クズ賢者、手紙を受けとる
ジュースをみんなで乾杯して、ついでに三時のおやつ(こちらは支払った)を振る舞った。
フィオとマリアはにこにことクッキーを頬張っていく。
そんなふたりにカインは相好を崩しつつ、ふとふたりが広げる画用紙が気になった。
「ところでふたりとも、さっきから何を描いてんだ?」
「えへへー、見たい? 見たい?」
フィオはいたずらっぽく笑って、画用紙を差し出してくる。
そこには色とりどりのクレヨンで――。
「フィオはねー、フィオとパパを描いたの!」
「おおおっ……!」
黒い髪の大男と、白い髪の小さな女の子。
そんなちぐはぐなふたりが仲良く手をつなぎ、にっこり笑っている姿が描かれていた。
見ているだけで胸がいっぱいになるようなあたたかな絵だ。
マリアも恥ずかしそうに自分の画用紙を見せてくる。
「私も……私と、ママを描きました」
「そうかそうか、ふたりともよく描けてるなあ」
カインはふたりの頭をにこにこと撫でる。
フィオはもちろんのこと、マリアもすっかり慣れてくれたのか、逃げることもなく照れたように笑う。
そんなふたりをひとしきり褒めてから、カインはトーカに呼びかけた。
「トーカ! この商店で一番いい額縁をふたつくれ! うちとマリアの家に飾るために!」
「はーい、毎度ありがとうございます~♪」
トーカは明るい声で返事して、店の奥へと引っ込んでいった。
ジュースなどの商品を冷やすバイトとしてこのところ毎日ここに呼ばれているが、駄弁れば駄弁るほどカインが金を使うと思って呼び出しているような予感がうっすらした。
そんな親馬鹿のカインはよそに、フィオはマリアときゃっきゃとはしゃぐ。
「そういえばマリアちゃん、こっちの紙にも何か描いてたよね? 何、何?」
「こっちはね……じゃーん。お姫様です」
「お姫様!」
ピンクのドレスで着飾った女の子の絵を見て、フィオは目をキラキラさせる。
「知ってる! この前パパに読んでもらった絵本に出てきたよ! 『ごきげんよう』って言うんでしょ?」
「そうそう。フィオちゃん、ごきげんよう?」
「ごきげんよう!」
そのままふたりはお姫様ごっこに興じ、またお絵かきに夢中になる。
それを微笑ましく見守りながらも……カインはふと思いを巡らした。
(お姫様ねえ……そういや、リリア姫はお元気かなあ)
カインにとって『姫』というのは絵本の中の存在ではなく、身近な存在だ。
とはいえ王都を追放されてから一度も会えていない。今ごろどうしているか……と考えた、ちょうどそんな折だった。
「あっ、そういえば」
トーカが店の奥からひょっこりと顔を出した。
額縁を持ってきたのかと思いきや、彼女は手ぶらのままカウンターの引き出しをがさごそとあさり始める。
「実は昨日、カインさんへのお届け物を預かっていたんです」
「俺に? なんでまた」
「どうも、いろんな行商人の方に託されて来た荷物らしくて。巡り巡ってうちに届いたんですよね」
そう言って取り出すのは、一通の封筒で。
「無賃での頼まれごとだったので、すっかり忘れていました。こちらの封筒です」
「お、おまえらしいなあ……どれどれ」
苦笑しつつ、カインはその封筒を受け取る。
蝋で封が成された、いたって普通の手紙のようだが――カインはわずかに目をすがめる。
(封印の魔法か……俺以外には開けられない仕組みだな)
カイン以外の人間では、たとえどんな方法を用いたとしても、この手紙は開封できない。悪用する気が失せるような心理誘導の魔法もかかっていた。どちらもそれなりに高度な術だ。
こんな芸当ができる知り合いは数少ない。
もっとも可能性が高いのは――クーデリア・ベルンシュタイン。
世界各地に支部を持つ冒険者ギルドの統括長であり、カインの数少ない理解者。
サキュバスでもある彼女なら、この手の芸当は朝飯前だ。
それはひとまず置いておき、カインは手紙の封を切る。
中にはたった一枚の便せんが収められていた。それにざっと目を通し、カインは顎を撫でて唸る。
「……なるほどねえ」
そうして手紙を虚空にかざす。
すると紅蓮の炎が紙を包み、あっという間に灰が床へと散らばった。
それを見て、トーカが眉をひそめてみせる。
「処分するのはカインさんのご勝手ですが……お掃除するのは私なんですよ」
「おっと、すまねえ。これから買い物するから、それで許しちゃくれねえか」
「お買い物ですか? でも、日用品はまだ当分不足はないと思うんですけど」
「ちょっと野暮用ができちまってな。おーい、フィオ」
「なあに、パパ?」
紙から顔を上げ、フィオは小首をかしげてみせる。
そんな愛娘に――カインはいたずらっぽい笑みを浮かべて、こう告げた。
「ちょっと俺様と遠出するか。旅行だ」
「旅行!? 行く!」
続きは5/5(火)に更新します。
本章は週二回、火木更新の予定です。こんな情勢ですし、すこしでもお暇潰しになりましたら幸いです。





