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第20話 マーナガルムの手がかり

令和1年12月14日 一部加筆しています。

ケライムーの討伐依頼を終えた俺達は報告の為、ギルドに戻って来ていた。


「よぉ、お疲れだったなこの野郎。討伐任務完了しやがったな。半端ねぇなおい。」


 今回、受付を担当していたのはずんぐりとした体型の男性だった。スキンヘッドだが額にハートマークの刺青が掘ってありサングラスを着用している。


「相変わらずのインパクトだな、エルマー。」


 彼の名はエルマー。ギルドの職員で、看板『娘』を自称している。看板娘の意味を知っているか聞いてみたが「つまり俺の事だぜ」と言い切られてしまった。

 正直な所、この世界に来る前だったら見た目からして絶対関わり合いになりたくないと避けてしまうような風貌とノリの持ち主だが話してみたら意外にいい奴だ。


「お前、マジで半端ねぇって。どんだけハイペースで依頼こなしてんだよ。無理すんじゃねえぞ。」


「まあ、3人で生活しているからな。日々の生活費とか諸々を稼いだりしないといかんからな。」


「マジか。半端ねぇ男気の持ち主だなオイ。惚れちまうじゃねぇか。」


「そいつは本気で止めてくれ。」


 悪いやつじゃないがややそっちの気があるのではないのかという時がある。今だって少し顔を赤らめていたしな。


「そうそう、こいつはカーロおじさんからの特別報酬だ。受け取りな、3年カボチャ、その他諸々だ。」


 エルマーは綺麗なオレンジ色をしたカボチャや様々な野菜が入った布袋を何個か渡してきた。今回の依頼では金意外にカーロおじさんが育てていた農作物が貰えることになっていた。

 3年カボチャは名の通り3年かけて土の中で育てるこの地方原産のカボチャだ。


「ありがとう。確かに受け取ったよ。それじゃあ、また面白そうな依頼があったら教えてくれ。」


「わかったよ。半端ねぇ依頼を探しとくぜ。」

 

 エルマーに別れを告げ外へ出た俺はリゼットとアンジェラに合流し家路に着いた。二人は荷物を持つと言ったがトレーニングになるからと俺がひとりで持つことにした。

 いやまあ、何かかっこいいじゃん。俺が荷物持つからって台詞。

というわけで荷物を抱える俺の前をふたりが歩きながら会話に花を咲かせていた。


「やー、でもリゼットのナイフ技術ってすごいね。ひびが入った甲殻を貫いて心臓を一突きだもん。」


「ううっ、割と必死だったんでよく覚えてないんだけどなぁ。っていうかアンジェラさ、あああいうの本当にやめて欲しいんだけど……割とノリノリで蹴落としたよね。」


「いや、ナナシさんから作戦聞いた時にそれいいなぁって思っちゃったものでね……お母さんもよく言ってたよ。『思い立ったら突撃せよ』ってね。」


「それがダメな時もあるからねっ!」


 まあ、その思い立ったせいでアンジェラはリゼットの家に転がり込む羽目になったのだがな。本当に豪快な人だ。

 何でも昔パーティを組んでいた仲間と旅をしているらしい。


「まあ、それにしてもこの1か月、結構ハードな依頼が多かったね。」


「だねぇ。あたしてっきり採取だとかお手軽なクエストから始めると思ってたのにさ、いきなりロホ・ミシールの討伐と来るんだから。」


「その後もバオ・ブーンの群れの討伐だったり、デモンターキーの討伐、それに加えて今日のケライムー。討伐依頼が多かったねぇ。」


 はぁ、とリゼットがため息をつく。

 ちなみにロホ・ミシールというのはサイユ台地の西側にある川で暴れていた大型の魚類だ。紅怪魚と呼ばれる真っ赤な体色をしており体長は3m程。元居た世界ではピラルク―とかと同じくらいの大きさだと思う。但し、こいつは上顎が槍の変化しておりそれが1m程ある。

 弾丸の様に敵に突撃する性質がありこれに船が襲われ困っているので討伐して欲しいという依頼だった。この時はこいつの切り身も報酬で貰えたので夕食はムニエル風に料理して食べた。


「まさか1か月でサイユ台地にまで進出することになるとは思わなかった……」


「今までずっと森で小さな依頼をこなしてきたもんね。」

 

 お嬢さん方、何か俺が好奇心に任せてハードな依頼を受けまわっているように言っているが一応考えているぞ。依頼達成の報酬がそのまま食事とかに繋がりそうなものを選んでいるのだ。デモンターキーだって鳥肉を貰えたわけだし。

 ちなみにゲームだとモンスターを倒して素材を得て武器やら防具を作るという流れがある。この世界でもモンスターの素材をもとに防具を作ったりする概念はあるのだが俺達は色々倒している割にそれが装備に反映されたりはしていない。それはなぜか。

 リゼット曰く、「もったいない」とのこと。手掛ける職人の腕にもよるがモンスターの素材を利用して防具などを作ることは出来る。但し、危険度が高いモンスターの素材がそのまま高性能な防具になるかと聞かれると違うらしい。竜系のモンスターの素材ならば鱗などが硬いこともあるがコスパでいうなら甲羅を持った大人しめのモンスターの素材を使った方がいいとかそういうものらしい。

 基本的にそういった防具はオーダーメイドになるのでお金が結構かかる。鎧となると重量もあるので結果としては重装の騎士とかに需要がある。フットワークが大事な冒険者にとっては鎧はあまり縁がない。もっぱら素材はお店に卸すという関わり方が多いかもしれない。

 ということで俺達のパーティにとってモンスターの討伐依頼は大概が日々の食生活に直結している。

 それにしても冷静に考えると今の俺はすごい状況だ。元の世界ではどうだったか知らないが異世界で冒険しつついわゆる美少女ふたりと同居している。セドリックが噂するのもわかる。だって客観的に見れば確かにハーレムだもの。

 ただし、俺達3人の間にはそういう爛れた関係はない。確かにふたりとも魅力的だ。性格もさることながらリゼットはとてもいい尻をしているしアンジェラはそれなりにあるふくらみを意識して思春期の少年かよって感じで胸がおどる時がある。胸だけにな。いや、何をうまく言ったつもりになってるんだ。猛省しなければ。

 まあ、男性だからそういった事が気になるのは仕方がないだろう。しかし断っておくが紳士的な規範を外れた行動については取ろうとした事すらない。理性をしっかり保って節度ある距離感に努めているのだ。


「ナナシさん、どうしたんですか?」


 気づくとアンジェラが後ろ向きに歩きながら俺を覗き込むように見上げており心臓が大きく飛び跳ねた。今のはちょっとした不意打ちだな。仕草もグッと来た。


「い、いや、ちょっと考え事をね。」


「……何かまたろくでもない事考えてるんじゃないかな。次はどんな強いやつに会いに行こうかとか。」


 リゼットがジト目で振り返りながら言う。

 何だよその『俺より強うやつに会いに行く』みたいな某格闘家思考。

 とりあえず尻のこととか胸の事とか頭をよぎっていたことは口が裂けても言えない。


「いや、そう言うんじゃないけど。」


「わかった。マーナガルムについて考えてたんですね。」


 それだ。ナイスフォローだよアンジェラ。

 大楯マーナガルム。それは俺の記憶を取り戻す道しるべの1つとされている。

 

「まあ、そんな感じだな。1ヶ月経ったけどマーナガルムについては殆どわかっていないからな。」


 そう、わかったことは少ない。

 かつてこの地域は隣の大陸にあるシュラム王国という国の属領だった。

 そしてそこを統治していた領主がミアガラッハ家だ。

 ただ、今はこの辺はシュラム王国から独立している。そして隣接していた王政の国家から変化したナダ共和国に編入されている。現在は10の州からなる共和国家だ。

 ミアガラッハ家についてはナダ共和国になって間もなくマーナガルムと共にどこかへ消えたらしい。夜逃げではないか、政敵に消されたのではないかなど様々な噂が流れているが真実は不明。まあ、今から50年以上も前の話になるようだ。


「今は待ちの時ってだけだよ。力を蓄える時。お兄さんは必ずマーナガルムにたどり着くってボクはそう信じてる。」


 リゼットが自信に満ちた声で言う。

 そうだな。焦る必要はない。今はRPGでいうところのレベル上げの時間だ。

 いずれ新しい旅の扉が開かれる、みたいな感じだよな。


「相変わらず、楽しそうな雰囲気ですな。ウキウキデートといいう奴ですかな。」


 楽しそう、という言葉からはかけ離れたトーンの声が響く。

 ああ、あれだ。この声はあいつしかいない。


「何の用だ、漆黒。」


 セドリックはオープンテラスの様に店の外に置かれたテーブルで優雅に湯気の立つ飲み物を飲んでいた。まあ、紅茶だろう。


「漆黒のセドリックです。このような出会いは運命を感じますな。」


「職務放棄のギルド職員発見。通報、通報だよリゼット。」


「了解。早速奥さんにチクっておかないと」


「一応休憩中です。というかあなた達最近特に私に容赦ないですね。」


 確かに容赦ないと思う。まあ、そうなった原因はセドリックがあることない事を噂で流すからなんだがな。

 何度も言うが俺達は爛れた関係ではない。至って健全な関係だ。まあ、ちょっとくらいドキドキするイベントがあってもと思うことはあるがな。


「セドリック、それで用は?あんたが何もなくわざわざおしゃれシチュエーションを用意しながら待っていたとは考えづらい。」


「むっ……まさか見破られていたとは。流石大型新人ですな。」


 いや、カマをかけてみただけだ。

 何となくこいつならやりそうだと思ったものでな。だがどうやら本当にこのシチュエーションの為だけに俺達が帰る道にあるカフェで待機していたようだ。ご苦労様と労いたい。


「ナナシさんはマーナガルムを探していましたね。実は新たに判明したことがありましてそれをお伝えしようと思い待っていたのですよ。」


「さすがセドリックさん、役に立ちます! 超有能!」


「やればできる子、ギルド職員の鑑! ナンバーワンギルド職員だね!」


 さっきまで辛辣だった女性陣から称賛を浴びる彼の表情はどこか誇らしげだ。

 だがな、セドリックよ。これで大した情報じゃなかった時の反動は怖いぞ。

 彼は往々にしてこの手の失敗を犯すから心配だ。


「マーナガルムを賜ったというミアガラッハ家ですが文献によると小さな城に住んでいたようです。そして最後はその城ごと忽然と姿を消したそうです。」


「城ごと? どういうことだ?」


 城ごと消えたなんてダイナミック神隠しもいいところだ。


「実はミアガラッハ家の城というのは『移動する』能力を持っているようでしてな。移動要塞のような役割があったようです。」


「移動する城!? アンジェラそれって。もしかして……」


「あ、あれだよね。さっき見たあの……」


 リゼットとアンジェラが顔を見合わせる。

 そう、俺達は確かに見た。丘陵地帯を歩く城を。


「ああ、見ましたか。ええそうです。巷では悪の魔法使いの居城と呼ばれる動く城。どうやらあれが、かつてミアガラッハ家の居城だったもののようです。そしておそらくマーナガルムはその城にあるのではないでしょうかな。」

「城の調査とかはギルドではしていないのか。」


「丘陵地帯は広いですし放っておいても害は無いですからね。かつては調査隊が組まれたという記録もあるのですが動くものだから調査も難航しまして結論として『もういいや』ってなりました。」


「結論雑い!!」


 アンジェラが呆れた声を出した。

 まあ、どれくらいの距離を動くかは知らないが調査対象に歩き回られたら面倒だよな。

 だがそこにマーナガルムがある可能性が高い。

 それならば俺が次にやることは……

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