第60話 丈花
◇???視点◇
俺は慰霊碑の前に立っていた。塀で囲まれた土地は空き地と化しており資材が詰まれている。
かつてこの土地には老人ホームが建ち多くのお年寄りが終の住処として暮らしていた場所。それと同時に日本では戦後最大と言える大量殺人が発生した場所でもあった。
この施設で働いていた元職員が深夜に侵入し入居者10名を刺傷、その後ガソリンをまいて火を放ち結果として建物は全焼。刺殺された10名に加え逃げ遅れた65名の入居者が死亡、負傷者70名、そして施設職員と警察官関係者ひとりが未だに行方不明となっている。
俺はかつて先輩の刑事と共に連続殺人事件の捜査をしていた。その過程でその犯人がこの施設の元職員と判明。だが逮捕寸前で逃走されてしまいこの大惨事が起きるに至った。そしてこれだけの事件を起こし、犯人は未だ逃亡中。
行方不明になった警察関係者とは先輩の事だ。俺は毎月事件が起きた日に必ずここに来て懺悔し必ずあの殺人犯を捕まえると誓っていた。
「やっぱりここに来てたんだな。」
声に振り向くと花束を抱えた女性が立っていた。
「よぉ、元気だったかい。『丈花』ちゃん。」
整った凛々しい顔立ちと男性の様な服装を好み、少し荒っぽい口調。初対面の人は8割がた彼女の性別を間違える。かく言う俺も初対面では男の子だと思っていた。
「『ちゃん』ってつけるなって言っているだろ。丈花でいいよ。大体今更そんな呼び方するなって。」
苦笑すると彼女は慰霊碑の前に花を添え、黙とうした、
「あれから2年か……」
丈花が小さくつぶやく。
「済まない。」
「何で謝る?親父が死んだのはあんたのせいじゃあ無いんだからさ。」
「っ!」
彼女の父である先輩は公式には行方不明という事になっている。だけど実際の所、警察内部では死んだと考えられていた。
父親は死んだ。彼女はそれを受け入れているのだ。
「まあ、刑事の娘だからな。そういう事は覚悟していたさ。今頃母さんや妹とあっちで仲良くやっているだろうよ。」
彼女は幼いころ、母親と妹を事件で亡くしている。そして今は父親を……
「あんたが居てよかったよ。俺ひとりじゃあ乗り越えられなかったかもしれない。」
少し寂しそうに、彼女は笑った。一番つらいはずの本人が笑顔でいようとしているのに俺が凹んでいるなんてかっこ悪いな。先輩が見たら叱られそうだ。
「お前さ、いつも言っているけど女の子の一人称が『俺』っていうのはどうかと思うぞ。」
「上司の娘に手を出す部下ってもどうかと思うけどなぁ。」
「うっ!」
言葉を詰まらせる。この光景、先輩が見たら連行されそうだ。
「さて、と。それじゃあ何処かに食べに行くか。もちろんあんたの驕りでな。どうせ非番だろ?」
「丈花、お前……いい事あったのか?やけに機嫌がいいぞ。」
「そっか?いつもこんな感じだろ。」
歯を見せて笑いながら丈花は歩き出す。
「あ、ちょっと待って。車あっちだから。今取ってくるから」
俺は慌てて車を取りに走った。
◇丈花視点◇
「あ、ちょっと待って。車あっちだから。今取ってくるから!!」
彼が慌てて車を取りに走る。
そう、今日は機嫌がいい。だってやっと見つけることが出来た。父さんを探して2年、俺はひょんな事で異世界とこの世界の行き来する能力を身に着けた。
そして『導かれる』ままに『あの男』を見つけた。親父を立ち直らせてくれた人。そして親父と共に行方不明となった施設の職員。今は『ナナシ』と名乗っていて俺の事には気づかなかった。
『導き』の意思に従いあいつにはストローンの街から遠く離れた場所へ降り立ってもらった。これも『筋書き』から外すためだ。
面白くなってきた。『導き』の思惑の先に俺が望んだ答えが見つかるはずだ。
今回登場した『丈花』については47話~49話を参照していただいたら「ああ、こいつか」ってわかるかと思います。




