第47話 怪しいマスクの集団を怒らせてしまった件
木々の間を吹き抜ける高熱の蒸気を、俺は飛び上がって逃れる。
蒸気は森の奥からのっそりと現れた青磁色の体躯を持つモンスター、スチームフロッグが噴き出したものだった。
「アカツキ、大丈夫か?」
同行した犬……否、仲間に呼びかける。
「心配せずともあんなものにやられる我ではない!だがこれは厄介だな。」
スチームフロッグが出す蒸気は物理攻撃でないので一時的に肉体を硬化させる俺の防御術では防御が出来ない。
まあ、それくらいでないと俺の身体能力がチートすぎて面白くないんだがな。
「全くだぜ。こいつは確かに厄介ってやつだ……」
スチームフロッグは名前の通り口から高熱の蒸気を出すことが出来る。
それだけではなく全身にある幾つかの突起からも蒸気は出てくる。
蒸気はこいつにとって攻防一体の武器なわけだ。
うーん、我慢して殴ってみるかな。
「小僧、蒸気を噴きつけられた木を見てみろ!」
うん、見事に焦げてますな。
つまりは相当な高温と言うことか。これは受けなくてよかった。というかそう考えるとこのモンスター、中々効力難易度が高いのではないか?
「我慢して殴ってみようなどと思うんじゃないぞ!絶対に!!」
どうやら見透かされてたか。安心してくれ、我慢する案は不採用済みだ。
ならばどうする?そう、死角を探してをそこを突くのがいいのではなかろうか。
乗っていた木の枝を蹴り大きく飛ぶと俺はスチームフロッグの背後へと回った。
「そこだっ!背中には蒸気を出す突起が無いッ!!」
「馬鹿がっ!それは悪手だ!!」
アカツキが叫ぶ。何とスチームフロッグの表皮が背部から捲れあがり大きな噴出孔が顔をのぞかせたのだ。
「あっ、やべ……」
こいつは直撃コース。下手をすれば死ぬかもしれない。
瞬間、声が響く。
「天水盾!!」
放たれた蒸気は俺の眼前で突如として現れた空色の障壁に阻まれた。
「何をやってやがる!今の内にぶん殴れ!!」
アカツキとは違う、別の男の声に突き動かされ俺はスチームフロッグ目掛け渾身のパンチを見舞った。
木をなぎ倒し断末魔の悲鳴を上げ、スチームフロッグは動かなくなった。
「まったく、まさかいきなりこんな相手に死にかけてるとは思わなかったぜ。流石というか何というか……」
呆れ顔で現れたのは空色の短い髪をした青年だった。
「せめて討伐対象モンスターの情報くらいは出る前に調べておけよな。現地で実物を見て対応とか無謀すぎだぜ。」
「君が助けてくれたのか……礼を言うよ。ありがとう。」
その言葉に青年は少し頬を赤らめ視線を逸らす。いや、何で?
礼を言われるのが苦手な人なのか?
「まあ、無事でよかった……ぜ。俺の名は………ジョーカー。まあ、さすらいの冒険者ってところだな。」
ジョーカーは息絶えたスチームフロッグに近づくとナイフを抜いて体から魔石を抜き出しこちらに投げて寄越した。
この魔石は多くのモンスターが体内に持つものでこれを討伐の証明としてギルドにもっていくことで報酬が貰える。
「ほら、そいつをも持って厄介ごとに巻き込まれる前にさっさと下山しな。それでクエストクリアだ。」
言うとジョーカーは森の中へと姿を消した。
「あれっ?そう言えば……」
何であいつは俺達がスチームフロッグの討伐依頼を受けたことを知っていたのだろうか。
単に別の用事で山に来ていてスチームフロッグに遭遇していただけという可能性もあるのに。
「小僧、あのジョーカーという男だがな、何かうさん臭いぞ。ギルドを出た時からずっとついて来ていた臭いがあったのだが奴のだった。」
何それ怖い。
ストーカー的な奴なんだろうか。
「ていうかお前、誰かついて来てるのに気づいてたならそう言えよ。」
「いや、だっていい臭いだったしてっきり我を追っかけしてる女の子とかじゃないかなぁとか思ったのだ。」
しかし最初からついて来てわざわざ俺を助けるとは何なんだ?
そう言えば俺に礼を言われて頬を赤らめてたけど……まさかそういう性的指向なのか?
「何か背筋が寒くなってきた……早く帰ろう。」
彼には悪いが俺はそっちの性的指向は無い。
コランチェへ帰るべくその場を後にする俺達だったが……
1時間後。
「……迷ったな。」
「うむ。」
俺達は物の見事に道に迷っていた。
森の中を進んでいたが徐々に木々も少なくなりむき出しの岩肌などが見えたりしている。それに先ほどの場所よりも若干肌寒く感じる。
どうやら下山どころか上に登ってしまっていたようだ。
「とりあえず来た道を戻ってみるか。遭難しても困るな。」
そう思って振り返った瞬間だ。
「お前達!ここで何をしている!!」
ローブを羽織り鳥を模したマスクをかぶっている3人組に取り囲まれていた。
声からして全員男性。これはもしかして……
「す、すまない。ここが私有地だとは知らなかったんだ。ちょっとふもとの方で討伐依頼をこなして帰ろうとしたら迷ってしまったんだ。」
山にだって所有者がいる。
恐らくこのオムロ山は中腹くらいまでは解放されているが上の方となると私有地なのだろう。
「何を言っている。ふもとからこんな所にまで迷い混むものか!さては貴様、どこかの組織のスパイだな?」
「いや、そう言われても嘘じゃない。本当に迷ってしまったのさ。迷ってしまったものは仕方が無いだろう?」
というかどこかの組織ってまさかこいつら……私有地で怪しい儀式をしようとしている集団だというのか。
それならこんな恥ずかしい格好を見られて怒るのも無理はない。その為にわざわざこんなところに集まったというのに失礼を働いてしまった。
「ここで見たことは誰にも言わないさ。本当にすまなかった。それじゃあ俺達はこれで……」
「俺達の姿を見て生きて返すと思ったか!」
男たちが剣を取り出した。
まずいな。意外と過激な集団なのかもしれない。
仕方ない、応戦しよう。
襲い掛かってくる男のひとりの攻撃を避けると腹部に軽く一撃を叩きこむ。
ぐぇっ、とうめき声をあげ男は体をくの字に曲げ倒れこんだ
「何だこいつ、素手なのに強いぞ?」
「いや待て、片腕にだけ籠手をつけている。思うに格闘職だな。グラップラーかもしれん。」
「おい、それって中級職じゃないのか?俺、初級職の剣士だぞ?」
「俺だって本当はダンサーなんだ。ヤバいな……応援を呼ぼう。」
ダンサーだという男は懐から小さな笛を出し吹き鳴らした。
なるほど、こいつらは様々な職業の連中が集まっているのか。
ちょっと待てよ。だとするともしかして過激な集団ではあるが少し意味合いが変わってくるのかもしれない。
「小僧!上の方から大勢が向かってくる音が聞こえるぞ!!」
増援を呼ばれた。つまりこいつらはもっと大人数。恐らく同じように多種多様な職業についているのであろう。ということはもしかして……もしかして結構大規模なイベントでも開催中だったのかもしれない。
「こいつはぁ、厄介なことになったぞ。」




