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先輩と私  作者: メイリ
9/9

私 ⑤

 先輩の彼女と遭遇という最悪の出来事から一夜明けて、私は変わらず図書室で仕事をしている。

 本当にタイミングが悪いよね。

 彼女の存在を知らなければ、もう少し片想いでも先輩のことを想っていることが出来たのに。

 あんなの見ちゃったらそれすらも諦めるしかない。

 ただ見ているだけで良かったのに……それすらも辛くなっちゃうなんて。


 今日はまだ先輩は図書室に現れない。

 寂しいと思う反面、ちょっとホッとしているのも事実だ。

 昨日のことを考えると先輩に会うのが恐い。

 笑顔で『俺の彼女綺麗だったでしょう? 』なんて言われたら泣く自信がある。

 まあ、紳士的な先輩に限ってそんなことは言わないはずだけど。



「シノちゃん」


 呼ばれて顔を上げれば、目の前には薫ちゃんがいた。

 こんな近くまで来ているのに気付かないなんて重症だね。


「薫ちゃんどうしたの? 」


 薫ちゃんが来たってことはご飯のお誘いかな?

 薫ちゃんはあまり本は読まないから本を借りに来たってことはないだろうし。


「シノちゃん……顔色悪いよ。今日は早く帰った方が良いんじゃない? 図書委員の仕事なら私が代わるから心配しないで。一日ぐらいだったらなんとかなるからさ」


 薫ちゃんが心配そうにそう言ってくれた。

 どうやら私は自分が思っているよりもずっと重症のようだ。

 顔色が悪いなんて……。

 確かに昨日から食欲もなくて、昨日の夜から何も食べていない。

 ここは申し訳ないけど薫ちゃんに甘えさせてもらおうかな。


「ありがとう、薫ちゃん。実は昨日から食欲が無くって。申し訳ないけど今日だけお願い出来るかな? 」


 私が薫ちゃんにそう言うと、薫ちゃんは笑顔で頷いてくれた。


「いいの、いいの。私から言い出したんだもん。シノちゃんは安心して帰ってちょうだい。っていうか一人で帰れる? 誰か呼ぼうか? 」


「ううん、大丈夫だよ。ちょっと体調が悪いだけで熱とかあるわけじゃないから。たぶん一晩ぐっすり寝れば治ると思うよ。じゃあ、司書の先生には説明しておくからよろしくね」


 私がそう言うと薫ちゃんは『気をつけてね〜』と大きく手を振ってくれた。

 持つべきものは頼れる優しい友人だ。

 今度美味しいものでも作って御礼しよう。



 私はちょっとダルい体に鞭打って、頑張って昇降口までやって来た。

 はあ〜、家に帰って寝よう。

 とにかくもう考えることさえ億劫だ。

 そんな投げやりな態度が悪かったのか、日頃の行いに問題でもあったのか、理由はわからないけど昇降口を出て校門まで来たら見たくない景色に出くわした。

 離れているけどわかってしまう。


 先輩と…………先輩の彼女さんだ。

 なんでこんな場面ばかり見てしまうのだろう。

 ちょっと気を抜くと涙が溢れそうになってしまう。

 どうやら、私は気づかないうちにこんなに先輩のことを好きになっていたらしい。


 これ以上傷つきたくない……私は違う道から帰ることにした。

 いつもは昇降口を出てすぐの校門を通るが、今日は駐輪場がある出入口に先輩に気付かれないように進んだ。

 先輩は彼女さんとの会話に夢中になっているのかこちらは振り向かない。

 このまま行けると思った時、彼女さんがこちらを指さして先輩に何かを言った。

 すると先輩は勢いよくこちらを振り返ったではないですか。

 私はそのタイミングでダッシュした。

 改めて先輩から彼女さんを紹介されたくない!


 私は大急ぎで学校から離れようと頑張った。

 頑張ったんだよ…………でも、日頃の運動不足が祟って呆気なく先輩に捕獲されてしまったのである。

 なんで追いかけて来るの?

 彼女さんを紹介するのにただの後輩を追いかけちゃうの?

 私は口を開けば先輩を責めてしまいそうで、堅く口を閉ざしていた。



「ふう、篠宮さん意外と足が速いんだね? 」


 先輩は爽やかにそんなことを言っている。

 何だろう、無性に腹が立つ。


「どうしたの? あ、もしかして急に走ったからどこか怪我でもした? 」


 先輩は慌てたように私の足を見ている。

 今、その優しさはいらないです。

 もし優しくしてくれるなら、このまま放っておいて下さい。


「伸也」


 先輩の後ろから先輩の彼女さんが名前を呼んだ。

 私は胸がギュッとなり、無性に泣きたくなったけどここで涙を流すのはズルいと思い我慢した。

 ああ、何で私は今ここにいるんだろう?

 逃げたくても腕を先輩に掴まれている。

 こんな場面じゃなければドキドキして嬉しいシチュエーションなのにね。


「もう、いくらその子を見つけたからといって私を置いていくことないじゃない」


 彼女さんが不満そうに先輩に話しかけている。

 スミマセン、私なんかを追いかけさせてしまって。

 私は情けなさと申し訳ない思いから先輩に訴えかけた。


「あの、先輩。彼女さんが来ているんですから私に挨拶している場合じゃないですよ。あ、すみませんでした。私、後輩の篠宮と言います。何故か今捕獲されていますが先輩とはただの図書室仲間なので気にしないでいただけると助かります。……では、私ちょっと体調が悪いのでこれで失礼します」


 何故か私の言葉に呆然としている先輩を放置して私は今度こそ逃げ出した。

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