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第71話 心を擦りむいても

 その日、あたしは彼と共に村にある雑貨店に買い物に行くところだった。

 家から雑貨店までは歩いて20分ほどだ。ちょっとしたデートになる。

 と言ってもある意味毎日がデートなのだが……


「ナナシさん、買い物袋持った?」


「あー、ちょっと待って。どこに置いたかな……」


 4年前から何となくわかってはいたが彼は整理整頓が苦手な一面がある。


「棚の上……」


「おおっ!こんなところに隠れていたのか!!」


「隠れてないし……」


 ついでに空間認識能力はあたしの方がはるかに上だったりする。

 まあ、そんな感じだが楽しく仲良くやっている。


「先に出るね。カギはお願い」


 そう告げ、玄関を開けた瞬間だ。


「あっ、アンジェラ!!」


 家の前に立つ二人の女性の顔を見てあたしは固まった。

 4年経っているので見た目が多少は変わっているが忘れようもない。


「メイシー……それに……リゼット……」


 あたしは素早く後ろ手で扉を閉める。


「探しましたよ。無事でよかった……」


「アン?急に扉を閉めてどうした?俺なんか怒らせることしたか?」


「あっ!!」


 扉を開けて彼が出て来た。

 最悪だ。


「ナナシさん……やっぱり一緒だったのですね」


「お、お兄さん……良かった……無事だったんだね」


 二人が彼の姿を確認しほっとした表情を見せた。

 だが……


「えっ、お、お兄さん?俺妹なんていないと思うけれど……えっと、妻の知り合いですか?初めまして。夫のナナシです」


「「えっ?」」


 彼の口から紡がれた言葉にふたりが目を見開いた。 

 まずい状況だ。


「ナナシさん、あたしちょっとこの人たちと話があるから………留守番お願いしたいな」


「でも君の知り合いなら家に入って貰っていいんじゃあ」


「お願いだから家の中に入ってて!!」


 あたしは大声で叫んでいた。

 夫婦げんかもろくにしたことないからこんな大声を出したのは初めてだ。


「ごめん、怒鳴っちゃって……お願いだから……中に居て……すぐ、戻るから」


 察してくれたのだろう。

 彼は家の中に姿を消した。


「……場所、移そうか」



◇ナナシ視点◇


 あんな事を言う彼女は初めてだ。

 一体どうしたのだろう?

 アンジェラを訪ねてきたあの二人、いったい誰なのだろうか?


 仕事の関係者か?

 アンジェラは村の小さな教会で子どもたちに勉強を教える仕事をしている。

 あれかな、保護者の方?

 いや、二人とも若かったし何より村の者なら知り合いだ。


「変な事に巻き込まれていないよな……」


 それに俺の事を『お兄さん』と呼んだ子も気になる。

 もしかして俺には妹が居たのだろうか? 


『行ってあげたら……?』


 そんな声がした。

 部屋の片隅に立っている小さな女の子。


「また君か。あのさ、そろそろ成仏した方がいいよ」


 怖がると思ってアンジェラには黙っていたがどうも俺は幽霊に憑かれている様だ。

 時々、小さな女の子の幽霊が現れ俺を見つめていることがあるのだ。

 基本的に実害は無いので放置はしている。

いや、流石に夫婦の寝室に現れた次の日には『出るなら時と場所を選んで』と頼んでみたところそういうセンシティブな場面では出なくなった。


『行かないと……心を擦りむいても怯えないで……』


 この子はこんな感じで要領を得ない感じで何かを伝えてくる。


「まあ、そうだな」


 アンジェラのあの声、ただ事ではない感じだった。

 また怒るかもしれないが気になる。


「行ってみるか……」


 どうやらアンジェラは二人と共にどこかへ行ったようだ。

 俺は3人を探して歩き出した。


◇アンジェラ視点◇


 家から少し離れた丘であたしはリゼットとメイシーと対峙していた。


「アンジェラさん、ナナシさんと結婚されたのですね」


「うん……色々あってね。ちゃーんと告白したよ」


「おめでとうございます。あの、さっきの様子。もしかして彼は……」


「察しの通り。あの人はまた記憶を無くしているの」


 そこからあたしは彼が新たに失った記憶について軽く説明した。

 リゼットは終始厳しい表情でうつむいていた。


「……そう言うわけで彼はあなた達の事を覚えていない」


「あの……アンジェラ、その……ボク、君に言わなきゃいけないことが」


「……何?」


「あの時の事だけど……本当にごめ……」


「そんな言葉聞きたくなんかない!!」


「っ!?」


「あのね、リゼット。あなたに感謝しているよ。あたしが『死ぬ運命』から逃れられて、あの人を愛し、一緒になれたのはあなたのおかげでもある」


 リゼットが彼を利用しようとしたおかげであたしもお母さんも生きている。


「だけど同時にあなたの嘘が彼を苦しめ、2度目の記憶喪失にも繋がった。あたしはやっぱり、あの時の事は許せない。だけど、謝って欲しくもない」


「謝って済むものじゃないとも思っているよ……」


「当り前じゃない」


 あたしとリゼットの間の空気がどんどん悪くなっているからだろう。

 メイシーが間に入った。


「アンジェラさん。あなたの言っていることはわかります。でも私達の事もわかってください。私達はあなた達の無事を確かめたかったのです」


「変わったね、メイシー。4年前はぐーたらの引きこもりだったのにさ。てっきりまた引きこもっていると思ったよ」


「あなた達のせいですよ。私にとって、『第2の家族』でしたから」


「……そうだね。あんたと口喧嘩していたあの頃、ちょっと懐かしいな……だけどもうあたし達の前に姿を見せないで。二人で穏やかに暮らしたいの……もう、あの人が傷つくのは見たくない」


「アンジェラ……」


「それじゃあ……もう会うことは無いと思うから」


 そう言って二人に背を向けた瞬間だ。

 視界の先、森の中から一匹の魔獣がゆっくりと歩いて出てくるのを見つけた。

 4年前、皆で倒した凶暴魔獣クレストロン。それの亜種に当たる4本角の魔獣……


「あれは……クアドラトロン!あっちの方向は!!」


 クアドラトロンが向かう先にはあたしが子どもたちに勉強を教えている教会がある。

 今日はあたしの受け持ち日じゃあないが今の時間は確か子どもたちが居るはず。

 4年前の事件であたしはナナシさんを救う為ありったけの魔力を彼に注ぎ込んだ。

 その時の影響で彼からもらった二つの魔道具は砕けてしまい、さらにはレイナ伯母さんから継承した『μ-ジック』の能力も大幅な弱体化をしてしまった。

 今のあたしではあの魔物の相手は務まらない。

 でも……


「伸ばせる手は伸ばさないと!!」


「あっ、アンジェラ!!」


 あたしは反射的に走り出していた。

 丘を駆け下り教会に近づくクアドラトロン目掛け『水流弾(アクラル)』を放つ。

 背中に着弾すると魔獣はこちらに気づき唸り声をあげこちらに向く。


「裏口から子どもたちを逃がして!!」


 あたしの叫びで窓から顔を出したシスターが慌てて首を引っ込める。

 とりあえず逃げるまでの時間を稼がなければ……

 次々と『水流弾(アクラル)』を叩き込むがあまり効果は無い様だ。

 こちらの魔法の威力が低くなっているのに加え魔法防御が高いみたい……

 4本の角が発光し一点に収束。光線があたし目掛け放たれる。

 やば……

 瞬間、大盾を構えたメイシーがあたしの前に立ちふさがり光線を受け止めた。


「全く無茶をして!告白するか悩んでいた頃から面倒のかかる人ですね!!」


「メイシー!!」


「リゼットさん、お願いします!!」


「わかった!飛天の装衣ッ!!」


 あたし達の頭上を飛行し超えていくと魔獣の周辺を飛び回り連撃を与えていく。

 4年前と同じ光景だ。


「リゼット……」


 リゼットはひときわ高く飛び上がるとそこで紅色刃の装衣に換装し自由落下を始める。

 そうして勢いをつけ空中からの一撃を叩き込んだ。

 刃は魔獣の皮膚を切り裂きダメージを与える。だが……


「ダメ。生命力が高くて倒し切れていない」


 リゼットは魔獣の尻尾による反撃を刃で受け止めるがそのままこっちに飛ばされてしまう。


「リゼット大丈夫!?」


「あ痛たた……この4年でちょっとは強くなったと思ったけどやっぱりこのレベルの敵は……」


「不味いですね。攻撃力で言うなら私は期待できるレベルでは無いですしこのままでは……」


 以前はアタッカーが居た。

 だけど今の彼は……彼には戦ってほしくない。戦うことでまた不安定な状態になってしまったら……


「やはりあたしがやるしか……」


 その瞬間だった。


「うぉぉぉぉ、せいりゃぁぁぁぁぁぁ!!!」


 魔物の横っ腹に両足を鋭く突き出した蹴りを浴びせ、『彼』が登場した。


「お兄さん!」


「ナナシさん!」


「あなたっ!」


 三者三葉に彼を呼ぶ。


「何だよお前達、やっぱり仲良しだったのか……さてと……」


 彼は魔物の方を向き構えを取る。

 ああ、彼が……戦いに身を投じてしまう。

 

「行くぞ怪獣!!」


「それ魔獣だから。モンスターね」


 多分『怪獣』というのは異世界の言葉だろう。

とりあえず突っ込んでおくことにした。


「行くぞ。心を擦りむいたとしても怖くない。俺には愛する人がいる!!」


「ちょっと!たくさん人が居るところでそんな宣言!恥ずかしいんですけど!!」


 見れば教会の窓から子どもたちやシスターも此方をうかがっており「ヒューヒュー」と冷やかすような声が聞こえる。

 早く避難しなさいっ!!


面白いな、続きが早く読みたいという方は評価をぽちっとお願いします。

起爆剤になります。

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