第8話 抹消された戦士の記録と、ポンコツ元英雄の観察眼
「……で、受付の魔導端末が過電流で一時的に焼き付いたと。クーノスさん、何かしました?」
「いやぁ、新人ちゃんが可愛らしくレクチャーしてくれるもんだから、ちょっと懐かしくて魔力を込めすぎちまってねぇ」
「ちょっとではありません!!」
受付での一騒動と新人ちゃんの興奮冷めやらぬ報告をなんとか収め、私は羊皮紙課の執務室へと戻っていた。
デスクの上に高く積まれたのは、急ぎ提出させた旧坑道関連の報告書と、過去のギルド職員の行動記録。
緊急手配をかけた元ギルド職員──ギャレット。
彼がU型アンデッドに侵食されて以降、不正に書き換えた報告書や、坑道へ誘導された駆け出し冒険者たちの被害録など、不快な悪事の数々は多岐に渡る。現在確認できるだけでも数百件は優に超えていた。
だが、ただ一つ。どうしても説明のつかない違和感が残っている。
「……おかしい」
「どうした、お嬢さん。書類とにらめっこして怖い顔をして、せっかくの可愛い顔が台無──」
ヒュンッと風切音を立て、私はクーノスさんの目の前の壁に向かって拳を突き出す。余計な一言を添えようとしたお喋りな口は綺麗に閉じられたので、私は言葉を続けた。
「エドガーさん──モルブさんのパーティで、真っ先に犠牲になったはずの彼の記録だけが、どこを探しても見つからないんです」
クーノスさんは何事もなかったように私が見ている書類を一瞥してから口を開く。
「そんなことって有り得るのか? パーティを組んでたらそのパーティが受注したクエストの過去の記録や定宿とか把握してるもんだろう?」
「ええ、モルブさんのパーティの他のメンバーの記録はちゃんとあって確認可能でした。ですが、彼──戦士エドガーだけは抹消されているようで、きれいさっぱり削除されているんですよ」
私は改竄前のデータをサルベージできないか試してみるが……そちらも対応済のようだ。すると、クーノスさんは含み笑いをしながら考えを口にする。
「つまり、そこにギャレットだったか? 奴さんが知られたくない情報があるっていう確固たる証拠じゃねーか」
「そういう事ですね! では、モルブさんが回復し次第、エドガーさんの事を詳しく聞くとして……まずはクーノスさんの調書をまとめてしまいましょう!」
「えっ、俺!? 大体、オジサンが知ってることなんて全部話したろ? まだなんか聞きたいことあるわけ!?」
クーノスさんは私から、まるで猫が蛇を見た瞬間のようにピョンッと跳ねるような軽い仕草で離れた。
(いやいや、まだ何も終わってないから……)
ふーと私は気持ちを落ち着けるために深く息を吐き出してから調書用の紙を片手に彼に向き直り、核心的な質問をする。
「では、まずなぜエンプリア旧坑道の奥でその大剣と共に封印されていたんですか?」
するとクーノスさんはまた頬を軽く掻きながら困ったように笑う。
「うーん、さっき街に入る時に言ったように。この魔剣──時を喰う剣は街を吹き飛ばすって言ったが、正確にはそうじゃない……コイツは名前の通り、周囲の『時』つまり魔力を根こそぎ奪うんだ。だから、魔力量が多い、俺がコイツのお目付役として選ばれたってわけ」
「つまり、無効化のボロ布で打ち消すだけでは足りなくて、その大剣は常にクーノスさんの魔力を吸っているという事ですか?」
今度は身構えていたのもあり、どうにか言葉を返すことが出来た。私の考察に驚いたようで彼は一瞬、目を見開いたが、直ぐにゆっくりと瞬きをしてから話を進める。
「おっ、流石! その目で見えていたのかい?」
今度はこちらが驚く番だった。まさか、私の異能力に気付かれていたなんて……。
「オジサンの知り合いにも居たのさ。そんな風に目が特殊な奴が……お嬢さんのはどうやら魔力関係を詳しく視ることが出来る能力で良いのかい?」
「ええ、そうです。本来、肉眼では見えない超高密度の魔素粒子の流れなどを──って、なぜそれを……?」
「うーん、勘かなぁ。戦闘時のお嬢さん、見えていないと出来ないような動作が多かったからというか……まぁ、そんな感じだ」
歴戦の勘と観察眼であっさりと見抜かれていたらしい。完全に勘付かれたのなら隠しても仕方がない。私は観念し、改めて自分の特性について軽く話をした。クーノスさんはうんうんと首を動かし、納得してくれたようで話を戻してくれた。
「まぁ、今の所、オジサンの1日の魔力回復量を上回る事は無いので、こんな風にこの剣を持ち歩けるのさ。だから、あまり魔法は使えないからそこん所はよろしく」
なんてこともないように言ってのけるが、かなりキツイ事だと分かる。私の異能の目には常に魔力を吸収し続けるのがハッキリと見えている。通常の人間では到底耐えられない苦痛だろう。
だが、彼があまりにもあっけらかんと言うので私はそれ以上追求出来なかった。だから、話題を変える事にした。
「分かりました。ですが、そんな危険物を放置しておくわけにはいきません。当面、しっかりとした封印処理をするまではクーノスさんに所持して頂いて、私と行動を共にして頂きます。我等、特務捜査課の任務は古代遺物の回収、管理・保護ですので!」
私はクーノスさんに向かって力強く宣言する。
クーノスさんは「うわぁ、こりゃ逃げられそうにないねぇ」と盛大に肩を落としたが、私はそんな彼の抗議を完全に却下してテキパキと準備を整える。
「エドガーさんのデータは綺麗さっぱり消されていますからね。モルブさんが目を覚ますまでの間に、まずは彼らの『定宿』へ向かいましょう。当時を知る他の冒険者たちへ聞き込みに向かいますよ」
「へいへい、仰せの通りに……って、オジサンはすっかり引っ立てられる容疑者ポジションじゃないか」
ぶつぶつと文句を垂れ流すポンコツな元英雄を連れ、私たちは次の捜査へ向けて執務室を飛び出したのだった。
第8話をお読みいただきありがとうございました!
ポンコツと思いきや、戦闘時の動きだけでレルカの異能を見抜いていたクーノスさん……実はめちゃくちゃ観察眼が鋭いですが普段は力を抜いているようです。
そして消された「エドガー」のデータ。少しずつ事件の裏が見え隠れしてきました。
ここで皆様にちょっと質問です!
「元英雄なのにすっかり連行される容疑者扱いなクーノスさんですが、皆様はこのコンビのやり取り、どう思いましたか?(笑)」
「この二人好き!」「もっと振り回されてほしい!」など、ぜひ感想を教えていただけると嬉しいです!
次回の第9話は、【8/21(金)の夜(19:00頃)】に投稿予定です。
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