第50話: 真実の拡散と完全に孤立するヴァロワール
リリィ・プランケットが発見した、レガシー・コロッサスのコア制御システムに存在する「隠されたバイパス回路」。
その情報は、膠着状態に陥っていた戦況を一気に打開する可能性を秘めていた。
クロエ・ワークライフは、リリィから送られてきた詳細なデータをサブ制御ターミナルを通じてコロッサスのシステム内部で照合。
そのバイパス回路が確かにコロッサスのエネルギー循環における「アキレス腱」とも言うべき、極めて重要な脆弱点であることを確認した。
「……間違いありません。
このバイパス回路はおそらく、
コロッサスの設計者が、万が一の暴走を防ぐため——
あるいは外部からの
強制的なシャットダウンを可能にするために、
意図的に残した
『最終安全装置』のようなものでしょう。
しかしヴァロワールは、
その存在に気づいていないか、
あるいは軽視している。
ここを精密な魔力パルスで刺激し、
強制的に過負荷状態に陥らせれば、
コロッサスの全エネルギーシステムを
連鎖的に暴走させ、
自壊させることが可能かもしれません」
クロエの瞳が、確信に満ちた輝きを放った。この巨大な化け物を倒すための具体的な道筋がついに見えたのだ。
しかしそれと同時に、クロエはもう一つの重要な情報をコロッサスのシステム内部から掌握していた。
それは、ヴァロワールが進めている「レガシー・コロッサスによる世界の剪定計画」の、より詳細で、動かぬ証拠となるおびただしい量のデータファイルだった。
その中には、ヴァロワールが「非効率」と断じた、抹消対象となる国家や民族のリストや具体的な「剪定」のスケジュールと手順——そしてその計画がいかに非人道的で、狂気に満ちたものであるかを雄弁に物語る、彼の個人的な記録や思想的背景を示す文書まで含まれていた。
「……ヴァロワール。
……あなたは、ここまで狂っていたというのですか。
これだけの証拠があれば
もはや、
あなたが『カルドニアの救世主』などではなく、
ただの『世界を破滅させようとしている狂人』
であることを
誰の目にも明らかにすることができるでしょう」
クロエは冷静な怒りを込めてそう呟くと、即座に行動を開始した。
リリィの協力を得て、王都でかろうじて復旧しつつあった公的な魔導通信ネットワーク(ただしヴァロワール側の検閲と妨害が厳しく、通常の通信はほぼ不可能な状態だったが)に対して、特殊なハッキングを仕掛けた。
自身が開発した、あらゆるファイアウォールや検閲システムを突破して情報を強制的に拡散させるための、極秘の魔導プログラム「真実の拡散者」を起動。
ヴァロワールの狂気的な計画と非道な所業を示す決定的な証拠データを、カルドニア全土、さらには可能な範囲で周辺の友好国や、中立的な国際機関の通信網にまで一斉に送信。——暴露したのだ。
その情報は瞬く間に世界中を駆け巡り、計り知れない衝撃と混乱を引き起こした。
これまでヴァロワールを「強力な指導者」「カルドニアの改革者」として、あるいは「レガシー・コロッサスという古代の脅威から世界を守ろうとしている英雄」として、限定的ながらも支持あるいは黙認していた国内外の勢力も、そのあまりにもおぞましい計画の全貌と、彼の狂気に満ちた本性を知り、完全に態度を硬化させた。
彼に残っていた、ごく僅かな支持者たちも蜘蛛の子を散らすように離反し、ヴァロワールは文字通り世界中から孤立無援の状態に陥った。
カルドニア王国内部でも騎士団や魔術師団の中から、これまでヴァロワールの強権を恐れて沈黙していた良識派たちがついに立ち上がり、公然と彼に対する反旗を翻し始めた。
王都の民衆もまた真実を知り、怒りと恐怖の声を上げ、ヴァロワール打倒を求めるデモや暴動が各地で発生し始めた。
さらにクロエは、この情報拡散の混乱に乗じてもう一つの「おまけ」を仕掛けていた。
それはかつてクライン課長が、自身の保身と手柄のために(しかしその重要性には全く気づかずに)保管していた、ヴァロワールの過去の不正会計や結社との不透明な資金の流れを示す「決定的な証拠書類のデータ」だった。
クロエは、そのデータを魔術師団の内部告発サイト(もちろん、匿名で、かつ追跡不可能なように偽装して)にリークした。
「……ふぅ。
これで外部からの余計な横槍や非効率な障害は、
ほぼ全て排除できましたね。
残るは本体……
レガシー・コロッサスと
そしてヴァロワール本人を直接叩くだけです」
クロエはサブ制御ターミナルからログアウトすると、シオンと共に王宮の最上階、ヴァロワールの待つ玉座の間へと向かう、最後の通路へと足を踏み入れた。
彼女の情報戦略は見事に成功した。ヴァロワールはもはや世界からの支持も部下からの信頼も失い、完全に孤立した。あとはこの狂気の化身に最後の鉄槌を下すのみ。
クロエの心はかつてないほど冷静で、そして澄み切っていた。彼女の定時退社と世界の平和を取り戻すための最後の戦いが、今、始まろうとしていた。




