クズ賢者、遠出をする
それから三日後。
カインはフィオを連れ、とある場所を訪れていた。
「おお、ここだな」
「ここー……?」
カインが示した場所を見て、フィオはきょとんと首をかしげる。
ライラックの町から馬車と船を乗り継ぎ、丸三日。ふたりがやって来たのは、王都から見て東方に位置する山奥の山道だ。
両側を深い森に囲まれており、前も後ろもカインたち以外に人影は見当たらない。
道の隅には石でできた小さな祠がぽつんと置かれていて、それが景色の物寂しさに拍車をかけていた。
フィオはあたりをキョロキョロと見回して、不思議そうに首をかしげる。
「何にもないよ。道を間違えたんじゃないの、パパ」
「そうとも言えるし、そうじゃないとも言えるな。ほら、フィオなら分かるだろ。魔法の気配を感じねえか?」
「そう言われてみたら、ちょっとそんな感じもするね……何かここにある?」
「おお、正解だ」
目を細めて祠をじーっと見つめるフィオ。
その頭を撫でて、カインは声を張り上げる。
「俺様はカイン・デュランダル! 招待を受けて参上した! 門を開けてくれ!」
「ひゃっ!」
突如として祠がまばゆい光を放ち、フィオが驚いてカインの足にしがみつく。
やがて光が落ち着いたあと、フィオは恐る恐る目を開き……ぽかんと言葉を失った。
目の前の光景が完全に変化してしまっていたからだ。
「ようこそ、ソメイ荘へ。お待ちしておりました」
裏寂しい山道から一転、そこには大きな平家の屋敷が堂々とした佇まいを見せていた。
桃色の花をつけた木々が屋敷をぐるりと取り囲み、小さな花びらを振りまく。
そしてその入り口には、花と同じような色の奇妙な衣服を纏った者たちが立ち並び、カインたちへ恭しく頭を下げていた。
言葉を失っていたフィオだが、すぐに感嘆の声を上げる。
「すごーい! なにこれ! なにここ!」
「知る人ぞ知る隠れ宿ってやつだ。招待を受けたやつしか入れねえのさ」
ソメイ荘。
王家や豪族、各界重要人物などなど……さまざまな身分ある者だけが入ることを許される、最高級の隠れ宿だ。
ここに入ることができるのは宿泊客と、それに招かれた招待客のみ。
羽を伸ばすのにうってつけの場所ではあるが……それと同時に、秘密の話をするのにも最適な場所なのだ。
(たしか、ここの主人が変わり者なんだっけか。人間じゃなくて、すげー長生きの種族だとか、なんとか……)
カインも噂には聞いていたが、実際に来るのはこれが初めてだ。
目を輝かせてあたりをキョロキョロするフィオの頭をぽんぽん叩き、宿の入り口を示してみせる。
「まあともかく中に入ろうぜ。俺様たちを待ってる人がいるはずなんだ」
「待ってる人? フィオが知ってる人?」
「そりゃ会ってのお楽しみだな。でもたぶん、フィオのこと可愛がってくれると思うぞー」
カインはいたずらっぽく笑い、宿のスタッフに案内を頼んだ。そのままふたりが靴を脱ぎ、宿の奥へと姿を消したあと――。
「……ここがソメイ荘か」
「お待ちしておりました。ヒューゲル・ガエリウス様」
あのヒューゲル将軍もまた、ソメイ荘に到着した。
続きは5月7日(木)更新します。
おかげさまで総合20,000ptももうすぐ超えそうです!ありがとうございます!めちゃくちゃ趣味に走った話ではありますが、楽しんでいただければ幸いです。





