第108話 閑話 散った薔薇
前話が新しい話になります。
「彼奴ら、また面倒な真似を」
冒険者ギルドの一室にて一人の老人が兵士と思わしき姿の男性から話を聞き、眉をひそめて呟いた。
「——報告以上です。この度の失態、誠に申し訳ありません」
「いや、そもそもこちらの者だったのじゃ、それに何者かの介入があったように思える。いち冒険者が牢から逃げるのを予想するの困難じゃ、だが何者が……」
頭を下げた兵士に向かって手を向けて責任はこちらにもあると語る老人、ギルドマスター、ヨハン・グライブはある問題を起こした冒険者たちの姿を思い浮かべて眉をしかめる。
その冒険者たちとは正義の薔薇というDランク冒険者が集まって出来たパーティ、彼等は同じくDランク冒険者のパーティである大樹の槍を魔物から逃げるために囮に使い逃げた。
間違いなく死んだと考えていたのか平然と冒険者ギルドに顔を出していた彼等が見たのは生きて戻って来た大樹の槍の冒険者たち。
彼等のリーダーであるシルナ・イバヤはあまりの驚きに自分たちが大樹の槍を囮に逃げたと分かる内容を話してしまう。前日に紅蓮の華というロンドールでも顔の冒険者パーティから正義の薔薇の所業について報告を受けていたのだが証拠が無ければギルド側としても動けない。しかしシルナ・イバヤの放った言葉により彼等は一時的に拘束された。
より詳しく話を聞くために彼等を別々の部屋で尋問するとこれまでにも様々な犯罪行為を行なっている可能性が浮上した。
自分たちではまだ厳しいと思われる魔物を他の冒険者に戦わせて疲れているところを襲撃して殺害したり、街で気に入った女性を襲い口封じのために殺したりと様々。
そして今回、調べを進めていく中で被害に遭った大樹の槍が魔物に襲われる原因も彼等であることが分かった。パーティのメンバーを増やそうと大樹の槍のメンバーを誘うが断られ続け、諦めきれなかった彼等は愚かにも大樹の槍を魔物に襲わせて助けることで恩を着せてメンバーに迎えようとしていた。
しかし魔物を連れて大樹の槍に襲わせる役を演じることになった正義の薔薇のメンバー、リシパ・イザウは自分の実力以上の魔物に遭遇して殺されてしまった。
彼等は冒険者の称号を剥奪されるだけでなく様々な犯罪を行なっている疑いからロンドールの兵士に引き渡されることになり投獄されることになった。
しかし翌日になって兵士が巡回してみると正義の薔薇の面々が全員その姿を消していたのだった。
「……一体何処へ逃げたのだ」
◇
兵士たちが街中を駆けずり回っている頃、正義の薔薇のメンバーは既にロンドールの街を脱出して森の中を走っていた。シルナたち正義の薔薇は近くを走る数人の黒ずくめの者たちの姿がある。
整った容姿に身奇麗な鎧を身に付けていた彼等だが現在は投獄されていたことにより乱れた髪と汚れた服を着ている。以前の彼等よりも今の姿の方が冒険者らしいというのは皮肉なものだ。
「ハアハア、助かったぞ。父上には感謝せねば」
言葉の通り、彼等を助けた黒ずくめの者たちはシルナの父親の手の者だった。彼の父親は商王国の貴族であり息子が投獄されたと知ってシルナたちを逃したのだった。
「ところで……何処に向かっているんだ? 言う通りに走ってきたが?」
「——グアッ!」
「おい、どうし——ッ!?」
突然聞こえてきた呻き声に驚いてシルナが振り向くと仲間が黒ずくめの男たちに斬られて倒れこんでいた。まだ息がある者がシルナに手を伸ばすが背中に剣を突き刺されて動かなくなる。
「な、何故!? こいつらは俺の仲間だぞ! お前らよくも主人に逆らったな!」
突然仲間が殺されたことに驚愕してシルナは動かなくなった。しかし直ぐに我を取り戻したシルナは仲間を殺した者に怒鳴る。
「貴方は我々の主ではない」
返ってきた答えに目を見開いて驚くシルナ、その間にも仲間たちが次々と殺されていき残っているのはシルナただ一人になった。
「な、何? 父上の手の者であろうが!」
「そう、我々の主は貴方のお父上」
「だったら同じことではないか!」
「……我々の受けた命は馬鹿な息子の命を奪うこと」
「何だと! そ、そんな馬鹿な! 父上がそんな命を出すわけがない。もう一度確認しろ! 俺は侯爵の息子だぞ」
父親が自分を殺す命令を出したと聞いたシルナは動揺して取り乱す。王都の監獄に囚われた者を逃すなど貴族といっても通常は出来ない。だがシルナの父親は侯爵、数少ない上級貴族の党首でありその地位に相応しい部下がいた。そして今回、建国祭を前に王都で問題を起こした息子が自分と繋がる前に処分することを決めたのだった。
シルナは四男であり長男と次男が優秀であった為に後継になる目は全くなかった。父親の地位を自分の地位と勘違いした彼は少しづつ歪んでいった。それが無意識に他人を見下す彼の原点である。
商才は皆無だと分かっていたシルナは貴族の一員として剣の腕を磨く機会があったため冒険者になることを選んだ。
彼が騎士のような装いをしているのは貴族だったことが影響している。仲間もシルナと同じく貴族の三男や四男など後継にはなれない者であった。
「お話はこれまでに、これもお父上のためだと思ってお覚悟を」
「よ、よせ! やめてくれ!」
彼等が本気だと理解したシルナは後ずさりしながら命乞いをする。しかし一言も発することなく近付いて来る黒ずくめの男たちから逃げ始める。
周りは暗闇、それと同化した彼等が追ってきているのか分からずシルナは恐怖しながら逃げ続ける。
「——クソッ、あの女のせいだ、あの女がいなければこんな事には」
必死に逃げたが転んでしまい何故自分はこんなところで惨めな思いをしているのかと土を掴む。そして自分が惨めな思いをしているのはミレイたちのせいだと憎しみを向ける。そしてこの場から逃げて復讐する。そう決めて立ち上がり一歩を踏み出す。
「——ガハッ」
暗闇の中突然背中に衝撃を受けた。
痛みで息が苦しくなったシルナは下を向く、そこには腹部から突き出る何かがあった。それを触ると何やら生暖かい感触があり自分の腹部から突き出ているのは剣だと理解する。
(……母上)
そして何度も何度もシルナの体を貫く剣、悲鳴を上げたくても口から出るのは大量の血、意識が薄れる中で思い浮かんだのはいつも優しげに自分を見つめていた亡くなった母親の姿、やがてシルナは動かなくなった。
「……帰るぞ」
遺体を焼き払い彼等から主人へと繋がる証拠を完全に消すと彼等は闇の中に消えていった。
彼等が姿を消してから暫くしてシルナたちが焼き払われた場所に二つの影が現れた。
「……まさかこうなるとは」
「奴等の後をつけた方がいいかにゃ?」
二つの影の正体はシスイとネイナ、ミレイたちを囮にしてその命を危険にさらした正義の薔薇を投獄されたといえどただ放置しておく筈もなく、その刑が執行されるのを監視していた。
そして何者かが正義の薔薇を牢獄から連れ出すのを確認して敵に気付かれることなく追跡してきたのだった。
「……いや、この国の貴族の暗部に自ら手を出すこともないでしょう」
「ふう、それもそうにゃ、とりあえず片は付いたしミレイ様たちを巻き込む必要もにゃいか」
「……帰りましょう」
主の娘に危害を加えた者たちの最期を見届けた二人は事の顛末を報告するためにまた闇に紛れて消える。正義の薔薇が秘密裏に始末されたことを知る者は一握り、彼等はまだ若く才能だってあった。真っ当に生きてさえいれば冒険者としての将来は約束されていたはずであり貴族として返り咲く道もあったかもしれない。だが歪んだ心がそれを阻んだのだった。
「……そうか、因果応報とはこのことだな」
「貴族の息子だったのかあいつら、親に処分されるとは好き勝手に行動し過ぎたようだな」
アレクは目を瞑りマクスウェルは呆れたようにため息をついた。身内を処分するのは貴族ならよくある話だ。特に現在商王国は建国祭を目前にして貴族たちが集まって来ているその中で自分の息子が投獄されていると周りに知れれば名が落ちるのは確実、その前に処分したのだろうとアレクは考えた。
「それと、以前助けたエルドラン王国の貴族は商王国に滞在中の第一王子に報告があったようにゃ」
ミレイたちがロンドールに到着する前に出会い助けたエルドラン王国の貴族は現在商王国に滞在中の第一王子に国内の状況を報告に来ていた。
「第一王子か、あの方は有能だからな。そのせいで邪魔になったようだが会いたくはない」
「そういえば関わりがあるんだったな」
「……あの方は面倒なんだ。頭が切れて行動力があるが悪戯好きというか何というか、権力があり行動的なマク兄のような感じだ」
第一王子はアレクの学生時代の先輩であり、貴族間で嫌われているフリーデンの後継であるアレクに何かにつけてちょっかいを出していた。
「権力のある俺?」
突然アレクに例にあげられたマクスウェルは首をかしげた。だがそれを聞いたシスイは納得したように頷きネイナは顔をしかめた。
「……なるほど」
「それは最悪ですにゃ」
「どういう意味だお前ら!」
お読みいただきありがとうございます。更新が遅くなり申し訳ありません。どう展開していけば良いのか悩んでいるところですm(_ _)m




