第22話 リゼットが魚にブレス攻撃を披露した件
翌朝早く、俺達は魔法のじゅうたんに乗り空飛ぶ城を探し丘陵地帯へと飛んでいった。
魔法のじゅうたんは意外と広く、3人くらいなら余裕で乗ることができる。
そして乗っている間は特殊なバリアに守られているのか風の影響を受けない。
そう、受けないのだ。大事なことなので2回言うことにした。とても便利なのである。
「あんぎゃぁぁぁ、アンジェラ、もっとゆっくり! ゆっくり飛んでぇぇぇ。」
風の影響を受けないのをいいことにアンジェラはかなりのスピードで飛んでいた。
リゼットはひとしきり叫んだあと、絨毯の上で四つん這いになって顔を真っ青にしていた。
「何言ってるのリゼット。とろとろ飛んでたら令嬢さんの調査パーティとやらに先を越されちゃうかもしれないじゃない。そう、誰も! あたしを! 止められないッ!!」
アンジェラの表情は非常に生き生きとしていた。とんだスピード狂だ。
初めて会った時は大人しめの委員長系メガネっ子のイメージだった。
だが今や彼女のイメージはそう、仮面を外しスピードに飢えた野獣っ子だ。
「ナナシさんがくれたこの子、最高ですよね。でも何でこんなもの持ってたんでしょうね?」
それについては考えた結果ある仮説が立った。
リゼットによると俺が寝てた部屋にあったらしいが少なくともそんなものは最初に入った時なかった。
あの電球の様なものは俺が触れると融解して魔道具になった。
つまり俺に由来している何かなのだがでは何か変わったことは無かったか。
あった。夢を見たではないか。
不思議な夢だったがもしかしたらあれは俺の記憶の一部だったのかもしれない。
もしかしたら……記憶を思い出すことで何かしらああいう道具が出てくるのではないだろうか。物語の進行と共にスキルなどが解放されていくゲームの様に、だ。
「もしかしたら俺が記憶を取り戻していくとああいうものが出てくるのかもな」
「えぇっ、お兄さんそういうシステムなの!? うっぷ……」
リゼットが口元を抑えている。
風の影響は受けていないが酔いはするようだ。
「何それ、すごく不思議!」
確信はないがそういうものなのかもしれない。
何か理由があるのかもしれないが、とりあえずアンジェラのはっちゃけ具合が最近は気持ちいい。
「ところでこの速度についてくる奴がいるんだがな……あれは危険と考えていいのかな。」
俺が指さす先、魔法のじゅうたんに並んで飛ぶモンスターがいた。赤と黒のラインが入った醜悪な顔の魚だ。
あちこちに棘が生えており禍々しい雰囲気を醸し出していた。
「うっぷ……あ、あれはトビオコゼだよ! 丘陵地帯に生息する高速飛行する魚!!」
そうか、異世界では魚=水中の生物というわけではないんだな。
空を泳ぐ魚ぁ。流石は異世界。
「なぁ、アンジェラ。ちょっとリゼットが色々ヤバそうなんだが……」
「魚になんか負けてられないっ!」
ダメだこりゃ。自分の世界に入り込んでいる。
ハンドルを持たせたらダメな子だな。この世界に車が無くて良かった。
まあ、もしかしたらどこかにあるかもしれないのでないとは言い切れないのだが……
「アンジェラ! 張り合うところおかしいから! ていうかトビオコゼも張り合ってる感じなんだけど……あっ、お兄さん、あれは殴ったらダメだよ。針に神経毒がある……から。」
何それ、怖い。
危ない所だった。もし襲ってきたら反射的に殴っていただろうな。ナイスアドバイスだ、リゼット。
「こ、こいつには遠距離攻撃が一番安全かな。ボク達の中だとアンジェラが適任なんだけど……うっぷ……」
まあ、適任者はトビオコゼに負けまいとスピードを出すことに専念してるからな。
こりゃリゼットの決壊は時間の問題だろうか。
「リゼット、む、無理はするなよ」
リゼットの背中をさする。
まあ、今の所トビオコゼは攻撃してくる様子もないがいつまでもついてこられると面倒そうだな。
とか思っていたら魔法のじゅうたんがトビオコゼより前へ出る。するとトビオコゼの棘が逆立った。
あっ、こりゃ怒ってるな。あっちもスピード勝負をしていたってことなんだろうな。
あの針とか飛ばしてきそうな雰囲気だ。
「も、もうダメ……げんか………うぇぇぇぇぇっ!!」
その瞬間だった。
限界を超えたリゼットは魔法のじゅうたんの外側に口から輝くモノを解き放った。
それは魔法のじゅうたんの外側に出たことで風の影響を受け、後ろへと流れトビオコゼに直撃。
顔面に襲い掛かってきた奔流に驚いたトビオコゼは失速。
そのまま制御を失い落下していくと丘陵地帯の岩に激突した。
「あれ、今の何? 魚は?」
「ああ、リゼットが追い払ってくれたよ。新種のブレス攻撃で……」
リゼットの名誉の為にもそういう事にしておこう。
そう、あれはブレス攻撃だ。
「えぇっ、リゼットってそんなこと出来たの!?」
「ううっ、お兄さん。ボク……ボクはとんでもなくはしたないことを」
「いや、気にするな。あれはそう、ブレス攻撃なんだ……」
胃の内容物を空中に放出して楽になったようだが代わりにかなり落ち込んでいる。
不憫な……
「アンジェラ、スピードを落とそうか。なっ?」
割と真顔でアンジェラの肩を叩くと彼女も正気を取り戻したのか通常速度へと減速してくれた。
最初からこうすればよかったな。すまん、リゼット。
「ナナシさん、あれ……」
広大な丘陵地帯。
そこに黒煙を吹き出しながら骨の様な脚による4足歩行をする巨大な物体があった。
幾つもの煙突が並ぶ古めかしい石造建築の城。
ただし所々、壁の材質などが明らかに金属製だったりと整合性がない。
中央には3本角を持つ巨大な生物の頭骨が鎮座している。
「あ、あれは竜の頭蓋骨? 本物なの?」
その大きさにアンジェラが息をのむ。
「多分、最上級モンスターに分類されているやつかな。八大竜王って呼ばれる竜が居てその中の鉄華竜ってやつがあんな頭の形をしてた気がする。」
「あそこにあるのは頭骨ってことはその八大竜王とやらは絶滅したか数が減ったとかそういうやつなのか?」
「違うよ。ちょっとわかりにくいんだけど鉄華竜ってのは1匹だけじゃないんだ。その中でも特に強い個体、それが八大竜王として名を連ねているんだ。鉄華竜ペサデトロン、ゴルガ峡谷の奥地に潜んでいると言われてるんだ。」
ゴルガ峡谷と言えば確かコープスウルフが本来生息している場所だったな。
結局、コープスウルフが生息地から出てきた理由はわからなかったが……
「しかし、随分と変わったデザインの城だな。この辺りじゃ城ってこんな感じなのか?」
城ってもう少し美しいものと思ってたけどどっちかというとつぎはぎだらけの要塞だ。
「あ、あたしもあんな変なデザインのお城は聞いたことがないかな……リゼットは?」
「何か色々な瓦礫が小さな城をベースに集まってできた感じだね。」
やはりリゼット達から見ても奇妙なデザインらしい。
あそこに俺の目指すべき道標のひとつ、マーナガルムがあるかもしれないということか。
見ると城の後部に魔法のじゅうたんが着地できそうな広くて平らなスペースがあった。
「アンジェラ、あそこに降りれるか?」
「あ、はい。やってみます」
俺達は定めた場所へゆっくりと降下していった。
降下した先は城門のようになっていた。
ただし扉は壊れておりその隙間から中に入れそうな感じである。
まるでダンジョンの入り口だな。オラちょっぴりワクワクしてきたぞ。
「よしっ、それじゃあ行くか!!」




