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第46話 陰謀の山へ

 この日、俺はいつもと違いひとりでギルドの受付にやって来ていた。

 いつものように自称ギルドの看板"娘"であるエルマーが俺を出迎えてくれた。


「なぁ、ナナシよぉ。ネコって虫歯にならねぇらしいぜ?うらやましい事半端ねぇと思わないか?」


「確かになぁ。あの歯磨きってやつは微妙に面倒なんだよな。特に外へ出てる時がな。歯磨き草って使い捨ての割に高いんだよな。」


 エルマーとのくだらない会話は今や俺にとって一種のルーティーンとなっていた。


「そうだよな。冒険者の懐には痛いよな。ところでナナシよぉ、今日はひとりか?半端ねぇな。」


「失敬な。ひとりではない。我がいるぞ!!」


 そう、正確にはひとりと一匹。それが今日のクエスト係だ。

 

「マジかよ、犬が一緒とはそいつは半端ねぇな。」


「はは、お前はいつも半端なく陽気な奴だな。」


 実際の所、アカツキが同行することになったのは毎日遊び歩いていた結果女性陣から「ご飯抜き」を宣告されたからだ。

 まあ、本人によると偵察をしていたらしい。だがすまん、俺が見ても雌犬を追いかけてその辺を散歩している野良犬にしか見えなかったのだから仕方がない。


「たまには男同士で組むのも悪くないだろうと思ってな。なぁ、小僧。」


 男同士って言うか男ひとりと雄一匹だ。一応本人は元人間だというが最近は本当にそうなのかと疑問を禁じえない。


「まあ、たまにはこういうのもいいだろう。さて、今日は何か面白そうな依頼はあるか?」


 やはり面白そうか否かは重要要素だ。


「半端ねぇなぁ。それじゃあ看板"娘"エルマーイチ押しのクエストを発表しちゃうぜぇっ!ダララララ~~ダンッ!」


 いつもの流れでエルマーは幾つかの依頼を出してきた。俺はひとつひとつ吟味していきある依頼書を手に取る。


「お、これなんか面白そうだな。」


「どれどれ……ほぉ、スチームフロッグの討伐かぁ。半端ねぇ目の付け所だな。こいつは口から高熱の蒸気を吐き出す半端ねぇ強敵だぜ。」


「蒸気を吐くカエルかぁ」


 何それ、無茶苦茶面白そう。


「カエルって言ったって甘くみちゃいけねぇぜ。体長1m弱はあるんだ。もう立派なモンスターだぜ。」


 ますます面白そうじゃあないか。 


「討伐地はオムロ山ってとこだな。えっとなぁ、地図で言えばここになるぜぇ?」


 エルマーが示したのはコランチェの東側、タルマ川が流れている場所であった。


「ここから半時間ほどにある標高300m程の山だな。まあ、スチームフロッグは下層くらいに住んでるモンスターだからそんな上まで行かなくてもいいぜ。」


「よし、それじゃあこれに決めた。」


「山登りかぁ。ダルイなー我。」


「アカツキ、ご飯抜きになってもいいのか? ここいらでそこそこのクエストをクリアして見返してやろうぜ。」


「うーん、仕方ないなぁ。」


 というわけで俺達は【スチームフロッグの討伐】クエストを受注し意気揚々とギルドを後にしたのだが……まさかあんなことになるとはこの時は思いもよらなかったわけなんだよな。


◇イシダ・シラベ視点◇


 どうやら先日レギオンへと進化するための実験結晶を渡した被験者が冒険者に倒されたらしい。ベルグとかいう名前らしいが顔はよく思い出せない。恐らく目が2つ、鼻と口がひとつあった気はする。要するにその程度だ。ハーレムを作るとかいう自己中心的な強い欲望を持っていたので面白そうだと思い実験結晶を渡したのだと思う。彼自身、世が世なら下級であるが貴族の跡取り息子だっただろう。

 偵察からの報告を受け、玉座に座る主が口を開く。


「シラベ、君はどう思う?」


「どう……と言われましても特に興味は無いのですが?」


「なるほど、確かに今の質問は抽象的過ぎたな。質問を変えよう。ベルグは我々の組織について話すと思うか?」


 ああ、そうか。この男はベルグとやらから自分達の存在が明るみに出ることを危惧しているのか。


「まあ、口は軽そうですからね、可能性は高いでしょう。我が王、ディクレス」


 ふむ、と若き王は満足げな笑みを浮かべ……


「始末したまえ。あの男はナダ解放騎士団の恥さらしだ。」


 そう、告げた。


「承知しました。」


 まあ、予想通りだ。

 あの男が私達にとって益になるとも考えにくいし妥当な判断だろう。


「それでは次にアーテル、オムロ山にある訓練施設の様子はどうかな?」


 アーテルと呼ばれた中年の男が身を低くして礼をする。彼の頭には頭部上半分を覆うサレットというタイプの兜が被られていた。そしてそのサレットはダークイーグルという鳥型モンスターの頭部を象ったものであった。

 彼はこの組織、ナダ解放騎士団の団長を務めている。


「はい、およそ100余名の兵が来る日に備え日々訓練を行っております。訓練所の責任者には我が腹心ジャビがおります。万が一、近づこうとする輩がいれば速やかに排除するでしょう。」


「ジャビ、か。確か彼はかつて武名を轟かせたニスダン家の嫡子だったね。そして……」


 王がこちらを見る。あー、これはそれっぽい解説が欲しいというわけか。

 仕方がない。付き合ってやるとしよう。


「はい、彼は強力なモンスターを素材としたレギオンに適合しております。本人の力も合わさり並の冒険者では相手にならないでしょう。」


「それは頼もしいね。そして100を超える兵らが訓練を終え、そこにレギオンの力を手にすれば我が王国の聖兵となりうるだろう。」


 いささか仰々しい王だがそれでいい。

 私の臨む時代が始まろうとしている。

 愚かな王が台頭し混乱が渦巻く時代。

 レギオンという戦力も与えたので止める手立ては無いだろう。

 アーテル団長も自信を持ち宣言する。


「はっ、オムロ山に『凄腕の冒険者』が『偶然』に現れたりしない『限り』、問題は『全く』ありません。この状況で我々が負ける確率は…『ゼロ』です!」


 何か一瞬背筋に寒気を感じた……

 色々なフラグが立っている気がするのだが気のせいと思いたい。

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