第61話 疑念
鏡のモンスターを撃破後、俺達は上で寝ていたリゼットとメイシーを起こし治療してもらっていた。
「動かないでください。包帯がずれます。」
メイシーが俺の身体を固定しながら腹の傷を包帯で保護していく。
「それにしても大きな穴が開いていた割に出血少なかったよね。お兄さん、血が少ないとかなのかな……」
「いやいやリゼット。血が少ないからって穴が開いて血が出ないわけじゃあないぞ?」
「まさか筋肉で出血をせき止めた……お兄さんならあり得るよね。人間の常識が通用しない人だから……」
酷い言い様だ。だが確かにあれだけの出血だ。一瞬死んだかと思ったが意外と大丈夫だったというのは自分でも驚いている。
「はい終わりましたよ。アンジェラさんの治癒魔法で回復力も上がってる状態ですがむやみに動くと傷が開くかもしれないので無理は禁物です。」
俺はメイシーに礼を言うと山小屋の端で瞳を伏せて黙り込んでいるアンジェラに声をかけた。
「アンジェラ、大丈夫か?」
アンジェラは小さく「はい…」と答えると瞳をそらす。
やはり自分の魔法が反射して俺が大けがを負ったことを気にしているのだろうか、
「気にするなって。こんなのしばらくしたらすぐ治る。それにあの化け物はアンジェラが倒してくれたんだ。君がいなかったら詰みだったかもしれない。」
「あ、はい……」
どうも元気がない。
「ナナシさん、そういう時は少しそっとしておくのが良いかと。」
そうかもしれない。メイシーに言われ、俺はアンジェラから離れた。
とりあえずモンスターの脅威は去ったのだし少し体を休め回復しなければ。
◇アンジェラ視点◇
どうしよう。新しい力を手に入れてナナシさんを助けることが出来た。
だけどそこで新しい問題が発生してしまった。
それはあの謎の女性の台詞。
『あなたが彼の隣に居てあげて。彼を支えてあげて。』
謎の女性からの応援。だけどあたしは気づいてしまう。
恐らくこの女性はナナシさんが失っている記憶の中に居る大切な人。そしておそらくもうこの世にはいない存在。
まあ、ナナシさんは魅力的な男性なのだから恋人なんかが居なかった方がおかしいくらいだ。
ただいざ、存在がちらつくと複雑な気持ちが湧いてくる。姿も見えない、正体も定かではない女性に嫉妬している自分が居る。小さいなぁ。
二つ目の問題は先ほどの言葉に続いて紡がれた言葉。
『リゼットには気を付けて。』
それはやはりお茶会の時の言葉が関係しているのだろうか。あの時、彼女はこう言った。
<アンジェラとお兄さんの事は応援する。お兄さんは危なっかしい人だからアンジェラみたいな人が傍に居てくれたら安心だよ。でもごめん。そうだとしてもボクはお兄さんと離れるわけにはいかないんだ。たとえお兄さんがアンジェラの良い人になったとしても、そこは譲れない。>
あの時は愛人宣言かと腰を抜かしたが思った以上に深刻な何かを彼女は抱えているのかもしれない。そして、謎の女性はそのことを危惧している。
実はリゼットには不審な点がある。それは鑑定魔法などを使った時に表示される情報。基本的にフルネームで名前が表示される。リゼットのフルネームは「ラス・リゼット」。何の変哲もない名前だが違和感があった。初めて出会ったころ、彼女はしきりに自分の情報を色々な人に見せていた。自分の名前がラス・リゼットであると『浸透させる』ための様に。普通は名乗ればいいだけなのに。
ただ、これは元々旅をしていたというリゼットがコランチェの街に馴染むためにしている努力だ、と考えることで自然と納得していった。
だけど今日、『リゼットに気を付けて』という言葉を受けたあたしは何気なくリゼットを『鑑定』してしまった。名前は相変わらず『ラス・リゼット』。だけど気づく、名前の部分の文字がわずかだが『歪んで』いた。どういう事か?それはつまり彼女の名前に関しては『情報隠蔽』が施されているのだ。鑑定魔法などで『本当の名前』がわからないようにする処理が彼女には施されている……
「アンジェラ、はいパンだよ。」
いつもの様子でパンを手渡してくれるリゼット。
「あ、ありがとう……」
「あんま悩みすぎないでね。あの通り、お兄さんピンピンしているしさ。」
「あ、うん……そう……だね。」
リゼット。あなたは一体何を隠しているの?
ナナシさんと離れるわけにいかない理由って一体?
この先、一体どうなるのだろう……




