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死にたかった最強魔女は、300年後の世界で仲間の遺品を届けにいく  作者: かんあずき


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12 自分の中の線引きは出来ていますか?

「でも、付与するのが見られるなら俺、どうしても職業柄興味があるから見たいかな。付与術は魔法使いとはまた違う魔法の領域だろ?でも、過去の魔女が使えるなら同じ魔法を使う俺もやれないかな?」


グレンは、レグスタインに対して、言いにくそうにポツンと声を出した。


「それ、俺もな。付与した道具の力量をちゃんと自分は測れるのか、スキル確認をしてみたいんだよな」


ヘンケルも同意して、レグスタインをみる。


「そりゃ、俺だって見てみたいよ。もし付与もできるならパーティーは最強だし......」


二人の期待の満ちた視線に、思わずレグスタインはたじたじになる。


「えーっ!付与してもらえるなら俺の斧と盾を頼むよ。盾がもうボロボロなんだから」


バインまで頬を膨らませて、さらに一層会話は盛り上がり、興奮し始める。



良かった──

普通と違うことができるからって、嫌がられたわけじゃないみたい。


私は胸に手を当てて、ほっと撫で下ろす。


「お世話になる仲間なんです。もちろん、技術はお見せしますし、魔法を道具につけるのも......」


そう言いかけた。


しかし...


「落ち着け!」


キリフの一喝が響き、室内の空気が張り詰める。


「レグ!リーダーのお前がみんなと一緒に浮かれてどうする?みんなの気持ちはわかる。だが、それこそがデボラを危険に晒す根源そのものだと自覚しろ」


「私を...危険に晒す?」


私は、キリフが突然話す内容に理解ができなかった。


キリフは、深く息を吐く。


「デボラ、君にとっては当たり前の術は、世間では垂涎の的なんだ。さっき、君は『お世話になるから』と言ったね」


「はい」


何がいけなかっただろうか?


そこまでみんなが喜んでくれるものなら、かけてもいいと思うのだけど?


キリフの厳しい目を見て、注意をされていることは理解するが、何が間違えて注意されているのかが分からない。


「じゃあ、俺たちの友達にもしてくれないかと頼んだらどうする?」


「みなさんにとって親しい方なら、信頼できる方なんですよね?それなら、私にできる範囲ですると思います」


私は、何が言いたいのかわからないので、きちんと、ごまかさず、素直に答えることにした。


だが、そう答えた瞬間、みんなは言われていることが分かったのか、一斉に顔を伏せる。


「それが危険なことなんだよ。信頼できる人は口が硬いのか?違うよ。誰もが見たこともない体験をすれば、誰かに伝えたくなるものだ。家族、友達、職場、ちょっと話せば、おそらく誰もが自分も頼めないかというだろうね。」


そう言われたら、人間の心理だもの。


この5人は、パーティーでお互い共有しているから、ここだけの話に出来る。

でも、誰にも話すなと言われたら......


「どこまで頼まれたことをやるのか自分の中で線引きはあるか?」


私も、そこまで言われて、ハッとして首を横に振った。


線引きなどあるわけがない。

自分にとって、大した負担もないのだ。


知った人に声をかけられたら、武器や自分に付加をかけることぐらいしてあげると思う。


でも、それがどんどん口頭で伝わって言ったら??


家が一つ建つぐらいの技術を簡単にやったら、それを商売にしている人たちからはどう見られるだろう?


あいつは何者だ?

なんで付与ができるんだということになる。

なんでタダでやってるんだ?となるだろう。


私は膝に置いた手をぎゅっと握りしめた。

今まで考えもしなかった展開に、恐怖で握りしめた手が震える。


「ごめんなさい。せっかくレグスタインさんやキリフさんが私を守ってくれているのに、みんなを巻き込むところだった」


「デボラが悪いんじゃない。だが、君の力を利用したい者も呼び寄せてしまう。特に、中央にいる人たちにも目をつけられたら厄介だ」


そう話すキリフに、ヘンケルも苦い顔をしながら頷いた。


「確かにそうだな。中央にバレたら......デボラ、中央の奴ら、お前と縁を結びたがると思うよ。」


「縁?」


私は目をぱちぱちしばたかせる。


「簡単に言えば、ちょっとでも魔力の強い子供がほしいんだよ。今や、魔力のあるものは、神からの加護を受けた者だからね。だから、各宗派でデボラの取り合いになるだろう。デボラとの間に産まれた子は、間違いなく次期教祖にできるからな」


私はそれを聞いて衝撃を受ける。

私との......子供??


「それ、私の意志は??」


私の表情は凍りついた。


「そんなことがあったら力づくで、みんなで守りながら逃げるさ。でも、それだけ君の力は今の時代に魅力的だということだ。国を滅ぼすような戦争に利用される可能性だって否定できないんだからね」


そう淡々と話すキリフに、私はかつてを思い出し、ゾッとしたものを感じていた。


自分で言うのもなんだが、魔女は強いのだ。

昔だって、力づくで逃げることはできた。

その強さを支配するために、当時の皇帝が使っていたのは「情」だ。


親兄弟を人質に取られたり、愛する人の出世や命のためだと脅されたり、愛する人たちからも裏切られて、魔女狩りにあったものもいる。

 


「かつてと同じことを繰り返すところでした。」


呆然と呟くように声に出す。


魔女は愛される経験が少ないので、悪い男に貢ぐように魔法を使い続けたものも多い。


やがて、その男たちの子供を産み、息子で魔力があれば子供を奪われ、子供の安全すらその脅しの対象になる。


娘や息子でも魔力がない子供なら、魔女の子だと殺されたものもいる。


私も情を使われて捕まったのだ。


養母であり師匠でもあった魔女が、ダンジョンに幽閉されたと言われ、自らダンジョンに飛び込んでしまった。


偽情報にも関わらず──



結局、300年経っても変わらないのは、人の欲望や妬み、嫉みなのかもしれない。

私はそれを想像してぶるっと体を震わせ、思わず両腕で自分を抱きしめるように掴む。


「おいおい、キリフ!デボラを怯えさせるのはやめてくれよ」


そんな私を見ながら、レグスタインは頷いて微笑んだ。


「キリフのいうことはもっともなことだ。だが、俺はパーティーのリーダーとして思うが、持っている才能をただ隠して生きるような人生をデボラにしてもらいたくはないんだ」


レグスタインは、重苦しい空気を断ち切るようにみんなに伝える。


「彼女の能力を発揮する上で守るためのルールを作ったり、外に出すための方法を考えればいいだけだ。デボラが残りの人生を誰にも邪魔されないように好きなことをしてもらえるようにフォローするのが俺たちの役割なんだからね」


「じゃあ、どうするつもりだ?」


キリフはレグスタインを鋭い目で睨みつける。


「まず自分の身を守らせるのは当然なんだから、今日買ってきた武具や服は、デボラに思う存分魔法を付与してもらおう。」


「お前っ!わかってないな!」


キリフが噛み付くようにレグスタインに再び怒鳴ろうとするのを、レグスタインは笑いながら手で制止する。


「もちろん言いたいことはわかっているさ。こんなのを売っているのをみたことがない、どこで手に入れた?と言われたら困るからね。」


「じゃあどうする?」


グレンは心配そうに、レグスタインに確認するように聞いた。


「デボラが持っている素材は、いろいろ面白いものがありそうじゃないか?強そうなものを既製品の部分の一部と変えて、付与ではなく素材のおかげだと誤魔化せばいい。

そして、この素材はどこから取ってきたのかといえば、消失したダンジョンの黒竜から俺たちが取ってきたといえばいい」


レグスタインは、「俺様ナイスだろ」と自画自賛している。


「確かに名案!だれも黒竜に会ったこともなければ、300階に潜った奴もいない。中央に問いただされても、まさに黒龍由来のものですといえば、問題はない」


ヘンケルは、うなずきながら、指をパチンと鳴らして名案だと叫ぶ。


「じゃあ、まずはデボラのものだけきちんとバフをかける。それで付与の威力がどのくらいのものかをちゃんと見極めよう。

キリフの心配はオレもわかった。つい俺も研究魂に火がついてしまった」


グレンは頭をかきながら、私にすまないと謝ってきた。


「いえ、私も考えなしでした。過去に痛い思いをして分かっていたはずなのに....正直、300年経って、思った以上に私の常識だったものが変わっていて...皆さんがいなかったら私、野垂れ死にですね」


私は、持っていた穀物粥とスプーンを置いて、頭を下げた。


「300年前も、あまり人と接することがなかったので、周りと合わせることは苦手なんです。なので、遠慮せずおかしいところは言ってください。もし、私のせいで皆様にご迷惑をかけることになったら、ちゃんと出て行きます。」


「…………へっ??」



ガタン


数秒の沈黙の中、みんなハッとしたように慌てて焦ってたちあがる。


「い、いえ。あのすぐ出ていくというのではなくて...」


もしかしたら、私が今すぐにでも出ていくもしれないと思ったのかしら?


「い、いや!ここにいて欲しいし、守るつもりで言っただけだ。みんな、最強な可愛らしい女性が来てくれて舞い上がってるんだ。いや、私だって彼女すらいないのに、すっ飛ばして娘ができたようでうれしいというか...」


キリフが真っ赤になり手を振りながら慌て出し、私が出て行かないように腕をがしっと握った。


「うわぁ!言い方キツすぎなくせに、お触りしやがったな!だからモテないんだよ。おっさん!」


バインが、私の腕を掴んだキリフの手を引き剥がそうとしながら突っ込む。


「キリフ!デボラがどうより、まず俺たちの抜け駆け禁止ルールを破ったな!まず出ていくのはお前だ!」


レグスタインはそういってキリフを、指差す。


「えーっ!俺!」


キリフは真っ青になり、すまんと私に謝りパッと手を離す。


みんなその様子を苦笑いし、私もみんなと同じように笑う。


自分の迂闊な言動で、私を守ろうとしてくれる人たちの安全を脅かす可能性がある。


そして、その守ってくれる人たちへの想いを利用される可能性だってあるんだわ。


私は、二度と過去を繰り返さないと心に誓いながら、みんなの会話に耳を傾けていた。






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