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3 夜会


 朝倉たちが出て行ってから一週間が経った。


 すぐに戻ってくるだろうと謎の自信を見せていた大河も、最近では彼女たちの話題に触れなくなった。罰が悪いのだろう。かわりに鬼頭が騒ぎ出してイライラしている様子……だからって俺にあたるのはやめろ。


「アマサワ様、どうかされましたか?」


 朝倉たちがいなくなろうが俺の日常は変わらず、訓練を終えたら書庫で調べ物をしてお姫様と他愛もない話しをしているだけだ。


「ちょっと考え事を……」

「まぁ……それはアサクラ様のことでしょうか?」

「――ッ!」

「ふふふ……そのご様子だと正解ですか」

「本当に……エステリア様は何でもお見通しですね」

「なんでもじゃありませんよ。それに今のは……女の子の感です」


 楽しげに笑うお姫様……この方はいったいどこまで見透かしているのだろうか?


 これがスキルの力だと教わったときは困惑したものだが、今ではすっかり信じていた。


 感応スキルというものらしく相手の心が読めるらしい。もっともハッキリとした言葉などではなく、映像として見えたり見えなかったりするそうだ。この国も貴族社会なので相手の腹を探り合うようなことも多々あるはず。ならばかなり有用なスキルだろう。もちろん他言無用という約束で教えてもらった。何故俺なんかに教えてくれたのは謎だが、こんなやばいスキル言いふらすつもりはサラサラないので安心してほしい。


 彼女のカミングアウトがきっかけで、スキルという加護が勇者だけのものではないと知った。誰でも持っているものではないが、俺達だけの特別ではなかったのだ。


 例えば俺の加護『継続』は騎士団の四割が持っていた。ただありふれているというわけではなく、加護があるからこそ騎士を目指したようだ。なので別に卑下することもない。もっとも勇者の加護としてはハズレであるため俺の扱いが酷い訳だが……。


 まあ俺のことはいい。ともかくスキルは勇者だけに与えられている加護ではなく、この世界に生まれ育った人たちにも先天的にあたえられていたり、後天的に身につけることができるものだった。そしてお姫様のように勇者クラスのレアスキルも、当たり前のように存在するのだと知ったときはショックを受けたものだ。まあ今ではどうでもいいことなのだが……。


「アマサワ様……わたくしのような戦いの場に立たぬものが偉そうに言えることではありませんが……どうか自信をお持ち下さい。貴方様はとても強いお方だとわたくしは知っております」

「えっと……なんのことでしょうか?」

「それは……いえ、お答えいたします。わたくしは感応スキルともう一つスキルを持っているのです」

「ダブルスキル……ですか」


 勇者の中でも一握りしかいない複数のスキルを得た神に愛された存在……。感応なんてレアスキルを持っているだけでも珍しいのに、更に二つ目のスキルを持っているとは……。只者ではない感じはしていたが相当大物だったようだ。


「はい。そして二つ目のスキルは未来視覚……文字通り未来を見通す力です」

「へ、へえー……」

「わたくしには強敵にたった一人で立ち向かうアマサワ様の姿が見えました。そしてそのお顔はとても凛々しく負けることなど一切考えておられないご様子でした!」


 エステリアはガラにもなく早口で興奮しているように見えた。やれやれ……困ったぞ。


「随分と……抽象的なイメージの未来ですね?」

「はい……見えたのはその場面だけではないのですが……その……ハッキリと内容がわかるものではないので……ごめんなさい」


 いかん。恐縮させてしまった。


「ぜんぜん大丈夫です。おかげさまで自信を取り戻せそうです」

「本当……ですか?」

「も、もちろんですよ」


 感応スキル持ちなのでやりづらいわ……。


 ともかくわざとらしくても自信をアピールすると一応納得してくれた。最後の方は笑っていたのでからかわれていたのかもしれない。可愛いからって何でも許されると思うなよ――許すけど!


「アマサワ様……明日から国境付近で特別な作戦を行うと聞いておりますが……参加されるのですか?」

「ええ……まあ」

「やはり……そうですか。では……しばらくお会いできませんね?」

「……ですね」


 エステリアは俺の心を読むようにじっと見詰めていたが、目を閉じて目蓋を開けたときにはいつもの華やかな笑顔を見せた。


「では今晩はとっておきの面白い物語を聴かせて下さいますか?」


 この書庫で会うようになって俺は知識を得る見返りに、彼女の好きな本の話しを毎晩聞かせていた。本好きのエステリアは特にファンタジー小説を好んだ。とはいえ俺は古典以外のファンタジーには疎いのですぐにネタがなくなり困った。どうしたものかと悩んだ末に、最近ハマっているWEB小説の内容を聞かせたところ大いに関心をよせた。ネットさえ繋がるならサイトを見せてあげたいほどだ。


「なら今日は無職の駄目人間が転生してから本気を出して、天才魔術師として活躍する話しでもしましょうか……ちょっと長いですけど?」

「かまいません! アマサワ様が眠くなるまでお話下さいませ!」


 本当に楽しみのようだ。俺は今までの感謝の気持ちを込めて話して聞かせることにした。今夜は寝かさないよ、と冗談を言ったら頬を染めて大人しくなったのでリアクションに困った。スキルが働いていないのだろうか? 冗談だよホント?


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