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らすと


 只今、あの世にいます。


 死因はお母さんによる稽古と言う名の撲殺………が多かったのだが、何故か最近はそうではない。


 近頃は稽古以外でも自身の身の危険が多々ある。それは自然災害だったり、交通事故。はたまたはヤンデレに刺されたり、凶悪事件に巻き込まれたり。


 今回に至っては都心でガス爆発に巻き込まれた私である。勿論私は生き返るけど。て言うか、これまでの10000回以上の死因で私は正確には死んではいない。それは生き返る度にお母さんから聞いて確認した事だ。


 お母さん曰く、『仮死状態だから大丈夫。むしろ神様言い出すあんたの頭は大丈夫か』だそうだ。『ふざけんな、死ね!』と飛び掛かるも、気付けは神様不在のあの世にいる事もしばしば。


 ちなみに私はある時を境に、死んでもあの世の事は忘れないようになっていた。

 恐らくこれは神様からの贈り物である一つ目の特典、『記憶保持』が原因だと思う。

 正直、『記憶保持』の特典は転生した時に自分の記憶を引き継ぐ為のものだったのだが、思わぬ所で役にたった。


 そして今日も私はいつものようあの世、天界と言う場所にいる。しかし、やっぱり神様は留守であった。実にあの時から300回目の留守であり、私はとても暇だ。なので生き返るまでの間の時間は、神様からの贈り物である二つ目の特典『アイテムボックス』からラノベ本を取り出して読んだり、天界に落ちてる物を拾って『アイテムボックス』に閉まっている。何もないこの真っ白な空間ではあるが、何気に探せば白い羽等が落ちていた。ハトかな? 

 

 そんなこんなで暇を潰していた私は、消えて生き返った。




◇◇◇




 ヤロウ、ぶっ殺してやる!!



 ここはあの世の天界。

 実に10331回目の訪問であり、私は激オコである。


 何処までも続く真っ白な空間を駆け走る。


 ヤロウ、何処に隠れて嫌がる、ぶっ殺してやる!!


 そう叫びながら駆け走る事暫く、私はとうとうある人物を見つけた。


「………久し振りじゃな」


 久し振りじゃ、じゃないよハゲ!?

 

「こ、こら、離さんか!? あ、相変わらず元気な奴じゃな……」


 元気な奴じゃな?

 頭沸いてんのかこのハゲ!

 どの口でそれを言うのか。

 神様の胸ぐらを掴み激しく揺らしいると、急に私の後ろから誰かが止めにかかる。


「待ぁて、少し落ち着かんかぁ、二人ともよぉ」


 物凄い力で羽交い締めにしてくるこいつは……誰だあんた、ハゲの仲間か!?


「もしや、ハゲとはわしの事か………?」


 あんた以外に誰がいる!


「わしはハゲとらん! わしは少し薄いだけじゃて―――って、こら! 痛っ! わ、わしを蹴るんじゃない、わしは神様じゃぞ!? 処すぞ? 天誅ぞ? 天罰落とすぞ!?」


 やっぱりお前かハゲ!?

 絶対ぶっ殺してやると私は神様に取っ組みあいを仕掛ける。

 肉弾戦ならば負ける気はないと神様の胸ぐらを掴み上げると、


「落ち着けぇと言うとろうがぁあああああ!! ぶぁかぁ者どもぉおおおおお!!」


 ―――あんぎゃっ!?


「―――がふっ!?」


 私と神様の頭に拳骨が落ちる。なにこれ、超痛い……


「ぶぁかぁ共がぁ!! わぁれの話を聞かんかぁ!」


 私と神様が痛みに悶えるなか、謎の皇帝とも注射器とも穴子とも言える声が響く。

 まさかまさか、この声はと私は頭を上げると―――わかも……ではなく、赤いスーツを着た髭のオジサンが佇んでいた……誰だあんた?

 

「わぁれが誰だとぉ? よかろうぉ、教えてやろうぅ! わぁれこそは、影なる地獄ぅの支配者ぁ! 閻魔大王なるぞぉ!!」


 え、閻魔大王!?


「そうだぁ!!」


 嘘つけ!?


「嘘ではなぁい!!」


 なんでスーツなの!?


「気にするなぁ……」


 気になるよ!?

 何でそこでテンションが下がるのか、凄く気になるよ。


「ちなみにイタリィの、高級スーツだぁ」


 ぶるじょわああああああ!!


「そんな事はどぉでもいいぃ。ところで娘よぉ、お前さんはそこのかぁみに何か言うことがあるのではないかぁ」


 そうだった!?

 ヤロウ、ぶっ殺して―――あんぎゃっ!?


「だぁれが、体で言えと言ったぁ!! 口で言わんかぁ、ぶぁかぁがぁ!」



 そんなこんなで、私と神様は閻魔大王の仲裁をへて話し合いを行った。


「まぁずは、娘からだぁ」


 先ずは私の意見からだが、最初に私の姿を見てほしい。ボロボロである。ズタズタのボロボロである。

 何故かと言うと、実は私――




 ―――死にました!!




 ヤロウ、ぶっ殺してやる!!

 と、神様に掴みかかるも閻魔大王に拳骨で止められる………なにこれ、超痛いんですけど。


「体ではなぁく、口で言わんかぁ!!」


 と言う訳で話を続けます。


 はい、私は死にました。

 完全に死にました。

 後も残らず死にました。


「そぉれが、どぉしたぁ。ここに来る魂はみぃな死んだぁから来るのだぁ。なぁにがおかしいぃ」


 そぉれが自然の摂理だぁと、言わんばかりの閻魔大王に私はこれまでの事を話していく。今まで10000回以上死にましたとか、生き返りましたとか、実は仮死状態で死んでませんでしたとかを。あと、その『死んだぁ』は、閻魔大王の口癖だったんですね。


「………まぁさか、ここで今あの世を騒がす者に、わぁれを窮地に追いやる者に出会えるとは思いもよらんかったぞぉ、娘よぉ」


 私の説明に、何故か腕を組みだして目蓋をピクピクさせる閻魔大王……いや、様。

 何故そんなに怒ってるのでしょうか?

 そこへ神様が横から口を出す。


「お前さん、わしから『記憶保持』の特典を貰ったなら覚えておるじゃろうが、わしが前に言うた事を」


 そう言えばと思い少し思い出してみる。


『お前さんのせいで天界は、輪廻の輪は滅茶苦茶なんじゃぞ! 何度も何度もあの世とこの世を行き来しおってからに! 地獄の閻魔も頭を悩まして寝込んでおるわ!?』


 ごめんなさい。

 私が悪かったです。

 

 そう謝りながら閻魔大王様に土下座をしていると、『まぁ、こぉれはお前さんだけが悪い訳でないからなぁ』と、許しを貰えた。神様が『わしは?』と言ってるのはスルーだ。


「そぉれで、話はこれで以上でいいのかぁ」


 仮死状態になっていた原因、お母さんが全て悪いのですと、あらかた説明し終えた私だが、実はここからが本番である。


 そこで私は閻魔大王に告白をした。私の今回の死因。いや、ここ最近の死因全てを告白した。



 ―――実は私を殺そうとしていた真の黒幕は神様だと!!


 

 そう告白をすると神様は私から視線を反らす。


 閻魔大王様、こいつです!

 最近あなたの頭を悩ませていた元凶は! 私を何度も殺そうとしてあなたを窮地に追いやっていた奴は。

 ヤロウ、ぶっ殺してやる!!


「………かぁみよ」


「な、なななな、なんじゃ!? わしは神様ぞ!? わしがそんな事はする筈がないじゃろうが!」


 私から最近の300回分の死因を聞き、閻魔大王が神様に迫る。神様は吃りながら閻魔大王に無罪を主張するが、如何せん………私には証拠がある。


 ここ最近の300回分の死因を挙げてみよう。


 まずは交通事故によるもの。これは分かる。日常を過ごしていれば希にそういう事があるかもしれない。うん、100回共が全てトラックでひかれて転生しなくてもね。


 凶悪事件に巻き込まれた事についても、日常の生活をしていればこれもまた希に巻き込まれる可能性はある。うん、都心でガス爆発に巻き込まれたり、80回くらいヤンデレに刺されたりとかなんだけど………これはパスで。思い出したくない……。


 そして自然災害はと言うと、火山噴火とか、雪崩とか、山火事とか、落雷とか、もう色々あった。


 これら全てを統合したものが私に起こった事ではあるのだが、勿論私は生き返った。そもそも死んではいない。

 まぁ、何を言いたいのかを言うと―――あれだけの事故があって一般人への死亡者が一人もいない訳だ! 私以外を除いて。


 おかしいだろハゲ!?

 私は生涯孤独で暮らしている訳ではない。家族もいるし、友達もいる。

 そして、私がこれら事件や災害に巻き込まれた時も勿論周りに人がいた。なのに死亡者は0人。

 おかしいだろハゲ!

 ガス爆発の時は都心の真ん中で起きたのに皆は無傷であり、奇跡だの神様のご加護だの騒いではいたが、私はボロボロ。どう見てもあんただろ!!

 

「………かぁみよ」


 呆れを隠せないとした声が真っ白な空間に響き渡る。

 これだけの事をしたのならば娘も怒るのは仕方ないと言うような目で神様をみているが………


 いや、ちょっと待って下さい閻魔大王様。

 私が今怒っている事はそれではないのです。


「どぉいう事だぁ」


 これまで私に起きた事全てを怒ってない訳ではないのですけれど………まぁ、その、一応は家族や友達、一般人に人的被害が及ばないようにしてくれていたみたいなので、そこはお礼を言いたいくらいです。


「ふぅむ、あれだけの事をされてなぁお、許す心と礼が言えるとわぁ………なかなかに度量が大きいなぁ、娘よぉ」


 そのあとに殺しますけどねー。


「それで娘よぉ、お前はどうして怒っていたのだぁ」


 それはですね、このハゲが私を殺したからなんですよ。仮死状態とかじゃなく、今回は本当に私を殺しに来ていたんですよ。


 そう言って私は事のあらましを説明した。

 















 部屋で寝てたら隕石が落ちて来ました、三発も。


 

「………かぁみよぉ」


「わ、わわわ、わしは知らんぞ! 偶然じゃないか!?」


 吃りまくる神様。

 まぁ、詳しく説明すると。


 隕石落ちてきた。私ギリギリ耐えた。すかさず隕石落ちる。焦る私、アイテムボックスに隕石収納を試みる………成功。直後に落雷直撃。私は痺れて動けない。すかさず隕石投下………私は消滅した。

 

 以上が今回の死因です。


 こんなの死んでまうわ!?


 ヤロウ、ぶっ殺してやる!!


 そう私は神様に飛び掛かり、閻魔大王様は今度は止めてはくれなかった。




◇◇◇




 そんなこんなで私は転生をすることにしました。

 神様とのいざこざは閻魔大王様が仲裁してくれて、殺されたお詫びに転生特典をもうひとつ貰える事で和解となりました。

 ちなみに神様は『馬鹿な、転生特典をもうひとつ追加じゃと? 天界規定をまた破るきか? 天罰が降るぞ? わしに……』と、中々に愉快な事になりそうだったので満足しました。

 


「じゃあ行ってきます、閻魔大王様! ハゲ!」


 そう言って私は転生の儀式を終え、これから始まる新しい人生、異世界と言う冒険に向けて出発していったのである。

  



◇◇◇




「………行ったか」


 少女が転生の儀式を終え、この場から消えた事を見届けた神様が呟く。その呟き声からは、何処となく苦笑が含まれているように感じる。


「かぁみよ、あれは流石にやり過ぎだったのではないかぁ? いくらなんでも隕石はまぁだしもぉ、雷――天罰はないだろぉ」


 同時に、神様と一緒に少女を見送った閻魔大王が疑問を口にする。

 その口振りからは、どうやら神様が少女を死に至らしめた事についての問いではなく、何故に天罰まで――天の雷まで落とす必要があったのかを不思議に思っていた。

 

「聞いてるのかぁ、かぁみよ」


 少女が消えた辺りからか、何処か苦笑を含みながら無言の神様に問い掛ける。

 そんな神様は、閻魔大王の問いに暫くして答える。


「あれでも足らんかった……か」


「なぁんだとぉ? どういうことだぁ、かぁみよぉ」


 苦笑から、失笑を隠せないとする神様に訳を尋ねる。


「あやつは、死んでおらん……」


 そう言いながら神様は何処からともなくテレビを取り出し、これまた何処からか取り出したのか分からないちゃぶ台をセットしてお茶を啜り出す。


「なぁんだとぉ、ぶぁかぁを言うなぁ、隕石は勿論、かぁみの天罰まで落とされてるのだぞぉ」


 お茶を啜る神様に、これまた何処から取り出したのか、ちゃぶ台に菓子受けをセットする閻魔大王様。

 菓子受けから煎餅を掴み取った神様は、それを齧りテレビのスイッチを入れては、下界を映し出したテレビのチャンネルを合わせていく。


「見てみぃ、これを。……あやつ、転生ではなく、転移しておる………」


 そう言って神様はテレビに視線を向ける。

 そこには、


「んなっ!? ぶぁああかぁなぁっ!!」


 生前と変わらぬ姿で異世界に降りたっている少女が映し出されていた。


「あやつ、わしの天罰――グングニルの一撃を直撃しておいて………麻痺しただけじゃと? アホか、あれはそんな程度のものではないわ!!」


 少女は自分に直撃した雷が、メインの隕石を確実に当てる為のフェイク、麻痺させる為の囮だと語ってはいたが、その事実は少し違っていた。

 神様曰く、隕石は少女の目を引き付ける為の囮であり、本当のメインは雷――神様が直接放ったグングニルの一撃であったのだ。

 神様が放った天罰は、グングニルと呼ばれる必中必殺の雷撃の一撃であり、自身の持つ最高の一撃であったのだ。

 隕石をアイテムボックスに収納された時は少し驚いた神様ではあったが、天の雷は少女に直撃させる事が出来た。

 なのに少女は体をピクピクとさせながら生きていた。

 それに慌てて咄嗟に隕石を追加で落としたのが神様であったのだ。


「かぁみよ、あの娘は一体何者なのだぁ。どぉこで見付けて来たのだぁ」


「わしもあやつの正体は見当もつかんし、見付けたのはあやつが一度初めてここに死んで送られたて来た時じゃ………まぁ、笑いながら生き返って帰って行ったがのぅ………今思えば、あれが悪夢の始まりじゃったな………そして、唯一分かっておるのは、とある極東の宗教団体がこそこそとあやつを匿っていたと言う所かのぅ」


 少女の事に頭を悩ます神様と閻魔大王様。



『はげぇーーー! ヤロウ、ぶっ殺してやる!!』



 すると、テレビに映し出された、異世界に降りたった少女の声が聞こえて来た。

 テレビの画面には沢山の人間の兵士に槍を突き付けられ、青筋を浮かべた首輪を装着した少女が映し出されている。

 

「………かぁみよ、わぁれは特にこの事に口出しをするきはなぁいのだがぁ…………流石にこれはおかしな事になっているぞぉ。いくら怨恨があるとは言えなぁにを考えておるのだぁ…」


「なんじゃと? んな馬鹿な事があるか。わしは神じゃぞ? 仕事に余計な事情は挟まん。あやつは確かに転生させる事はさも叶わんかったが、ちゃんと人間の住む王都に着くように無事送った…………はず?」


「娘を転生さぁせるどころかぁ、転移ではなぁく、召喚されているぞぉ………? 首に着いてるあれは確か、隷属の首輪…………しかも最上級クラスのマジックアイテムじゃあないかぁ」


「……………あれ?」


 そんな馬鹿なと首を傾げてテレビを覗き込めば、そこには


『あばばばばばばばばばばばばぱばは!! はめやがったなぁああああああああはげぇーーー!!』


 ビリビリと痺れながらも、必死に何かに耐えながら此方に向かって叫ぶ少女がいた。神様はそんな少女に向かって手を伸ばし、


『ああああああああああああああああ――――』 


 テレビのスイッチをオフに切り替えた。


「………かぁみよ」


「わし、もうジジィじゃからのぅ……」






おわり。



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