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第13話 凶悪犯ドナテリーノ・ジャグロック

 目的地である森林の奥地は遺跡の残骸であった。

 巨大な木々が辺りを覆っており日の光があまり届かず薄暗い。

 だがそれが神秘的な雰囲気を醸し出してもいる。

 まさしく秘境といったところである。


「着いた……着いたよリゼット。このどこかにコンロン草があるんだ」


 アンジェラが感動の声を上げた。


「やったねアンジェラ。早く採ってお母さんに持っていってあげようよ。」


 ふと、喜んでいるはずのリゼットの表情に一瞬陰りが見えたことに気づく。

 何か悩んでいるのだろうか?

 陰りはほんの一瞬で消え、いつもの明るい表情に戻ったのだが……気のせいだろうか。 

 いや、今はとりあえずコンロン草を探そう。

 踏み出そうとした時だ。

 気づく。

 前方から人影が現れたことに。


「何だぁてめぇら。こんな奥地に何しにきやがった!?」


 ボサボサの赤髪の若い男だった。

 裸の上半身にコートを羽織っている。

 中々のワイルドガイではないか。鍛えられた腹筋が覗いている。

 だが人相は残念ながら悪そうな顔、と表現するのが妥当だ。

 首に黒い宝石が埋め込まれたペンダントをかけているのがおしゃれポイントだろうか。


「ああ、俺達は冒険者なんだだ。ちょっと探し物をしててね。」


「ほう、冒険者?冒険者ねぇ。」


 敵意ある視線を男は向けてくる。

 人間、見た目で判断してはいけない。話せばわかると言う人達がいる。

 確かに人を見た目だけで判断するのは良くないと俺も思う。

 意外と熱いハートの持ち主かもしれない。

 そう思いたいところだが残念ながらこの男はそういう類の人間ではないだろう。

 危険な匂いを先ほどから振りまいている。。

 悪人だと判断し、警戒していて問題はないだろう


「あ、あれ? リゼット、あの人見たことある。」


 ああ、これは不味いパターンだね。

 俺の予想が正しければ悪い意味で知っているということだろう。


「そうだよ、こいつドナテリーノ・ジャグロックじゃない!?」


 アンジェラが男の正体に気づいたようで口元を押さえ青ざめる。

 大層な名前だ。少し開設させてもらうとこの世界では日本の様に姓+名前という並びだ。

 つまりこいつの名前はジャグロックというわけだが、中々イケてる名前だな。

 そしてまあ、予想はしっかりと当たってしまったわけだな。


「ぎゃぁぁっ!お、お兄さん、そいつ賞金首だよ!思い出した!行商人を襲ったんだ。その時護衛に入っていた冒険者も殺しちゃってるよ。」


 まあ、アンジェラの反応とかからもヤバいやつだろうなとは思っていたが……本物の人殺し来ちゃったかぁ。

 申し訳ないけど何人か殺しちゃってるような顔だもんな。

 

「チッ、バレちまったか。折角レアアイテムを手に入れるkとおが出来たってのにツイてねぇ。」


 っそういや行商人ってレアなアイテムとか持ってることあるよなぁ。

 RPGだと下手すれば最強ランクの装備を売ってる「お前何者だよ」とかいう行商人もいるくらいだ。

 それはとりあえず置いておくとして状況を整理すると……「何か悪い人に絡まれてます」ってことだ。うん、やばいなそれ。

 

「ジャグロック……だっけ?とりあえず俺達は探し物に来ただけなんだ。あんたの罪状にはさして興味がないしあんたをハントしに来たわけじゃない。ということで俺達はその探し物をしたいのだがな。」


 こちらとしてはコンロン草を探しに来ただけなので無用なトラブルは避けたい。

 賞金首は賞金稼ぎやらそういう専門家の方々に任せておきたい。餅は餅屋だ。


「そうか、そりゃ良かった……と言いたいところだが姿を見られちまったからな。折角見つけたいい隠れ場所なんだ。ギルドに通報されると困るんだよな。」


「あんたは何を聞いてたんだ? 俺達はあんたに興味が無いと言ってるのだが……その辺理解できているか?」


「お、お兄さん、挑発しないでよ!」


 見るとジャグロックは額に青筋を浮かべこちらを睨みつけていた。どうやら怒らせたようだ。やはり穏便には済まないということか……まあ、怒らせたの俺なんだが。

 奴はペンダントを手に取ると不敵な笑みを浮かべる。


「丁度いい。奪ったこいつを試してみたいと思ってたところだぜ。」


「リゼット、あれってもしかして魔道具じゃない?」


「う、うん。でも何か黒いしヤバそうな感じなんだけど……」


 魔道具か。何だ、顔に全く似合ってないなと思ったら装備品だったか。

 今まで見たのはリゼットの収納魔道具とアンジェラの杖。

 アクセサリーの形をしているが力を籠めると能力を発揮するというものだ。

 武器を小型にしておき持ち運びを良くしているものもある。

 何だろうか、でかい剣でも出るのだろうか。

 どう見ても杖を片手に魔法を使ってくる奴には見えない。

 むしろこいつなら杖を鈍器として使いそうだ。


「こいつは『獣化の魔道具』。一騎当千の力を持ち主に与えてくれる代物だ。その目をかっぽじってよく見やがれ!!」


 言い終わると同時にペンダントが光を放ち奴の上半身が変わっていく。

 それは夜の帳を張り付けたような漆黒の体毛を持つ獣、黒ヒョウそのものであった。


「あー、そう言うのもあるのかぁ……肉食系男子かぁ。」


 変身しちゃったなぁ。

 そういうパターンもこの世界にはあるんだな。 


「ジュー、どうだ!これが動物の性質を身に宿す魔道具だ。若い女を切り裂くってのもいいかもなぁ。」


 俺の背後で二人が身をすくめているのが分かる。

 おいおい、女の子ドン引きしてるじゃないか。

 肉食系とかそう言うんじゃなくて肉食動物そのものだよな。


「なるほど、血に飢えた殺人鬼って感じだな……ところで確認だが……それを俺が許すとでも?」


 ここは俺が前に出るしかないわけだな。

 ただ、生身の人間を相手にするのは初めてという不安がある。

 モンスターをワンパンしてしまう俺の力。人に振るっていいのだろうか?


「かっこいいねぇ、お姫様を守るナイトってやつかよ。」


「うぇ? へへっ、ナ、ナイトって。」


 何か後ろでリゼットが謎の照れを見せているのだが。


「リゼット、こんな時に何照れてるの!?ガチの賞金首だよぉ。しかも獣化だよぉ。」


 一方のアンジェラはもう半泣き状態なのがわかる。

 多分こっちの方が正しい反応だろう。

 さて、こちらも覚悟を決めるとしようか。


「ジャグロック。お前が何であろうと俺の仲間を傷つけようというのならそれは看過できるものではない。」


 相手を見据え、一気に懐に飛び込む。

 こぶしを握り締め、相手の顔面目掛け放つ。

 

「拳の弾丸(ナックルバレット)!」


 名は重要だ。

 名前を付けることで様々なものに力が宿り強さを発揮する、と俺は考えている。

 まあ、単に「名前を叫ぶとそれっぽい」という欲望もあったのだが。

 とは言えコープスウルフを一撃で倒したパンチだ。

 獣化によって身体能力は強化されているだろうから死にはしないだろう。

 出来ればワンパンで気絶希望だったが予想に反しジャグロックはのけぞったくらいだった。


「ぐぅぅ……てめぇ、中々いいパンチを持ってるな。」


 妙だな。コープスウルフはワンパンだったぞ?

 非常にタフになっておられる。


「だが、獣を舐めるなよ!」


 ジャグロックが大きく口を開けそのまま……


「うかつに近づきすぎだぁ!!」


 俺の左肩に食らいついて来た。

 激痛と共に肩からは熱い血が流れ出ていくのを感じる。

 ……って噛みつき!?

 それ反則じゃないのか?


「お、お兄さんっ!」


 背後でリゼットが叫び声をあげる。


「ん、何?」


 とりあえず振り返る。

 ああ、心配そうな表情でこちらを見ているな。ちょっとグッと来た。


「うぇっ!? お兄さん何余裕でよそ見してるの!!?」


 怒られた。年頃の女の子というのはわからんな。


「て、てめぇ何余裕こいてるんだ!!」


「いやまあ、痛いんだがほら、呼ばれて返事をしないのは失礼にあたるしな。というかいつまで噛んでるんだよ。」


 ジャグロックの顔面にエルボーを叩きこむ。

 うめき声をあげジャグロックが俺を離す。

 俺は傷の事は気にせず追撃をかけ拳の弾丸を乱れうちする。


「拳の(ナックルスコール)!」


 拳がジャグロックの肉体を打ち据えていく感触を感じながら攻撃の手は緩めない。


「てめぇ、さっきから武器使わねぇと思ったら武闘家か。それならいいこと教えてやろう。いくら腕っぷしが強かろうが武器には敵わねぇ!これは殺し合いなんだよ!!」


 いや、殺し合いとか嫌なんだけどなぁ。

 というかそろそろダウンしてくれないかな。

 そんな事を考えているとジャグロックの両拳から鋭い爪がせり出す。


「豹爪のひと撫でーーっ!!」


 ジャグロックの鋭い爪を躱しきれず胸のあたりを切り裂かれる、

 そんな攻撃もあるのか?


「そおれ、もういっちょ!」


 更なる追撃が俺の左肩を切り裂く。思わず膝をついてしまった。

 くそっ、今は敵のターンということか。

 今までの戦いで大して苦戦してなかったし目立った被弾もなかった。

 なので……ちょっと痛い。

 そりゃ出血している位なんだから流石に痛いよな。

 恐らくこの世界に来る前の俺ならもう倒れているところだろう。

 どんな人間だったか思い出せはしないが豹に引っかかれるような人間ではあるまい。


「アクラル!」


 俺の脇を抜け、3本の水の矢がジャグロックに放たれていく。

 だがジャグロックは事も無げにそれを爪で払い落としてしまった。

 振り向くとアンジェラが杖を出しこちらに向けていた。

 今のはアンジェラの水魔法だったのか。

 恐怖からか膝が笑ってしまっている。

 その横では顔面蒼白なリゼットがあたふたしている。


「アンジェラー!何やってんの!?」


「だ、だって助けないと。」


「気持ちはわかる、気持ちはわかるけどちょっと無謀だよ、だって賞金首だよぉ!ていうかこのままじゃアンジェラあの人に……」


「何をするかと思えばこんな水鉄砲!!上等だ。てめぇらの方から切り刻んでやろうじゃねぇか。」


 ジャグロックが地面を蹴りアンジェラ目掛け奔る。

 しまった。あんな一撃、アンジェラが喰らったらひとたまりもない。大怪我だ。

 そしてこの態勢では助けが間に合わない。


「てめえの無鉄砲さを食いながら死ねやぁぁ!!」


 凶爪がアンジェラを切り裂かんとした瞬間、間に入りそれを受け止めた者がいた。


「なっ!」


「ひゃああああっ、無理、無理だよ。こんなの本当に無理ぃぃぃっ!!」


 リゼットだった。

 彼女はとっさに二人の間に入りナイフで爪を止めていた。

 ただしガチ泣きで震えている。

 

「なっ!こ、この野郎!!」


 もう片方の爪で切り裂こうとするもナイフはそれを許さない。

 ならばと左右の爪で何度も切り付けようとするがそれすらリゼットのナイフは捌き切るのだ。


「うびゃぁぁぁ、やられるうううううう!!」


「何なんだてめぇは!!」


「びゃあああああああ、ごめんなざぁあああい!!」


 いや、これって何気に凄いんだがな……

 おっとm看取れている場合ではない。

 俺は飛び込むとジャグロックの片脚を取る。


「どっちを向いている。お前の相手は俺だぞ!!」


 そのまま、きり揉み回転を加え倒れこみ回転力でジャグロックを投げ飛ばした。


「ナナシ式飛龍竜巻投げ!!」

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