この憎たらしいテンプレに満ちた世界
どんちゃん騒ぎで勝手に村人が自滅した村から、てっこてっこと右に曲がる街道に突き当たるまで歩く事二日。
…なんかすぐ着きそうな言い方しやがってあのゲロ村長が…!吐くのはゲロだけにしとけよ…!
…まぁとやかく言ってもしゃーなし。とりあえずその『右に曲がれば王都に向かう』であろう突き当たりに間違いなく到着した。立て看板あるし。
「…ふむ、右は王都。左は……うっわぁ……」
←野獣の森(危険!) 王都→
…あのさぁ(呆然)。
立て看板は別にいいんだよ。交通標識とか無い世界だからあって然るべきだもんよ。危険って注意喚起してるのも良し。
……看板の左側に、あからさまに新しそうな血がベッタリついてるのを除けば、だけど。あと、その危険らしい左側の道に、これまた真新しそうな血痕とガッタガタの轍がある。あと複数の足跡。そんでもって極めつけが…
「…剣戟の音が聞こえるんだよなぁ…」
身体能力がアホみたいに上がってるのが起因してるのか、聴力がすんごい上がってるんだよねこの身体。
んでその聴力が聞き取ったのが、左側の道の先から聞こえる『ギャリンギャリンと剣を打ち合う音』と『男女入り乱れた悲鳴とクッソ汚い男の声』。
…あの村を出てから二日、たった二日の短い道中であるにも関わらず、ありとあらゆるテンプレを喰らい尽くし、ワタクシもうお腹一杯どころかゴッボゴボ逆流しまくっております。
見た目が元々優男だからか、日中にも関わらずヒャッハーズとはベクトルの違った野盗に遭遇しては丁寧な説得でお帰りいただいたり、逆に野盗と間違えられて貴族を名乗る女性騎士に勝負を挑まれて返り討ちにした挙句、詫びをしたいから家に来てくれと言われたり、夕暮れには王都に向かうという商団に出会い、食料を分けてくれとの事で一緒に夕飯を食ってたらまーた野盗に襲われ、過食気味のテンプレに嫌気が差してちょっと強引な説得でお帰りいただいたら、商人の娘さんにお礼がしたいからと家に誘われ、翌日ちょっと雉を撃ちに脇道に外れたら罠にかかっている犬みたいなのがいたので助けたら実はそれが知性を持った魔物らしく、親とはぐれて寂しいし強そうだし世界を見て周りたいから一緒に着いて行きたいと言われ…
「もうオールタイムリバース出来るぐらいいっぱいいっぱいなんですよ二つの意味で…」
「がう?(なにが?)」
…一応人がいそうな場所では、犬っぽく振舞いつつ念話的な事で会話してくれっつったら、ホントにこの仔やってくれるから楽でいいわ。あぁ、別に念話じゃなくてもちゃんと話せます。
ちなみに名前はソラ。テンプレに飽き飽きして上向いたら青い空があったからという究極的に安直なネーミングセンス。そしてそのソラは現在俺の頭の上でスライムみたいにぺたぁと張り付いてます。中々に可愛い。
「…きっと左の道に行ったとする。そしたら多分、俺はまた見たくも会いたくもない『テンプレ』というクソ野郎と再会する事になると思うんだ」
「がう?(てんぷれ?)」
「そう、この三日ぐらいで一番嫌いになったモノだ。そして、嫌いなのに会う確率が異常に高い存在でもある」
好きだからいじめるいじめっ子よりも頻度が高い。ぶん殴ってやろうか。
「がうがう?(好かれてるんじゃないの?)」
「あぁ…多分、そのテンプレと一緒にやってくる『フラグ』ってヤツにも好かれてる可能性が高いな。くそくらえですわ」
「……がうがうがう!(……色んなものに好かれてるのね!)」
「いてっ、ちょ、いた、痛い、意外と痛い!」
なんかゴリゴリ音がしてるんですが、俺の頭皮は大丈夫なのでしょうか。
…しっかしまぁ、こうやって会話…会話?してる間にも、どんどん気配が弱くなってる存在がそこそこ増えていってるんだよねぇ…。
「…行かなきゃ、危ないんだろうなぁ…」
最早コレは何かしらのスキルが発動してんじゃなかろうか?