第21話 おくりもの
夕食後、俺達は今後について話し合った。
ずばり、ミアガラッハの動く城と思われるあの建物についてだ。
マーナガルムを探す上であの城は避けては通れないものだ。
だが噂によると邪悪な魔法使ういの巣窟らしい。
となると危険も今までとは比べ物にならないくらい高い可能性はある。
ならば女性ふたりを巻き込むのは気が引ける。
「じゃあとりあえず城への上陸だけどアンジェラの魔法のじゅうたんでいくのが一番現実的だよね」
「だよねー。3人乗ってる場合だとどれくらい速さが出るか試したことはないけど行けるんじゃないかな」
あれ、ふたりともノリノリで作戦を考えてないか。
「えっと……」
「お兄さんはどう思う?迎撃とかしてきたりするとは思う?」
「その場合はナナシさんに頑張って叩き落としてもらえばいいんじゃない?」
「えっとふたりともいいのか?だって邪悪な魔法使いとかいるかもしれないんだぞ」
その言葉にふたりはきょとんとした表情をする。
「怖くないのか?」
「まあ、仮に噂通り邪悪な魔法使いがいたとしても人間だからね。凶悪なモンスターに比べればかわいいものだよ」
リゼットの言葉にアンジェラも相槌を打つ。
「最悪ぶっとばせばいいと思います」
物騒な!
まあ、この一ヶ月の戦いを経て度胸がついたっていう感じなんだろうか。
特にアンジェラからは時々物騒な言葉が飛び出てくる。
「まあ、そういう事なんで魔法のじゅうたんによる上陸作戦だね。城から何かしら迎撃があったり飛行系モンスターの妨害があった場合はお兄さんよろしくということで決定だね」
上陸作戦は全会一致で魔法のじゅうたんを使用することが決定した。
「そうだ、実はナナシさんに私達からプレゼントがあります。ね、リゼット」
アンジェラがぽんっと手を叩く。
プレゼント? まさか「私達がプレゼントです」とか……って俺は何を馬鹿な事を考えているんだ。
いかんな。これじゃまるで思春期の男子じゃないか。
まあ、元の世界では学生だった可能性も考えられなくはないのだが今の発想はひどい。
猛省せねば。
「そうそう。これをどうぞ!」
リゼットが大きめの麻袋をテーブルに置く。
「ちょい待ち。雑い。渡し方雑いからね?」
「うぇっ!?」
「しかも何その麻袋!? 何でリゼットはそういうとこは気づかないかなぁ。ナナシさん、ちょっと待ってて。今のナシってことで……」
アンジェラが麻袋とリゼットを引っ張り自分の部屋に消える。
何やらあーだこーだ声が聞こえしばらくするとリボンで綺麗にラッピングされた「麻袋」がテーブルに置かれた。
「これしかなかった」とアンジェラは少し不満気だ。
彼女は母親とお店をやっていた経験があるのでこういうことにはこだわりがあるのだろう。
「改めて気を取り直しまして……ナナシさん、あたしとリゼットからのプレゼントです」
「お、おう。」
少し緊張しながらリボンを解き袋からそれを出す。
それは骨を加工した武骨な右手用の手甲だった。
「こ、これは?」
「以前、お兄さんから貰ったコープスウルフの骨があっでしょ? あれをベースにこれまでお兄さんと討伐したモンスターの素材とかを使って加工屋さんに作ってもらったんだ」
「バオ・ブーンの討伐依頼の件もあって安く請け負ってくれたよね」
そう言えばバオ・ブーンの討伐依頼は加工屋の若頭からの依頼だったな。
親方が森に素材を採りに行ったが帰ってこない。
探しに行こうにもバオ・ブーンの群れが邪魔していて捜索の妨げになっている。
こんな感じの依頼で「うわぁ、あるある依頼だなぁ」と思いながら受けていた。
「お兄さん、武器は使用できないでしょ? でもこれは防具扱いだからね。お兄さん、防具なら扱えるっぽいし」
確かに。以前、あることで鍋の木蓋をとっさに盾として使ったことがあるがその時は何事もなく盾として使用できた。
何故そんな状況になったかは秘密だ。
「防具だけどナナシさんの戦闘スタイルなら十分強い武器になると思います。」
なるほど、防御を攻撃に転用するということか。
早速つけてみると思いの他ぴったりだ。
「ふたりとも……ありがとう!」
その言葉にふたりの表情がぱぁっと明るくなる。
「中々、ほほえましいお光景ですな……」
対照的に玄関横の窓から陰鬱な表情の男がこちらを覗いていた。
「セドちゃん。何をやってるんだ?」
「漆黒のセドリックです。変な略し方はしないでください。情報をお持ちしましたよ」
「そ、そうか。とりあえず家に入れよ。何と言うか不審人物っぽいぞ」
まあ、普段でも十分不審人物っぽいがな。
扉を開けセドリックを招き入れる。
「全く、いい雰囲気だったのにさ」
「空気読めよセド公……」
リゼットとアンジェラが小さく舌打ちしている。
最近、セドリックへの風当たり強くないか?
「実はあの動く城についてですが、ある貴族令嬢があの城に宝があるのではと目をつけたという情報が回ってきましてな」
貴族令嬢って響きだけでもうトラブルの匂いしかしないぞ。
「貴族令嬢? それってもしかしてシアアリス嬢?」
アンジェラの問いにセドリックが頷く。
「レミングスター・アリス。大都市ハイラ・テラの名家レミングスター家の令嬢でアリス嬢と呼ばれることが多いですな」
その名にリゼットも手を打つ。
「その名前、聞いたことがあるよ。すごく強欲で欲しいものは財力にものをいわせて何が何でも手に入れるっていう悪徳令嬢だよね」
ああ、やっぱりこの世界には悪徳令嬢っていうのがいるんだな。
何か口元に手を当て高笑いする縦ロールというテンプレートなお嬢様が目に浮かぶ。
「まあ、悪徳かどうかは個々の認識に任せるとしましょう。アリス嬢は動く城の調査の為に婚約者を通してギルドで何人かの冒険者を雇いました」
「なぁ、話の腰を折るようで悪いが何でそれが厄介なんだ?」
「先ほどリゼット殿が言った通りアリス嬢は欲しいものは必ず手に入れる。気を付けてください、ということです」
ふと、気になることが出てきた。
確認しておいた方がいいだろう。丁度、ギルド職員が目の前にいることだし。
「もし調査パーティと何かしら揉めた場合、どうなるんだ?」
「基本的には揉めないで貰いたいですな。ギルドも仲裁に入りますが場合によっては重い処分になる場合もあります」
それはまた、少し面倒なことになっているな。
「まあ、そんな感じで一応質問には答えましたがあまり心配しなくて構いませんがね」
「それはどういう意味だ?」
「それは秘密です。それよりも重要なのはアリス嬢の調査班が城に乗り込みそこにマーナガルムがあった場合です。一応、持ち主が居なかった場合、所有権は調査班にあります。もし、あなたがマーナガルムを所有する必要があるなら彼らより先に見つなければなりませんよ。まあ、その後でアリス嬢が金の力で何かしら手を打とうとするかもしれませんがな。」
上陸の危険性に加え調査班とのスピード勝負。
それに加え、お嬢様が手を回してくるかもということか。
面白くなってきたじゃないか。




