温泉入ってたら覗かれました!
ホースクルの街を出た後、わたしたちは一箇所に留まらず、放浪の旅を続けることになった。結局パルティアからは出て、今はラクトピアにいるらしい。
わたしたちはところどころにある街に寄っては食材や調味料、日用品を買い込み、また外に出る。たまに街で食事をしたりはするが、天候の悪いとき以外、宿に泊まることはなかった。
野宿続きの毎日に、カイはひどくすまなさそうにしていたが、わたしは特に気にならなかった。サバイバルな日々はすぐ慣れたし、むしろ楽しかった。まわりの目を気にせず、言葉の勉強に励めるし。いろんな街を見て歩くのはホントに楽しかった。
まあ、そんなこんなでわたしはだいぶカイと会話をかわせるようになっていたのだった。三ヶ月も実践で勉強してたら、そりゃ覚えるよね。
「カーイー」
「どうした」
川を見つけたわたしは、水浴びがしたくなったのでカイに声をかける。季節は初夏を通り越して真夏。女子として汗臭いままでいるのは勘弁してもらいたい。
「川入るね〜!」
「あー、ちょっと待て。ここの川なら温泉があるぞ」
「温泉?」
「そうだ。天然の風呂っていうのか? お湯があるとこだ」
お風呂……あっ、温泉か! カイの説明にわたしはピンときた。それは是非入りたい。暑い季節とはいえ、さすがに水浴びばかりではつらいし。
「温泉! わたし、好き! たくさん!」
「ナギの国にも温泉あるのか?」
「あるよ〜。たくさん」
我が祖国・日本は温泉大国でありますとも!
熱弁を振るうわたしに、カイは笑って温泉に案内してくれた。
「わー! 温泉! いいね〜」
「俺はむこうにいるから、ゆっくり入れ」
「ありがとう!」
カイが教えてくれた場所は、河原に岩で作られた露天風呂だった。手を入れてみるとほどよい温度だ。
「クロム、お願いね」
いつも水浴びするときはクロムが見張りに立ってくれるので、わたしはいつも通りクロムに声をかけた。クロムはわかってるよーと言うように側に寄ってくる。いつもすみませんね、クロム。頼りにしてますよ!
カイの姿が見えなくなったのを確認した後、クロムを護衛兼衝立として、わたしは服を脱いだ。最初は抵抗があったけど、今はもう背に腹は代えられない。だって貴重なお風呂だもの。
[ふわぁ〜]
最高。最っ高! ビバ温泉! 意外と広いし、快適ですよ!
わたしはしばし温泉を堪能した。むこうの世界でも温泉は久しぶりだ。
[ほどけるぅ〜]
そんな素晴らしい温泉タイムを終わらせたのは、意外にもクロムだった。低く、警戒するように唸るクロムに、慌ててわたしはタオル代わりの布をつかむ。
「クロム⁇」
クロムが尻尾でわたしを包んでくれた。緊急事態みたいなのに気が利く子だ。クロムに隠れながら、とりあえず布を身体に巻きつける。
「……さすがに幻獣相手に気配はごまかせんな」
知らない声がした。低いけどカイじゃない。もっと嗄れた声。
「カイ!!」
わたしが叫ぶのと、クロムが威嚇の火を吐くのは同時だった。それが呼び水となったように、覆面の男たちがバラバラと五人現れた。誰よ!?
「この娘が目的の女か」
「黒目黒髪。ナザフィア共通語を話さない十二、三の少女。この娘だな」
待て。“十二、三”って、明らかに別人だろ! 多少童顔とはいえ、わたしはハタチだ!
「待って、違う! わたし、二十。人違う!」
「はあ!? 二十!?」
訂正を入れると、男たちは顔を見合わせた。
「ガキにしか見えん……」
“ガキ”ってなに? もしや子どもってこと!?
「子ども違う。大人。二十」
「いや、この娘で間違いないだろう。幻獣もいるし、間違いない。男はいない……」
リーダーっぽい男がしゃべっていると、背後からナイフが飛んできた。紙一重で男はナイフを避ける。
「カイ!」
「ナギ、大丈夫か!?」
抜き身の剣を携えてカイが走ってきた。ああ、もう大丈夫だ。カイの姿にひどく安心したわたしは、邪魔にならないように少しクロムから離れた。
「男は殺すな! 娘だけ連れて行け!」
「ディルスクェア家に頼まれたか。ナギは渡さん!」
ディルスクェア? この人たち、カイの家から派遣されてきたの!?
わたしは数日前にカイに言われたことを思い出した。
“時空の迷い人”は非常に貴重な存在なんだそうだ。エリートである魔法使いを産む存在。わたしがそれだと知られたら、いろんな人に狙われる。その筆頭がカイの実家なんだそうだ。
--あの家は、きっとおまえだけさらってこいと指示をしているだろう。目当てはナギだ。気を抜くな。知らん奴についてくな。
熱心に言葉を教えてくれたカイは、何度もそう言っていた。なんで偽名を使っているのか、なんで実家からそんな指示が出るのかは教えてくれなかったけど、カイが実家を信用してないのだけはひしひしと感じた。
でも、まさかこんな早くに出遭うとか思わなかったよ!




