プロローグ
「これは白い結婚だ」
ウイザリオン侯爵の言葉が硬質な響きを持って執務室に落ちる。
「もちろんでございます」
自分が守るべきものを胸に抱き、ウイザリオン侯爵の言葉へ私は頭を下げることなく了承した。
白い結婚じゃないと言われたら、プルーファリ公爵家へ逃げ帰る事案である。
「屋敷内での待遇は相応しいものを用意したつもりだ。不足があれば家令に伝えてくれ」
私に向けた言葉に、既に確認済みの室内を思い浮かべる。
防護結界が張られた窓に、悪意を弾く術式が組み込まれた部屋の扉。
全てウイザリオン侯爵によって施されたもので、学生時代に見たものより、更に緻密なものになっている。
これだけ高度な防御系術式を使えるのであれば、大金を稼ぐ事も可能だ。
そうして稼げば侯爵家の借財の返済も楽になるのだが、侯爵という身分から許されないことは彼にとっても無念だろう。
侯爵家の懐事情に興味を持っていれば、ウイザリオン侯爵孫という立場のときに留学などせず術師として稼ぐことで侯爵家を助け、両親が事故により永久の国に旅立つことも無かったかもしれないと考えれば、ウイザリオン侯爵の心情を察するに余りある。
私は頭を少し下げて、了承の意を示した。
「頭を上げてくれ。君は私の部下ではないのだから、そのような態度を取られるとバーミリオに揚げ足を取られる。もともと私たちは同級生だろう」
ウイザリオン侯爵の言葉に、だからといって学園を卒業した今、更に開いてしまった爵位の差は埋まらないと呆れながらも、私は頭を上げて詰めていた息を細く吐き出し、昔のような笑みを浮かべたが、歪んでしまったような気がした。
「プルーファリ公爵閣下とバーミリオからも伝えられて居るとは思うが、バーミリオが公爵位を継いで外交官としての任を終了したときに、この結婚は終了となる。延ばしても五年以内だ……」
そこから先の言葉は、私に聞かせる必要はないと考えたのか、紡がれることはなかった。




