第19話 決着
その後もガッシュは全ての相手を一撃で吹き飛ばしていった。
力自慢の身体強化術師だろうと、魔力自慢の魔術師であろうと。
その全てをあしらい、凄まじい体当たりで決着をつけた。
ギルバート兄上はさぞ喜んでいるだろう。
まだ自分の手駒だと思っている辺りが実に可愛らしい。
私にとって、ギルバートなど格下も格下だ。
暴力でも知能でも劣っている相手に、わざわざ敵視などしない。
あるのは憐憫、ただそれだけだ。
「す、すごいね。ガッシュ先輩、気合い入ってるよ!」
…………やはりヒイロ、お前アレに憧れてないか?
あれは自分の肉体を痛めつけることに快感を覚えているただのマゾヒストの一種だ。
………………。
「お前、Mなのか?」
「どういうこと!?」
心外だと言わんばかりに頬を膨らませて怒っている。
「口が滑った。聞かなかったことにしろ」
「それは無理だって分かって言ってるよね? 僕が唯一分からないのはヴィクティーのその脳内だよ!」
ヒイロにも分からない事があると知れたな。良い事だ。
まぁ、そんな事はどうでもいいんだ。
やはり、ガッシュは気合いが入りまくりだ。
どの相手も、相手にすらなっていない。
強大な膂力も、強大な魔術も。
その全てを跳ね返し、一撃のものに沈めている。
「次が最終戦か……思ったよりも早いな」
「話逸らしてるよね? 僕それぐらいなら分かるよ? 意地でも謝らないその姿勢には全く恐れ入るよ!」
違うぞヒイロ。
私は謝らない訳じゃない。
謝らなくても生きていけるから、謝らないだけだ。
謝っても腹は膨れない。
それに、私が謝ったら世界が破滅の道を辿ると、前世の占い師に言われた事がある。
全く信じていないが、それからは謝らないように心掛けている。
「ヒイロ、黙れ」
「やだよ! 黙らないよ!」
やかましい。
◇◇
最終戦は第一学院同士の決戦になってしまったようだ。
これで少なくとも優勝と準優勝は第一学院のもの。学院としてはどちらが勝ってもいいような展開だろう。
「やはり、ガッシュ。お前が残ったか」
「……」
試合相手から話しかけられたが、ガッシュはダンマリだ。
試合中、ガッシュは一言も喋っていない。
相手がどんな言葉を投げかけようと、どんな挑発をしてこようと、実力で全てをねじ伏せた。
そして、決勝戦が始まる。
「重装甲スタイル」
「それはもう見飽きた!」
相手貴族は何をするのかと思えば、最速での先制攻撃だ。
単純明快。
相手より早く魔術を展開するだけで大きなアドバンテージだ。
「爆破ッ!!」
凄まじい轟音と衝撃。
これでも第一学院の選抜メンバー同士の戦いだ。
学生としては最高峰。
騎士の中でも滅多にお目にかかれないレベルの戦いだ。
だが、その程度で私の矛は揺るがない。
「なん……だと……」
「……」
ガッシュは無傷のまま、漆黒の鎧を身に纏っている。
相手の男は哀れよな。
もはやガッシュは学生のフリなどしてはいない。
その実力は、帝国でもトップクラスに位置している。
今まではその絶大な戦闘力を発揮しなくても勝てていたのだろう。
誰もがガッシュの実力を見誤り、誤解していた。
ガッシュは本物だ。
私があそこまで圧倒できたのは、初見だからというのもあるだろうが、周囲の目があったからという理由も存在している。
本気を出す癖がなかった。どうにでもなると思っていた油断もある。
まぁ、今戦っても負ける気はしないがな。
「稲妻」
「ぐあぁッ!!」
そして、試合終了。
試合内容自体はなんともつまらないものだった。
私が出ていても変わらない。
私の陣営に大きな影響は一つも起きない。
だが、ガッシュ。
その心意気、その力。
この試合は終始ガッシュの力によって観客を湧かせていた。
だが、もっと目を見張るべきなのは、この後だろう。
「優勝者、ガッシュ・アドラム。前に来て一言、どうぞ!」
この対抗戦の運営がガッシュに声を渡す。
拡声器のような魔道具で、ガッシュは静かに語りだした。
「弱い。あまりにも、弱い」
会場が張り詰めたように静かになった。
「今日この瞬間まで、本気を出さずとも生き残れた。その環境が弱い。お前たちが、弱い。やり方が、弱い。全てが軟弱だ。お前たちに、帝国は向いていない」
学生がいる観客席から、どよめきが起こる。
それでも、ガッシュは語り続ける。
「そんな中でも、帝国を良い方向に舵を切ることができるのは――――ギルバート殿下。その人に間違いはない。ギルバート殿下は私を直接勧誘された。真に力のある存在に気づけていたということだ。審美眼のある御方である事は間違いない」
特等席にいるギルバートは、満足気に微笑んでいる。
そう、この対抗戦は御前試合でもあるのだ。
だが……。
「だがっ! 真に強国を作り上げるのは、ヴィクトール第三皇子殿下である! 帝国に収まることの無い強大なる力、そして知性! 今にお前たちは知ることになる。ヴィクトール第三皇子の圧倒的な支配力をな!」
ッ!
素晴らしい!
素晴らしい演説だ、ガッシュ!!
思わず私は立ち上がって拍手をしてしまった。
パチパチ。
パチパチ。
ヒイロは涙を流して私と共に立ち上がって拍手をしている。
少し離れた所にいるリズベットも、ハンカチーフを片手に拍手をしている。
異様な光景だろう。
第一学院の観客席にいるたった三人が、示し合わせたかのように拍手をしている。
「俺はそこそこ強い程度の帝国を築き上げるギルバート殿下に用はない。圧倒的な力を持つヴィクトール殿下に忠誠を捧げる!」
そのままガッシュは忠誠を示す礼を、私に向かって実行した。
チラリとギルバートの居る方へ目を向けると、憤死するのではないかと思う程に顔が赤くなって歪んでいる。
そのまま怒り狂って、なだめようとした配下の一人を斬って捨ててしまった。
帝国の皇族らしい行動ではあるが、それだけだな。
怒りに任せて行動しても良い事など一つも無い。
冷静になれば、有能な顔がまた覗くだろう。
パチパチ。
パチパチ。
私の周りから、ポツポツと立ち上がって同調する者が増えていく。
さもありなん。ここまで実力を示したガッシュが私を支持するとこの上ない場で表明したのだ。
しかも、その相手は観客席にいる。
時間が経過するにしたがって、拍手の量は増えていった。
一分も経過すれば、会場全てが拍手に包まれた。
パチパチ。
パチパチ。
私はこの世界でも支配者になる。
今日がその第一歩目だ。
ガッシュよ、期待しておけ。
お前には全ての支配を約束する。
ハハハ。
ハハハハ!
ハハハハハハハハハハ!!!!!!!!!
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第一部、終了です。
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