別れの日 そして新生活へ
とうとう三月末になってしまった。
今日は、あかり先輩が大学進学のために僕らの街から離れる日だ。
あかり先輩からは「荷物があるから、ラッシュアワーが過ぎたあたりの午前九時以降の電車に乗るよ」と連絡があった。僕らの街は一応都会と言われる場所にある。田舎みたいに電車を一本一本調べる必要はない。昼間なら10分も待てば次の電車が来る。だからあかり先輩が何時何分の電車に乗るのか、正確には分からなかった。
そこで、あゆみちゃんと相談した結果、単純にあかり先輩の家の前で待つことにした。先輩からは「そんなに遠くに行くわけじゃないから、見送りは要らないよ」と言われていたけれど、僕らにはどうしても行かなければならない使命感のようなものが満ちていた。
午前8時頃、あゆみちゃんと豪邸の前で待ち合わせをした。着いたら、既にあゆみちゃんが待っていた。
僕は挨拶をした「おはよう」「とうとうこの日が来ちゃったね」あゆみちゃんも「おはよう」と言ってくれて、続けて「2人であかり先輩の新たな門出を祝おうね」その言葉に胸がジーンとした。でも昨夜、今日は絶対に泣かないと決めていたから、涙をぐっと堪えた。
あかり先輩を待っている間、あゆみちゃんと色んな話をした。僕の痔や女装の話をしたね。あゆみちゃんと出会えて仲良くなれたのも、全てあかり先輩のおかげだった。豪邸を見ながら、家の中で起きた様々な出来事を思い出し、笑い合った。
そんな会話をしていると、豪邸の玄関ドアが「ガチャ」と開いた。そして、あかり先輩が出てきた。リュックを背負い、大きなキャリーバッグを引っ張っている。先輩はすぐに僕らに気づいた。
「見送りはいいよって言ったじゃん」と言いながらも、顔は嬉しそうに微笑んでいた。
僕らは挨拶をして、3人で駅に向かうことにした。大きなキャリーバッグは「僕が引きます」と言って、僕が引っ張った。でもちょっと重かった。先輩に聞くと「結局ね、色々と持って行こうとしたら重くなっちゃった」と笑っていた。
僕らはあかり先輩を囲むように歩き、たわいもない会話を交わした。本当にたわいもない会話だったけれど、僕とあゆみちゃんにとって、あかり先輩と話す時間はかけがえのないものだった。たい焼き屋さんの前に着いた。開店準備中だったけれど、店長さんはあかり先輩を見つけると、
「あかりちゃん、旅行かい?」 と声をかけた。先輩はにこやかに答えた。「違いますよ! 大学進学で引っ越すんです」 店長さんは少し寂しそうに笑い、「ちょっと寂しくなるな……あかりちゃんも、もう大学生か。大学頑張ってね」と続け、「あかりちゃんも、もう大学生か!俺も歳を取るわけだな」と苦笑いをした。
あかり先輩は丁寧に今までのお礼を言いお辞儀をして、たい焼き屋さんを後にした。駅に着き、僕らは入場券を買って改札を通り、ホームへ上がるエスカレーターに乗った。上り線のホームに着くと、ラッシュアワーが過ぎた午前9時過ぎのホームは、先輩の狙い通り乗客が少なかった。
僕らの街は一応都会だから、ホームに上がって10分ちょっとも待てば次の電車が来る。つまり、ホームに出てしまったら、あかり先輩と一緒にいられる時間は長くても10分ちょっとだけになってしまう。僕は少しでも長くあかり先輩と一緒に居たかった。
だから昨夜、くだらない作戦を考えた。発車案内を見ると、次の電車はあと3分で来る表示だった。僕はあかり先輩に言った。
「僕がおごりますから、飲み物でも買ってきます」先輩は喜んで、
「嬉しいな。そうだな、蓋が出来るカフェオレみたいなのがあればそれがいいな」と言ったので、僕は自販機へ向かった。
ここからが僕の遅延作戦だった。わざと遠い自販機の方へ歩き、カフェオレを探すふりをした。目の前にカフェオレが見えているのに、次に財布を出して小銭を探すふりをした。そんなことをしていると、ホームに電車が到着するアナウンスが流れ、電車が滑り込んできた。
キィーというブレーキ音がホームに響く。僕はようやく自販機にお金を入れ、ボタンを押した。ゴトンと音がしてカフェオレのボトルが落ちてきた。取り出し口からボトルを掴んだ瞬間、遠くからあゆみちゃんの声が聞こえた。
「ゆうな君! 早く!」でも電車のドアはすでに閉まりかけていた。僕は慌ててカフェオレを持って先輩の元へ急いだけれど、電車はモーター音を奏でて発車してしまった。
「もう! ゆうな君のドジ!」「もう電車出て行ったじゃん!」あゆみちゃんは怒っていたけれど、僕の遅延作戦は成功した。ただ、たった1回しか使えない作戦だった。僕はあかり先輩に
「ごめんなさい、僕がドジで……」と謝り、カフェオレのボトルを手渡した。先輩は怒らずに受け取ってくれた。そして発車案内を見て、
「次は各停だから、次の次の快速に乗ろうかな」と優しく微笑んでくれた。あかり先輩は、僕の些細な遅延作戦をちゃんと理解してくれていたみたいだった。空いていたホームのベンチに座り、先輩はカフェオレのボトルを開けて飲み始めた。熱かったみたいで「ふーふー」言いながら「美味しいね」と言ってくれた。僕はちょっと嬉しかった。
でも、遅延作戦で延ばせた時間はほんの15分ちょっとだけだった。時間はあっという間に過ぎてしまい、快速電車の到着アナウンスが流れた。先輩はベンチから立ち上がり、乗車位置案内の前に立った。 僕は涙を必死に堪えていた。
快速電車が到着し、ドアが開いた。あかり先輩はキャリーバッグを持ち上げて電車内に乗り込んだ。そして振り返り、僕らに言った。
「ゴールデンウィークには帰って来るからね。バイバイ」そして手を振ってくれた。僕もあゆみちゃんも手を振ったけれど、声が出せなかった。ドアが閉まり、ブレーキを解除する音がして、モーター音が高まった。
電車が少しずつ動き出した。あかり先輩はまだこちらを見て手を振っている。僕らも手を振り続けた。 電車は加速し始めた。気づいたら僕は走り出していた。横にはあゆみちゃんも全速力で走っていた。でも電車はどんどん加速し、あっという間にホームから消えてしまった。
僕とあゆみちゃんはホームの端で立ち止まり、電車が見えなくなるまで手を振り続けた。電車が完全に消えた時、あゆみちゃんが呟いた。
「あかり先輩、行っちゃったよ」 僕も「行っちゃったね」と呟いた。
そして、今まで我慢していた涙が、溢れ出した。涙が止まらなかった。隣にいたあゆみちゃんは下を向いて立っていた。異変に気づくと、ホームが濡れていた。あゆみちゃんも大粒の涙を流していた。
気づくと僕らはホームの端で抱き合って泣いていた。しばらく抱き合っていたと思う。昼間のホームということもあり、僕は「帰ろうか」と言って歩き始めた。2人とも目が真っ赤で、きっと変な2人に見られていたと思う。
改札を通り、駅の外に出た。あゆみちゃんが言った。
「ねぇ、ゴールデンウィークには帰って来るって言ってたけど、変わっていたらどうする?」 僕が「変わっていたらって何が?」と聞き返すと、
「だって服飾関係の大学でしょ! 黒髪を大胆に染めていたり、ファッションが変わっていたらどうする?」 確かにそんな可能性もあると思ったけれど、僕は言った。
「あかり先輩はどうなってもあかり先輩だよ」 あゆみちゃんも「そうだよね」と頷き、僕らは自然に手を繋いで歩いた。
3月末の暖かい日で、桜の花びらが綺麗に舞う日だった。
それから数日が過ぎた。
高校では真新しい制服を着こんだ1年生達の入学式があり、僕らは24年へと進級した。心配していたクラス替えだったけれど、無事にあゆみちゃんと同じクラスになった。学園祭の時にお世話になった高橋さんやみゆきちゃんも同じクラスだった。
でも、あの学園祭で僕を女装担当にと言いだしたと悪ガキ達とも同じクラスになってしまった。また2年生の1年間も賑やかな1年になりそうだ。
僕はあかり先輩と同じ大学への進学を目標に、勉強を頑張るつもりだ。そして、あゆみちゃんともう少し仲良くなりたいと思っている。
ここまで充実した高校生活を送れるようになったのも、全てあかり先輩のおかげだ。
あかり先輩、ありがとう!
ここで一旦、この物語を締めたいと思います。
ここまで読んでくれた方々、本当にありがとうございます。
ここまで読んでいただいてありがとうございます
本文にも書きましたが、ここで一旦、この物語を締めたいと思います
思いつきで書き始めて、何とかここまで書く事が出来ました
私のたわいもないこの物語を読んでいただいて本当にありがとうございます
でも、秋と言うか冬になって時間が出来ましたらこの続編かサイドストーリー的なお話を書くかもしれません
その時がきたらまた読んでくださいね




