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第109話 北の村へ

 冒険者ギルドから正義の薔薇に関する驚くべき知らせが届きました。彼等は何者かの手助けにより牢獄から脱獄したそうです。


 私たち大樹の槍に報復しに現れるかもしれないということでギルド員さんが朝早くからわざわざ報告に来て下さいました。


 何者が手引きしたにせよロンドールの牢獄から逃げるなど通常ではあり得ないことです。幸い犠牲になった方はいないそうですが黒幕の正体は大物だろうということで慎重に動くしかないため中々調査が進まないそうです。


 あれから私のそばにはネイナさんが付いてくれるようになったので彼等が襲ってきたとしても特に問題はないので全く恐ろしくはありませんが彼等は一体何者だったんでしょう。


 その報告を聞いたメアは表情を無くして「消しておけば良かった」と物騒なことを呟いています。そしてお母様の弟子だったレイラさんは正義の薔薇にまんまと逃げられたこの国の兵士さんたちに怒っています。それをマグナスさん達が諫めています。


 建国祭という目出度い日が近いというのに嫌なことが続きますね。


 それにしてもいつもなら一番に怒り出しそうな兄様が静かにお茶を飲んでいます。シスイさん、ネイナさんも同様、マクスウェルさんは……普段からやる気がないので特に変わりありません。


 何だか怪しいですね。


「兄さん、何かご存知なのですか?」


「いや、知らないが奴らは既に犯罪者だ。もしも報復をして来たら容赦無く斬り捨てれば良い」


「確かにそうですが……」


 兄様の表情はピクリとも動きません。

 フリーデンの次代を担う兄様と腹の探り合いをしても私に勝ち目はありません。もし何かを知っていたとしても私に教えないということは知らなくても良い情報だということでしょう。


 この話はここで終わりのようですね、


 正義の薔薇の件はこの国に任せるとして、私は私のやるべきことをやるとしましょう。


「さてと、依頼を受けに行きましょうか」


 メアとネイナさんに声を掛けて冒険者ギルドに向かう準備をするために一旦部屋に戻ります。


「ミレイ」


「何ですか兄さん?」


「昨日の話だが例の貴族に目を付けられるようなことはしていないんだよな?」


「はい、周りにいた人々の後ろで見ていたので大丈夫だと思います」


「そうか、なら良いが。ネイナ頼むぞ」


「任せて欲しいにゃ」



 ◇



 冒険者ギルドに入ると皆さんの視線が一気に私に向かって来ました。殺気などではなく哀れみの視線というか何というか、敵意は感じないので問題はありませんが、正義の薔薇の話題がもう広まっているということでしょうか?


 そのまま掲示板に向かうと緊急手配が張り出してある場所に正義の薔薇の面々の姿が張り出されていました。つい最近まで期待のDランク冒険者だったのにもう完全な犯罪者になってしまいましたね。


「行きましょう」


「そうですね」


 Cランク依頼を見にいくとそこにはいつにも増して多くの依頼書が張り出されていました。建国祭に合わせて様々な食材を求める依頼が多いようです。以前行ったジュエルベリーの最終依頼もあるようです。


 さて、依頼は選り取り見取りではありますがギルドからの評価が一番高くなりそうな物はどれでしょうかね。



 これは良いかもしれません。


「この北のあるシャーナ村の村人を襲っているというサルベアーの討伐に行きましょう」


「しかし建国祭まであと四日、特定の魔物を相手にすると建国祭に間に合わない可能性がありますよ」


 メアが今からこの依頼を受けると建国祭までに戻ってこれないのではないかと言いました。私が建国祭を楽しみにしていたからでしょう。


「三日もあるのですから一日ぐらいなら遅れても平気ですよ。それに今回はネイナさんがいるんです。到着して直ぐに終わってしまうかもしれませんよ」


 それならば構わないとメアは頷きました。


「そんなに期待されると困ってしまうにゃ」


 ネイナさんは照れたように頬をかいていますが襲われた痕跡が残っていればネイナさんなら間違いなく探し当ててくれると思います。


「これは大樹の槍の皆さん。今回の件は申し訳ありません」


 受付に向かうと受付嬢のサナさんがいて挨拶をするとすぐに謝ってきました。


「いえいえ、ギルド側の責任ではありませんよ」


「建国祭を前に多くの人々が街に来ているので国の方でも中々行方が分からないそうです」


「そうですか、確かに人が多いですからね。今日はこの依頼をお願いします」


「この依頼を受けて下さるんですね。この時期ですから日数の掛かる依頼を受けて下さる方が中々いらっしゃらなくて、助かります」


「では行ってきます」


 北のシャーナ村には馬を走らせても一日近く掛かるそうですが私のユキならそんなに時間は掛かりません。久しぶりに遠駆けをさせてあげることが出来そうです。


 一旦宿に戻ってヨハンさんとロナさんにもしかしたら数日戻って来られないかもしれないと伝えます。


「村人に被害が出ているなら止める訳にもいかんな」


「建国祭までには戻って来られると良いんだけどね」


 やはり二人とも建国祭のことを気にしているようです。今回はたまたまこの国にやって来ましたが次の建国祭に参加出来るのがいつになるのかは分かりませんからね。


「出来るだけ早くに帰って来ますね」


「気を付けて行って来るんじゃぞ」


 兄様たちへの伝言を任せて私たちは厩舎に向かいます。私に気付いたユキが嬉しそうな声を上げました。鞍を付けてから門に向かいます。


 大人しく付いてくるユキを見ていると昨日のことを思い出してしまいました。馬は賢く優しいのですから不用意に人を傷付けたくなどないはずなのに、あの貴族の後継は馬に人を傷付けさせようとしたようなものです。何だか無性に腹立たしく感じて来ました。


 ——ブルル。


 するとそんな私の怒りを感じ取ったのかユキが頬に顔を擦り付けて来てくれました。その優しさにスッと怒りは収まりました。


 ふう、これから依頼に向かうというのに余計なことを考えている暇はないですね。



「地図ではここから真っ直ぐ北に向かった先にある森の手前に村があるようです。出来るだけ早く向かいましょう」


「分かりました」


「了解にゃ」


 ユキたちを本気で走らせると風圧が凄いでしょうから最初に風魔法を使い風圧を受けないようにしておきます。そして私たちはシャーナ村に向かって進み始めました。


 幸い天気も良く足場が良いためグングン速度が上がって行きます。気を付けなければならないのは建国祭に参加するためにロンドールに向かう人たちと時々すれ違うので彼等に怪我をさせないようにすること、彼と同じような真似をするつもりはありません。


 風のように駆けるユキはご機嫌でまだまだ速度が上がって行きます。メアとネイナさんの乗る馬たちも機嫌が良さそうに鳴いています。


 街道をロンドールに進んでいく人たちが一瞬で後方に消え去って行きますがその誰しもが目を見開いて驚いているのが分かります。


 私たちの自慢の相棒ですから当然です。



 ◇



 川を見つけたのでユキたちを休ませることにしました。この子たちほどの馬が本気で走ると乗っている私たちもかなりの体力を使います。まだまだ余裕ですが全身が鍛え上げられるので良い修行にもなります。そう考えると依頼も出来て修行も出来る。それにユキたちのストレスを解消することにもなります。一石三鳥ですね。


 今度から適度な距離での依頼を受けるのも良いかもしれません。早く解決すれば評価も高いでしょうから。


「お茶をどうぞ」


「ありがとうメア」


 見る人によってはおかしな光景に見えるかもしれませんがテーブルや椅子を取り出して休憩しています。


「獲ったにゃー!!」


 ネイナさんは川魚獲りに夢中、猫人族の方は本当に魚が大好きですね。

 ルルは自分の家を取り出して中に入り出てきません。中を見ようにもカーテンが閉められているので様子をうかがい知ることは出来ませんが眠っているのでしょうか。

 ユキたちの鞍は外してあげて野草を食べています。まだまだ走ってもらわなければなりませんからね。まぁ疲れた様子は全くありませんが、先ほどももっと走らせてた頬を擦り付けてきましたから。




「この分だと日が暮れる前には到着しそうですね」


「この子達もご機嫌ですからね。さてと、そろそろ出発しましょうか?」


「はい」


 休憩を終えてまたシャーナ村に向かって駆けていきます。お昼が近くなるとネイナさんが獲った魚をおかずにして昼食を取り、また進み休憩を繰り返します。


 その途中で何度か魔物に遭遇しましたが平原に現れる魔物ということで大したこともなくユキたちが蹴り飛ばして終わりでした。そもそも魔物が追い掛けて来ても周りの風景と同じようにサッと消え去っていくのでわざわざ戦うこともないですが進行方向にいた魔物は運がなかったですね。素材や魔核は勿体無い気がしますが無駄になるということはないですから。



 そして丘を越えると大きな森が見えてきました。その手前に小さな村があります。



「あれが、シャーナ村ですね」


お読みいただきありがとうございます。たまに書いていた蒼き瞳のノベリスタを投稿し始めたので良かったらご覧くださいm(_ _)m

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