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領主サマには要注意!

 結局、わたしたちは外に出してもらえなかった。

 案内された部屋も当然のように離された……が、今、カイはわたしの部屋にいる。


「ナギとしては離れていた方がいいんだろうが、ここまで離れていると、なにかあったときに対応できない。今の状況でそれは避けたい」


 部屋に来たカイは、ものすごーくためらった後、そう口火を切った。

 いや、あてがわれた客室は広いし、会ったその日からメルルさんとこ以外ずっと一緒に野宿してるから、今更っていうか、特に居座られても困ることはないんだけど。


「誓っておかしなことはしないから!」


 力説しなくても信用してるし。問題ないっす。

 わたしは赤い顔をしているカイに近づき、いつもされているように頭をポンポンと……おおう、身長差がありすぎてできない!


「大丈夫、カイなら平気。一緒怖いない」

「……あまり信頼されすぎても微妙な気持ちになるな」

「え?」


 なにか小声で言ったのを聞き逃した。が、訊き返してもカイは教えてくれなかった。


「それよりもナギ、イザフォエールの領主がやってくる前にこの街から出るぞ」

「え? なんで?」


 突然話を変えたカイは、真剣な顔でわたしを見た。イザフォエールって、ライナさんのなにかだっけ? あ、あのとき訊けなかった単語の意味を教えてもらわなくちゃ。


「そうだ、婚約者、どういう意味?」

「結婚を約束している人。夫婦になる予定の人、と言えばわかるか?」

「ああ!」


 ライナさんの婚約者が、あのおじさんたちの言ってたイザフォエールのウェリン様とかいう人なのか!

 ようやくこの騒動の内容がわかった。ライナさんはウェリン様と結婚したくなくて抵抗してるんだね。で、あのおじさんたちがウェリン様とやらの仲間なのか。なーるほど。


「ライナさん、ウェリン様イヤ言ってた。イヤな人?」

「そこはわからん。ただ……噂で聞いたところによると、イザフォエールの新しい領主は魔法使いだそうだ」

「魔法使い? ウェリン様?」

「ああ。そうなると接触するのは避けたい。だからイザフォエールが乗り出してくる前にここを出る。調べ物は違う図書館でしよう」


 えええ!

 なんと噂のウェリン様は魔法使いだったらしい。なんで、珍しい存在なんじゃなかったの、魔法使い。

 でも、それが本当なら、絶対会ってはいけない存在だ。


「ウェリン様、ダメ、絶対。わたし逃げる」

「あとは、どうやってこの街を出るか、だな。あの様子だと、本気で出街を止めていそうだ」

「はぅわ」


 わたしは頭を抱える代わりに、腰掛けていたベッドのクッションを抱きしめた。


「困るするね。どうしよう」

「まずは向こうの出方を見よう。いざとなったらギルドを頼る」

「うん。あ、カイ、もひとつ教える。ロリコン、どういう意味?」


 わからない単語は早目に意味が知りたいので、わたしは話の最後に訊いてみた。が、さっきの婚約者とは違って、カイがものすごく微妙な顔をしてしまった。


「……世の中には、知らなくてもいい単語もあるんだ」


 なんだか触れられたくない話題らしい。なに、そんな訊いちゃマズい単語だったの?


「……わかった」

「悪いな」


 とりあえず棚上げする。いつか誰かに訊く機会があれば訊いてみよう。

 わたしは心のメモにそう記すと、あくびをひとつした。うー、そろそろ眠くなってきたぞ。


「カイ、寝る、どうする?」

「俺はこっちを借りる。ナギはゆっくり寝ろ。ここ数ヶ月、毎日野宿だから身体がつらいだろ」


 カイはそう言うと、座っていたソファに横たわる。えー、カイのが身体おっきいから、ベッドの方がいいんじゃないかな。ソファ、寝心地は悪くなさそうだけど、キツそうだし。


「カイおっきい。こっちきて? わたしそっち」

「んなことできるわけないだろが。おまえはそっちで寝ろ。俺は問題ない」


 えー、ホントいいのかな。

 なんだか申し訳なくて、わたしは言い募る。


「カイ。わたし今日余計なことした。これ、原因わたし。だからベッド、カイね」

「いい、ナギは悪くない。しっかし、あのお嬢様には参ったな」

「カイ、よかったね。ライナさん、綺麗。お得」

「お得? 役得ってことか? んなわけあるか。貴族とは関わり合いになりたくないしな。めんどくさいだけだ」


 ライナさん、あなたのアピールは、カイには響いてないようです。無念。


 その後結局カイは譲らず、わたしがベッドで寝て、カイはソファで寝たのだった。


 ※ ※ ※ ※ ※


「カイ様、昨夜はどうして部屋にいなかったんですの!」


 朝、顔を合わせたライナさんは、開口一番カイに詰め寄った。


「まさか、そのちんちくりんの部屋に忍んで……!」


 ライナさんはショックを受けたように慄くと、くるりとわたしの方を向いた。ちんちくりんて、もしかしてわたしのこと⁇ なに、どういう意味?


「あなた、一体彼とはどんな関係なんですの! まさか、子ども!?」

「わたし、二十」

「二十歳!? まさか、ウソでしょう!? わたくしより年上なの!?」


 また子ども扱いされたし。

 たしかにこの世界の人ってちょっと大人びてる感じだし、東洋人は海外では若く見えるらしいし、わたしは……そこまで童顔だとは思わないけど、まあ少し! ちょっとだけ! 幼く見えるらしいので、そのせいかな。


「まさか……まさかやっぱりそういう関係なんですの!?」

「? そういう関係?」


 ライナさんは両手を頰に手をやって顔を青くした。慌ててカイが割って入る。


「無理やり連れてこられた場所でお互いの安全を確保するためには、一緒にいるにこしたことはない。それだけだ」

「カイ様!」


 ライナさんは再びカイに向き合うと、細い両手を絡み合わせてカイを見つめた。おーう、めっちゃキラキラしてるよ。


「そうですわよね、あの子は雄々しいカイ様には相応しくありませんもの。わたくし、うっかり勘違いするところでしたわ」

「別に俺は雄々しくはない。また、軽々しく他人を貶めるのはやめたほうがいい」

「カイ様、わたくしのために助言まで……!」


 そうだった、ライナさんもメンタル強かったんだよ。

 ライナさんはカイにすげなくされてもすべてスルーして、都合のいい方へ、都合のいい方へと思考を進めていく。恋する乙女すごい。


「でも、なんでライナさん、カイいない、わかる?」

「! そっ、それはっ!」


 ふと疑問に思ったので訊いてみた。ライナさんの顔が真っ赤になる。青ざめたり赤くなったり、ライナさんは忙しい。


「わっ、わたくしは! あの、昼間のお礼を言おうと……」

「いらん」


 カイ様ブリザード!!

 無表情のまま、カイは可憐なお嬢様のアピールをスパッと一刀両断する。


「お礼を言いたいなら俺たちを即座に解放しろ」

「でも、そしたらカイ様はいなくなってしまいますわ!」

「それのなにが悪い。俺たちは領民じゃない。ここにはたまたま立ち寄っただけの人間だ」


 愛想もなく、カイは言う。しかしライナさんも負けない。咳払いをひとつすると、自分を取り戻してカイに向き直った。


「カイ様、わたくしの父に会っていただきます」

「断る」

「いえ、これは決定事項ですわ。忙しい領主が時間をあけたのです。断ることは許されませんわ」

「……それなら文句のひとつでも言ってやる」


 あくまでも強気で押し通すライナさんの要望に、なんとさすがのカイも折れた。

 なんだかんだで最後にはライナさんが勝ってる気もするな。

 蚊帳の外に置かれたまま、わたしはカイとライナさんの攻防を見ながらそう結論付けた。


 ライナさんのお父さんで、このドルフィーの領主様との面会は、その後すぐだった。普段着のまま(だってドレスなんて持ってないし)わたしたちは豪華な応接間に案内される。


「お父様!」

「おお、ライナ!」


 ライナさんはお母さん似なのかな? あまり似ていない恰幅のいいオジサマが、そこにはいた。似ているのは色彩くらい? 上品な艶のある布をたっぷりと使った服を着て、指にはいくつか宝石のついた指輪をしている。


 ライナさんはお父さんに呼びかけると、さっとカイの腕に寄り添った。


「わたくし、この方と結婚しますわ!」

「「はあ!?」」


 ライナさんの爆弾発言に、思わずカイとわたしはハモったのだった。

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