの毒草は野山に普通に生えているらしく、入手は案外容易だから、マーガレットと結びつけるほどのことではなさそう。


「育てるのが得意というか、季節問わずどの植物でもすぐに育てることが出来ます。今は冬ですが、食べたいと思えばマンゴーもスイカもきゅうりもすぐにできます」

「それは凄い……」


 何か思ったよりも凄そうな魔法が得意のようだった。


 なんかこんなところでやりたくもない妃やっているよりも、農業とかガンガンやればめっちゃ稼げそうだった。季節に左右されずに植物を育てられるということは、夏に冬野菜、冬に夏野菜ができるということ。つまり高く売れる。

 もったいない人材だなぁ……。


 あらかた聞いたところで時刻も0時近く。そろそとお開きということになった。



 ◇◇◇



「すみせん、もう一つ追加で聞いてもいいですか?」


 2人を部屋の外に送っていくときに、1つ聞き忘れていた重要事項を思い出した。

 あっぶねー、これ聞いとかなきゃやばかったわ。


「かまいませんよ、何でも答えられる範囲であれば」

「ルイ王子……王女? の本当の性別を知っている人は他にもいますか?」


 そう、その質問。

 いくらルイを外に出さないで育てていたからと言って、マーガレット一人で隠し通せるものじゃない。

 協力者がいるはず。私も把握しておかないと、後で足元をすくわれかねない。


「すみません、大切なことをお伝えし忘れておりました。ルイのことを知っているのは2人おります。1人は侍女長のクラリッサ、彼女は昔からの親友なので、色々この子のことを隠すのに協力してくれました。もう一人は、アニムス教会のラフィール教皇です」

「……ラフィール教皇ですか」


 思いっきり頬が引きつってしまった。あの綺麗なヤバイお兄さんかよ……なんでよりによってあの人の不幸が大好きそうな人が知ってんのかなぁ!?


「元々はルイのことを隠そうとは思っていなかったのですが、ラフィール教皇が王子として育てれば万事うまくいくと……。そうおっしゃってくださり、この子を王子として育てることにしました。教皇様にはそれ以降も色々便宜をはかっていただき、本当に助けていただきました」

「そっそうでしたか……」

「それでは、何卒陛下への進言お願いいたします。それでは失礼いたします」

「失礼いたします王女殿下、よろしくお願いいたします」


 そう言って親子は手をつないで自分たちの部屋がある方角へ去っていった。



 一方部屋に戻った私はベッドに倒れこんで呻いた。


 何かやっぱりラフィール教皇の言動はおかしい気がする。

 人の不幸を楽しんでいるような態度もそうだったけれど、王女を王子だと偽ることをマーガレットに吹き込むなんて。冷静に考えれば危険極まりない。


 原作には教会についてあまり記述はなかったし、ラフィール教皇自体登場していなかった。


 これが原作を掻きまわした結果なのか……。


 原作崩壊、その言葉が重くのしかかってきたのであった。

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