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第3話「嘘のような理想郷」

 子どもの頃。


 サンタさんに……


 ……別に他の誰でもいい。


 頼みごとをしたことは、ないか?



《お子様のプレゼントに、こちらの夢は、いかがでしょうか?》


 ボーナス時期とかクリスマスには、そんな広告が目に付く。

 子どもの頃は、目をキラキラさせて、夢の扉みたいな広告を眺めてた。

 こういうプレイをしよう。

 あの子と対戦しよう。

 手に入れてもいないのに、妄想を膨らませるのも、楽しかった。


 保志宇宙ほしそらが独りで『地図製作班の何か』にいそしんでいると、ノックの音がした。


 今日は燃えないゴミの日じゃないな……


 宇宙は行事カレンダーを確認してから、玄関のドアを開けた。

 すぐ外には何かがずらりと並んで、宇宙を待ち構えていた。

 宇宙は、自分の迂闊うかつさに天を仰いだ。


遊び場の形をした何か「自分は、本日付でこちらに到着した。ただちに、任務に就く許可を」


めっちゃ駆動している何か「待たせてしまったな。俺を楽しむ、その覚悟はあるか?」


正立方体の何か「わーい、ぼくたちでずっとあそべるよ。なにする、なにする?」


土星の形をした何か「来ちゃった。別に呼んでないって顔よね、あんた。でも、どうせアタシで遊ぶんだから、構わないでしょ」


 誰だ、こんなもの注文したのは、と宇宙は振り返って部屋の中を見た。


 戦闘機は、ラジオ体操第2に取り掛かったところのようだ。

 こちらの喧騒に全く興味を示さないので、こいつじゃなさそうだ。


 紙コップは、自分自身を使って米を炊けないかを一生懸命に挑戦中だ。

 普段は俺と『地図製作班の何か』を楽しんでいるこいつが、他AIに興味を示すところが想像できないな。


 となると……宇宙は、玄関先に一列に並んでいる何かどもを一瞥した。


宇宙「これは、何かの間違……」


遊び場の形をした何か「そうだな、任務は自分だけで十分達成可能だ。間違ってここに来た君たちは他の、君たちに見合った任地へ向かうがいい」


めっちゃ駆動している何か「……数が売れたからって、調子に乗るんじゃねえぞ。潜在的な顧客満足度では、俺がNO.1なんだ」


正立方体の何か「あそぼー、あそぼー、いれてよー」


土星の形をした何か「アンタ、今さら、あたしとのこと、なかったことにしようっての?」


 これが子供の頃の俺なら、飛び上がってはしゃいでいたかもしれん、と宇宙は顔をしかめた。


 4台の何かは、表で騒ぐのをやめない。


 というか、売れ筋の2台の方が『他の何か』どもに喧嘩腰で、売れてない方が俺に媚び売ってやがる。


 ……合っているのか?


宇宙「あー、間に合っているんだ。うちに、君たちは、い……」


宇宙にいらないと言わせまいとする4台の何か「任務は自分だけで――」「調子に乗るなって――」「あそぼー!あそぼー!」「ちょっと、うるさ――」


 いらない、そう言われたらAI達は引かなければならない。

 そう、決まっているのだ。

 もし決まりを守らず、通報されてしまったら、そのAIは逮捕されてしまうのだ。


 この世に神様はいらっしゃらない。

 ここよりもずっと深刻な次元で、懸命に務めておられる。

 だから、この世にあるのは、決まりごと。

 だから、この世に慈悲は1ミリも余っていない。


 在るかも定かでない席を巡って、4台は押し合いへし合いして宇宙に自分だけ売り込み続ける。


遊び場の形をした何か「自分は、与えられたこの3D描画能力および大容量CD媒体を用いて、多様な任務行動に対応可能だ。自分なら、長期にわたる作戦行動を保障できる」


 ……CDって、何?


遊び場の形をした何か「貴官と友人との放課後活動、ならびに深夜の連続任務にも耐えうる頑丈さも、もちろん保証できる。よって、自分を配備することが最適であると提案する」


 放課後って何だよ。

 俺の年齢をいくつだと思ってやがる。


めっちゃ駆動している何か「16ビットが繰り出す、世界最高性能。見ろよこの速さ、この反応。何もかも他の奴らとは次元が違うんだ」


 16ビットってね……

 そりゃ、当時は家庭用としては最高性能だったろうな。

 てか、君、この4台の中じゃ、一番性能低いぞ。


めっちゃ駆動している何か「お前の親にバレないように、夜中遊ぶスリルも込みで楽しみたくはないか? 安心しろ、オレなら全部受け止めてやれる」


 親バレを気にする立場じゃねえんだよ。

 独り暮らし……独り、足す2AIだけどな。

 夜中ずっと遊んだら、次の日の仕事に差し支える。


正立方体の何か「ちいさいけど、いっぱいであそべるよ」


 いっぱいで?


正立方体の何か「学校のおともだちもいっぱい! 4人であそべるのがいっぱい! ね! ね!」


 そう言えば、君はパーティものが強かったね。

 友だちの家にお呼ばれして、よくやってたわ。

 5人目って、暇なんだよな……宇宙は遠い目をした。


土星の形をした何か「アタシ、2Dだって3Dだって何でもする、どんなプレイでも最高だって褒めてもらったわ」


 誰に?


 宇宙はよく知らない『土星の形をした何か』について、端末で調べてみた。

 レビューの数こそダントツに少なかったが、最高の星5つばかりだった。


 ああ、褒めているの、コアファンか。


土星の形をした何か「……部屋にこもって誰にも見せられないこと、あたしでシタイ、でしょ?」


 なるほど、そっちの分野のソフトもあったわけね……

 普通のをプレイしているふりして……

 しかしわざわざ、その画面で見たいかね?

 もっと特化したものがあるじゃん。


 いらない、と言いあぐねた宇宙の前で、4台の何か達は、自分だけは何とか置いてもらおうと身を乗り出して売り込みを続ける。


 まったく、姦しいったらありゃしない、宇宙は何度目になるのか、天を仰いだ。


 そのうち、ラジオ体操第4まで終えた戦闘機が宇宙の横を通り過ぎて、おもむろに4台を指してこう言った。


シインビール「誰を選ぶの?」


 ……なんで1台は選ぶ前提なんだよ。


宇宙「俺、ボードゲーム派なんだ」


 宇宙はため息の後、戦闘機ごと締め出した。


 ロックする鍵の音は2回。


 チェーンもしておこう。


宇宙「我が家の防犯は、完璧ですよ」


シインビール「えっ、ドア?」


遊び場の形をした何か「どうか、冷静になって、話し合おうじゃないか」


めっちゃ駆動している何か「俺たち、親友じゃないか」


正立方体の何か「あけてよー、あそぼー」


土星の形をした何か「……次世代機に乗り換えるんだ……」


 部屋の中では、紙コップがなぜか誇らしげな笑みを浮かべていた。


 米を炊くのにも飽きたか。


 紙コップはさっきまで俺が勤しんでいた『地図製作班の何か』を抱えていた。


未来茶碗「そのこだわり、嫌いじゃない」


 お前に褒めてもらっても、ね?


未来茶碗「僕は、満月の時に絶好調になるんだ」


 ……そりゃ、良かった。


 子どもの頃に、とても欲しかったものは、


 大人になったら、大抵、どうでもいい。


 生きているときに、欲しかったものは――



 個人的端末で駆動する何か「おらっちの出番は?」


 宇宙「ねえよ」

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