拉致軟禁コース入りました〜!
あれよあれよと言う間に、わたしとカイは馬車に押し込められた。カイとわたしは向かい合わせに座らせられて、カイの隣に巨乳美人さん、わたしの隣にヒョロいお兄さんが、それぞれ逃がさないぞというように陣取った。
馬車って初めて乗ったけど、結構ガタつくものなんだね。めっちゃ豪華な馬車だから、それでもまだ乗り心地はいいほうなんだろうけど、やっぱり道のデコボコがダイレクトに感じられる。車と比べたら雲泥の差だなぁ。クッションを敷いててもなんだか硬い。
「改めてお礼を申し上げますわ。わたくしはライナ・ハーウェル。このドルフィーを治めるダイナーク・ハーウェルの長女ですわ。ね、あなた、お名前はなんとおっしゃるの⁇」
巨乳美人さん--ライナさんは、助けてくれたカイが相当気に入ったようだ。わたしのことは気持ちいいくらい完無視である。……さすがに無視されるのは、ちょっとヤだな。
しかしライナさんにしなだれかかられても、カイは態度を崩さない。何者ですか。巨乳美人に反応しないなんて、メンタル強すぎぃい〜!
「あれは助けたうちに入りません。なので礼を言われることも、招待されるいわれもありません。早く解放していただきたい」
「まあ、わたくしは名を尋ねているのよ。応えないのは失礼ではなくて?」
ライナさんも負けてはいない。可憐で儚げな見た目に反して、どんだけ押しが強いの。
「失礼で結構」
対するカイは、ライナさんを怒らせでもしたいのか、けんもほろろな対応を続ける。巨乳美人に好かれてもなびかないとか、ただものじゃないわ。
「セントル、屋敷に着いたらお客様を客間に案内したあと、お父様にお声をおかけして。ライナが話があると」
「承知いたしました」
カイから反応が得られないと判断したライナさんは、ヒョロいお兄さんになにかを指示する。
そして初めてわたしに話しかけてきた。
「ね、あなた」
「はい?」
「あなた、この方の名前を教えてちょうだい。そしてあなた方、どういうご関係!?」
……ライナさんもブレない人だったようだ。
ライナさんは、カイから名前を聞き出せないなら、チョロそうな同行者から聞き出そうとしてきた。あくまでもわたしと会話するというより、カイの情報を引き出したいだけらしい。清々しいね!
「あ、えっと……」
「カイ・ディルスだ。さあ、これでいいだろう。こいつを巻き込むな」
「まあ、ずいぶんと大事にしていらっしゃるのね」
言い淀んだわたしを助けるようにカイが名乗ると、ライナさんは不服そうに頬を膨らませた。可憐な巨乳美人さんが、上目遣いプラスほっぺたぷくーなんて、普通の人ならノックアウトされてもおかしくないコンボだろう。
しかしカイもブレない。とことんブレない。こんな美人に言い寄られてすげなくし続けるとか、並大抵のメンタルじゃ無理……はっ、もしや百戦錬磨でこれくらいは慣れ切ってるとか!? それとも、まさか女性に興味がなかったり⁇
「ナギ、おまえなんか変なこと考えてるだろ」
「えっ、はい、あ! いいえ! ないよ!」
バレてました。エスパーか。
そんなやりとりをしていると、突然馬車が停まった。窓にはカーテンがかかっているので外の様子は見えないが、停まったということは目的地に着いたのだろうか。
「さあ、どうぞ」
ライナさんに続いて、馬車から降ろしてもらう。
すると、目の前にはいかにも貴族かお金持ちが住んでそうな、広くて綺麗な庭と、大きなお屋敷があった。
「カイ様、こちらですわ」
ライナさんはカイの腕をつかんでお屋敷の中に入る。オマケのわたしも、置いて行かれてはたまらないので、慌てて二人のあとを追った。
「おかえりなさいませ、お嬢様」
お屋敷のエントランスには、ずらっと人が並んでいた。お仕着せの制服みたいなものを着ているところを見ると、使用人の人たちなのかな?
「おかえりなさいませ、ライナ様。お客様をお連れでいらっしゃいますか」
「フォーン。ええ、セントルに案内をお願いしているの」
執事っぽいシブいおじいちゃんがライナさんに声をかける。ライナさんはお嬢様らしく、優雅に答えていた。
「カイ様、ナギ様、こちらへ」
うわ、きちんと名乗ってないのに名前を呼ばれた!
お屋敷に着いた後、一旦姿を消していたヒョロいお兄さんがいつの間にか戻ってきて、わたしたちを呼んだ。カイの呼びかけを聞いてたんだろうけど、なんか有能だなぁ。わたしは自己紹介っぽい空気を出されないと、まだ名前とそれ以外の区別がつきづらいのに。
「先ほども言ったが、ここに泊まるつもりはない。部屋は不要だ」
「そんなことをおっしゃらないでください。私、馘を切られてしまいます」
ニコニコとお兄さんは答える。首を切られるって、めちゃめちゃ怖いんだけど。わたしたちを案内できなければ処刑とか、ハートの女王か。Off with his head!!
「知らん。俺たちを返せ。あのお嬢様には逃げたとでも言えばいいだろう」
「カイ、首なくなったら死んじゃう! 危険!」
ボロを出さないようにしたら一泊くらいできないかな!? さすがに処刑されちゃうのは心配だよ!
「ナギ、あれは解雇される……仕事を辞めさせられるって意味だ。殺されるわけじゃない。とにかく、俺たちは行かない」
「そう言われましても、もうすでに門番に連絡がいっておりましょう。ドルフィーの街からはでられませんよ」
「越権行為だろう。不当な拘留は各ギルドを通して王都に連絡が行くぞ」
今、なにか怖いこと言ったよこの人。出られないって、言うこと聞かないと街から出さないぞってこと? 権力かざしすぎじゃない⁇
「ヒドイ。出るダメ、なし!」
「おや、ナギ様はこの大陸の方ではないのですね。お食事や用意するものになにかリクエストはございますか?」
えー、通じてないし。言葉の壁って厚い……。
「カイ〜。困るした!」
「……そうだな、困ったな」
「困ったな!」
わたしたちは困り果てて顔を見合わせた。




