5 俺のターン!
ずっと見たかったその間抜けな顔。是非とも写真をとっておきたい。と思ったら両手が塞がってんな。
「鬼頭、下すぞ」
「えっ! あ……うん」
一瞬名残惜しそうな顔をしたのはなんでかね? まあいいや。
鬼頭を下がらせて改めて大河と対峙する。まだ惚けていたが気を取り直したのか再び剣を構えた。無駄なことを……。
「ハッタリで逃げ切れると思うなよ」
「実力を見せて理由も説明したのにまだ納得できないとか頭悪すぎだろ?」
「ふざけるな! 経験値倍増のスキルを持つ僕でもレベル40だぞ。貴様のようなハズレスキルしか持ち合わせていない雑魚がカンストなんて出来るものか!」
「やれやれ……説明してやる義理はないが長々とお喋りしていても気が滅入るだけだから教えてやるよ」
「ふん……どんなペテンか聞いてやる」
「俺のスキル継続はな……あらゆる面で継続可能なんだよ」
「何を馬鹿な……継続スキルは強化魔法の持続時間を増やすだけのスキルだったはずだ」
「こっちの世界の連中のスキルはそうなんだろうが俺のスキルは違うんだよ。だからスキルを発動した状態で訓練を行えば寝ている時間だってレベル上げができるんだよ」
「そんな……そんな馬鹿げたスキルがあるものか!」
「実際あるんだからしょうがないだろ?」
俺が来栖の顔を見るその顔が急に青ざめた。こいつもう……見たな。
「信じられないなら鑑定してもらえよ。なぁ……来栖」
「――ッ!」
「そうだ。来栖、こいつの嘘を暴いてくれ!」
「……」
「どうしたんだ来栖?」
「教えてやれよ来栖」
「……くそが!」
口にしたくないのに大河がせかす。そんな滑稽な顔をしていた。
「早くしろ来栖!」
「うるせえ! とっくに鑑定済みだ!」
「なんだと! それなら――」
「カンストかどうかは知らねえがそいつのレベルは……200だ」
「――ッ! 馬鹿な! あり得ない! 歴代の勇者でも最高レベルは120のはずだ! それを完全に凌駕しているだと?」
「ああ、そうだよ! そいつの言葉が正しければ寝てるだけで200まで達したんだ。ふざけるな!」
まあ俺もスキルの本質に気づいたときはそんな反応だったな。まったくハズレスキルかと思ったら笑っちゃうぐらいチートだったわけだ。
「か、鑑定を偽装しているんだ! そうに違いない!」
「俺もそう思って何度もためした……だが、そこのガチレズ糞女を拾ってお前の隠し玉を交わした事実をどう説明する? 鑑定通りのふざけたパラメータじゃなけりゃあり得ないんだよ!」
「酷い言われようだな」
「余裕ぶっこいてんじゃねえぞ、チート野郎が!」
「そうだ! 絶対に認めない! 英雄スキルを持つ僕こそが本当の勇者だ! 試練を超えて最強の勇者になると彼女と約束したんだ! 天沢……僕と勝負しろ! お前のような不正で強くなった屑を勇者としては認められない!」
「はなから認めてもらうつもりなんてねえよ。御託はいいからかかってこい……最強の、ゆ・う・しゃ・さ・ま」
「英雄の力をなめるなよ天沢ァァァァァァァァ!!!!!」
おっ……大河の気配がどんどん増していく。さすがに言うだけのことはあるな。なんかキラキラしているし強そう……|(小並感)
「これが英雄スキルを持つ真の勇者にのみに与えられた聖人化魔法だ。ステータス補正が一気に跳ね上がり人の限界を超えて神の領域に到達する。もうお前に勝ち目はないぞ……天沢」
「はぁ……わざわざ待っててやったんだ。気が済んだならかかってこいよ?」
「天沢……後悔させてやる!」
大河の姿が掻き消えたかと思うと俺の眼前に刃がきらめていた。
「よっと――」
「――ッ!」
「どうしたどうした?」
「――ッ!」
「その程度か?」
「天沢ァァァァァァァァ!」
怒りにかられて大振りになるともう目をつぶっていても当たらない。
「あきらめろ――レベル差五倍は簡単には埋まらない」
「うるさい! うるさい! うるさい! 僕は選ばれた勇者だ! この世界を救うため、彼女の願いを叶えるため、僕はこんなところで負けられないんだ!」
「やれやれ……世界を救うつもりなら少し頭を冷やして考えろよ――なッ!」
「ごふッ!」
俺の拳が鎧を砕いて大河の腹にめり込む。大河の体はくの字に曲がりそのまま地面に崩れ落ちた。
「聖人化した大河を一発だと……」
「待たせたなぁ……来栖」
「――ッ!」
来栖が呪文をつぶやき空に飛翔した。
「へぇ……飛べるのか」
「ふん……その様子だと空は苦手か? たしかに驚異的な力……見せてもらった。だが接近できないなら俺様の脅威にはなりえない」
「ならお前の魔力が尽きるまで待ってやるぞ?」
「ふん、だったら一度引くまでだ」
「逃げるのかよ?」
「なんとでも言え。俺様はそこでくたばっている馬鹿とは違う。お前というふざけた化け物を倒すためなら王国に戻って騎士団を動かすことも辞さない」
「試練はいいのかよ?」
「もともと俺様には必要のないイベントだ」
「なるほど……ずぶずぶか」
「この世界ならそれが常識だ。俺様は何も間違ちゃいない。くだらないあちらの世界の常識なんかで責められる謂われはない」
「とことん染まったわけか?」
「当然だろ? こちらの世界なら俺はなんだって出来る。出来てしまう。誰もが俺様の力にひれ伏すんだ……痛快だろ?」
「結局お前はその程度か……大河の方がまだマシだな」
「なん……だと!」
「まあいいさ……別にお前に説教するつもりなんてない。それよりも来栖……お前は王国の命令に従うつもりなんてないんだろ?」
「……」
「心配するな。騎士団員たちは全員眠らせた」
「――ッ! いつの間に――」
俺は鞄からスクールを取り出して見せた。
「なるほど……荷物持ちなんて引き受けていたのは大量のスクロールが目当てか。その早業と手癖の悪さなら可能か」
「で、どうなんだ?」
「ああ……その通りだ。勇者の結束なんてどうでもいい。裏切り者がでようが魔族共々俺様の魔法で消してやるだけだ」
「なるほどな……」
大河を見るとまだのびたままだ。この辺が頃合いだろう……。
「提案があるんだが……俺はお前に殺されたことにしないか?」
「なに……?」
「俺はこのままこの場を去って二度とお前たちの前には顔を出さない。幸いここは国境付近だ。すぐにでも国外へ逃げられる」
「それでお前になんのメリットがある?」
「もともと俺はあの国を信用してなかったんでな。近いうちに離れるつもりでいた。できればMIAとしてな」
「戦闘中の行方不明か……用心深いやつだ」
「臆病なんでね」
「レベル200のくせに……よく言う」
「200に達したのは一昨日だよ」
「ふん……同じことだ。お前の言葉を信用する裏付けがない」
「と、言われてもなぁ……」
「空を飛べる俺様には勝てないとふんだ見苦しい言い訳にも聞こえるがな」
「なるほど。それなら……俺が勝ったら見逃せよ」
「調子に乗るなよ……俺様の魔法の効果範囲から簡単に抜け出せるとは思わないことだ」
「知ってるよ……」
「後悔させてやるぞ――天沢ァァァァァァァァ!!!!!」
来栖が両手を突き出し呪文を詠唱する。
「汝の敵を殲滅せよ――フレア・ショット・バースト!」
無数の火球が掌から飛び出すと流星のように降り注ぐ。俺は慌てることなくマジック鞄からウォーターボールのスクロールを取り出した。
「馬鹿め! そんな単発魔法で相殺できるものか!」
「それはどうかね――術式解放ウォーターボール!」
スクロールから飛び出した水球が火球にぶつかると見事に相殺した。しかし火球の一つだけではない。相殺された後ろから次の火球が落ちてくる。が――。
「馬鹿な! 水球が増えただと?」
火球は新たに生まれた水球に相殺された。その数は瞬く間に増えて全ての火球を消し去ると来栖めがけて襲いかかった。
「くそっ! 汝の敵から我が身を守れ――ストーンウォール!」
地面から生えた分厚い土壁にぶつかった水球が消滅する。しかし――。
「なんだこの物量は!」
水球はさらに数を増やして徐々に土壁を削っていく。そして――。
「ぐはっ!」
土壁を打ち砕いた水球が来栖の体に命中する。その数はもはや数えられないほどに膨れあがっていた。
防御魔法で堪え忍ぶ来栖だったが高度がどんどん下がっていく。それは魔力の限界が近いことを意味し、そして限界を超えた来栖は魔力の障壁をつくることもできずに水球を受けて打ち落とされた。
俺はスキルの発動をとめて地面で呻く来栖の元へ悠々と歩み寄った。
「なん……だ……あの……ふざけた……ウォーターボール……は」
「教えてやっただろ? 俺のスキルはあらゆることを継続する。元々は魔法を継続する強化スキルなんだから……とうぜん攻撃魔法も継続する」
「ぐ……なら……俺様は……スクロール一枚に……やられたって……ことかよ」
「そういうことだな」
「くそ……が……こっちは……まだ……メギドも……使ってないのに……よ」
来栖は悪態をついて意識を落とした。やれやれ……やっと終わったか。