俺は抵抗するで? 拳で(使うとは言ってないかもしれない)
とりあえずソラを宿屋に預けて……というか王城にまで行けば自分の正体がバレかねないらしいから、私は研究を進めるわ、だそうな。
ソラさぁん……俺知ってるんですよぉ……? 城下町で一番美味しいスイーツと、そのスイーツに合う飲み物は何かを研究してらっしゃるんですってぇ……?
道理でねぇ! 俺の財布の中身がゴリゴリ減っていくワケですわ! まぁ高くても銀貨2枚程度で収まってるからただちに影響を及ぼすレベルじゃないけど、チリつもってご存知ですかね? ご存じない。
……まぁそんなワケで一人で待ち合わせ場所に行くと、そこにはオサレなカフェのステキな雰囲気をぶち壊す、フルアーマーでケーキを食うオッサンの姿がありました。正直お前営業妨害しかしてねぇなぁと思いました(小並感)
「おいそこのオサレとは無縁の中年」
「開口一番失礼だな君は!」
見てくださいよこの姿! こんなピッカピカでガチ戦闘しますを体現したフルアーマーがオサレなワケないでしょ!
「お前他人ばっか鏡面反射で見せといて自分の姿見た事無いのか?」
「……職務上での待ち時間だからね、鎧を脱ぐワケにはいかないんだよ」
「だったらオサレなカフェなんて指定してんじゃねぇよオラァ! お前また営業妨害してんじゃねぇかよぉ! 見ろよあの悲しげな店長の顔をよぉ! 無駄にお前が偉いから口出せなくて笑顔も口角が引きつってんじゃねぇかよオラァン!!」
これ以上店長を悲しませてはいけない(戒め)ので、とりあえず金貨を3枚程お渡ししてこのオッサンを引き取らせてもらった。元はと言えば王城に呼び出された俺が悪いからな、オッサンがフルアーマーでカフェで普通にカフィ(ネイティブ)を嗜むとは思わなかった思慮の浅さも含めて。
そして金貨を渡した時に涙ながらに感謝をされて、1か月コーヒー無料券を貰ったのは不幸中の幸いというか何というか。(こんなのが近衛騎士団トップとか)これもうわかんねえな。
― ― ― ― ― ― ― ― ― ―
「お」
「え? あっ!」
「あらあら」
どうにかこうにかオッサンに道案内をさせて王城の正門前に到着すると、目の前に止まってた馬車からあの時の女の子と母親が降りてくる瞬間だった。いやーお二人ともお元気そうで何より。……片方はどてっ腹に風穴空いてたからなぁ。
「その後お体の調子はどうですか? 結構強引に治療……治療?したもんで気にはなってたんですが」
「あら~ご心配おかけしたわね~! むしろ以前よりも体の調子が良くって、かかりつけのお医者さんに『全身の細胞が10代後半ぐらいまで若返ってますよ!』な~んて言われちゃって!」
細腕に力こぶを作ろうとして一切出来ず、あらあらと照れる母親さん。
……絶対あの治療法が過活性というか腹部を通して『回復し過ぎた』んだろうなぁ……。というかまぁ全盛期というか育ち盛りまで細胞が若返ったならデメリットも無いしいいか。実際肌ツヤが……俺この人の肌、治療した時しか見てないから血まみれだったわ……。
「……実はお母さん、あの時お腹の中にしゅよう?とかいうのがあったそうです。良いものか悪いものかは分かりませんでしたけど、元気になったので良かったです!」
うーん……この世界の医術ってのがどのぐらいのレベルか知らんけど、細胞の若返りが分かるぐらいだから摘出手術が出来るぐらいには技術があるんだろうなぁ……それを麻酔無しで森の中で摘出と治療って、一番最悪なパターン踏ませてんだけど……元気ならいいか(達観)
「あっ、そういえば自己紹介がまだでしたね! 私はフレイ・アルスターと言います!」
「私はクレア・アルスターよ~。アルスター商会っていうところで商会長をやってるわ~。日用雑貨から武器まで何でもござれよ~!」
「俺はユウト・サガミと言います。……しかし商会のトップですか、しかも扱ってる商品の幅も広いと来たもんだ」
……一応この人も『金も権力も持ってる人』の部類に入るんだろうけど……権力を振るわないというか振るえない人にしか見えないんだよなぁ……。ま、扱う商品の幅が広いから、逆に言えば評判はどこからでも聞けるって事にもなるんだけど。
「サガミ……この辺りではお聞きしない家名ですね?」
「あぁうん、生まれは極東の小さな島なんだよ。修行の名目で島から出て、スタートがこの国だったんだ」
「極東……あらあら~、じゃあじゃあユウトくんは『カタナ』ってご存知かしら~? 極東の特殊な技術を用いて作られた、観賞用にも戦闘用にもなる片刃剣なんだけど~……」
「えぇ、知ってますよ。というか実家にも数本置いてありました。さすがに見た目が目を引くので持っては来ませんでしたが」
前半はほぼ実話、後半は嘘。日本にいた頃、父親が大の刀剣マニアだったんだよなぁ。『ほぼ実話』の理由は、なまじ金は稼ぐから刀剣につぎ込む額も本数もそれはそれは恐ろしいものだった、という事であって……
3か月に1回ぐらいのペースでどこかしらから刀やら両刃剣やらを買ってきては『あぁ^~心がぴょんぴょんするなぁ^~』ってウットリして眺めてたのは、子供ながらに気持ち悪いと思った。ま、それも全部灰燼に帰したワケだけど(文字通りとは恐れ入った)
……おっと、時間もおしてるだろうからさっさと用事を済ませて帰るか。
「よしオッサン、王妃様の下に案内せい」
「君は私に対する扱いが杜撰じゃないか?」
自業自得なんだよなぁ……(呆れ)
― ― ― ― ― ― ― ― ― ―
そして一気に進んで王の間の扉の前。
「お二人はマナーなどはご存じなので特に言う事はありません……が、君は私にやってるみたいな事は絶対にしてくれるなよ?」
「おっ、フリか?」
「なんでそんな笑顔で言うのかな?!」
いい怯え顔だなぁ! 俺の心の傷がどんどん癒されていきますよ!(ゲス顔)
とまぁ冗談はさておき。一国のトップにバカやるような教育は受けてないから安心しろ、とは言わずにとりあえずサムズアップだけしておいた。どう捉えるかはそちら次第です(更にゲス顔)
「……エターニア王国近衛騎士団団長、ロバート・グラルシア! フレイ・アルスター様、クレア・アルスター様、ユウト・サガミ様をお連れいたしました!」
サムズアップをどう捉えたのか分からんけど、観念したのか門前で報告をするオッサン。フルネームが無駄にカッコイイじゃねぇか。
「入れ」
凛とした女性の声がした直後、ゆっくりと王の間の扉が開いた。そこにいたのは……
(はぇ~……すっごい美男美女)
王座の両隣に立つ美少年と美少女、そして王座に腰掛ける美女だった。遺伝子って凄い。
「お三方、王妃様の御前である」
『ははーっ!』
王座の手前数mぐらいまで近づいたあたりでのロバートのオッサンの一言で、片膝を付けて首を垂れる。異世界物の小説でよく見かけるシチュだっただけに、この世界も同じような感じでよかったわ~。
「面を上げよ」
王妃様らしき声が聞こえて、俺らは顔を上げる。
「……此度は我が夫の失態により、アルスター家には多大な被害と優秀な戦士……そなたの夫を失わせる事となってしまい、誠に申し訳ない。そこな青年……ユウトと申したか、貴殿にも勇者討伐という任を居合わせた結果背負わせてしまった事、心苦しく思う」
「いえ、夫も戦士として生きてきた人間でしたから、死とは切っても切れない関係にあったのは重々承知していてあの仕事を引き受けたのですから、必要以上に王妃様が悲しまれる事は夫も浮かばれないかと思います」
「……うむ、そう言ってもらえると妾も救われる。そしてその償いを金でしか出来ない妾を許してほしい」
…………
「そしてユウト・サガミ殿。貴殿には一番迷惑をかけた。本来こちら側がやらねばならぬ汚れ仕事をさせてしまった」
「成り行きとはいえ、自分に彼女達を助ける力があっただけの事ですので、あまりお嘆きにならないでください。修行中であまり語れる程出来た人間ではありませんし、顔を突き合わせたのもあの場が最初で最後でしたが、あの『狂人』はあの場で止めなければより大きな被害が出ていたと思われます。それを未然に防げただけでも十分な名誉かと思います」
「……そなたは妾の息子ほどの歳であろうに、随分と器が出来ておるようだ。しかも先に手を打ってこれ以上の名誉はいらぬと来たか。……とはいえそなたは勇者のみならず我が国で目の上のたんこぶになっていた盗賊団をも討伐したのだ、修行中と言っていただけに爵位などを与えて国に縛るわけにもいかぬし、せめてながらそなたの助けにしてもらうべく報奨金だけでも受け取ってもらいたい。それぐらいは構わぬか?」
「ははっ、ありがたく頂戴致します」
……あっぶね、修行中って言ってなかったら爵位渡されるとこだった……。やっぱり王妃様が一番危険だな。
「……例えばの話なのだが」
「はい?」
いきなり例えばの話とかどうしたんだろ? 例えば金貨うん百枚貰ったらどうするか、とか聞くんかな?
「例えば、妾がそなたをこの城から出さない、と言ったらどうする?」
「……そうですね、王妃様が私をここから出さない、と言うのであれば……」
「ここから城門までは確実に、人が一人通れる分だけ一直線に更地になると思ってください。しかしなにぶん修行中で加減が分かりませんので、直線状にいる人物や城門より先が安全かは保障しかねます。嘘だとお思いでしたらお試しになりますか?」
もちろん、俺は抵抗するで? 拳で。
……というか実際最初にいた森でやってんだよなぁ……。




