第14話 変わる未来
飛龍竜巻投げ。
またの名をドラゴンスクリュー。
咄嗟に出たプロレス技であったが二人からジャグロックを離し、意表を突くことには成功した。
もしかしたら俺はプロレスが好きだったということかもしれない。
またひとつ自分の記憶に近づいたわけだな。
「てめぇ、武器も持たねぇ雑魚の癖に何を調子こいてやがる!」
「さっきから聞いてれば武器が武器がっていうがな……世の中には武器を装備してみたくても出来ないやつもいるんだよ。俺の武器はこの肉体だーっ!」
ジャグロック目掛け飛び込んでいき横回転しながら飛び上がって蹴りを放とうとする。
ローリングソバットというやつだ。
「寝言は……」
ジャグロックは放とうとした足を掴むと力任せに俺を投げ飛ばす。
「寝てから言いやがれ!」
俺は投げられつつも空中で体勢を整え無事に着地する。
「俺を見ろ!魔道具の力で獣の力を宿した。それこそが肉体が武器と言える状態だ。てめぇなんぞ腕っぷしがただ強いだけの人間だ!どこが優れてるってんだ!」
ジャグロックの尾が伸び鞭のようにしなる。
尾は俺の顔面を張り、さらにもう一発、ボディにもいれてくる。
強烈な一撃だ。
意識が遠のきかけるが足を踏ん張り持ちこたえる。
こいつに出会えてよかった。
この世界にとって俺は特殊な存在だ。
他者と違うというのは明らかだろう。
だが決して最強というわけではない。
「俺にはリゼットの様なナイフ捌きは出来ないしアンジェラの様な魔法も使えない。だから俺は出来る事から一歩ずつ進めていくしかない。それだけだ!」
ジャグロックの両腕を掴むと飛び上がり、顔面に両脚でドロップキックを叩きこむ。
牙が何本か折れ、飛び散る。
膝をついたジャグロックの額の青筋がさらに増える。
「いちいち癇に障る奴だ!強い力を持っている奴が支配するのが世の中ってもんだ!」
叫ぶジャグロック。
「違うな。強い力とは誰かの笑顔を守るためにあるものだ!」
ここで更にある出来事が起こった。
「クーーマッ!クーーマッ!」
森のあちこちから声が聞こえるてきたのだ。
視線を向けるとそこにはあのいい筋肉のクマ、マッチョベアーがいたのだ。それも何頭も。
家族だろうか、それとも筋肉仲間だろうか。
ジャグロックもそんな素晴らしい光景に動揺している。
「リ、リゼット!ク、クマだよ。マッチョベアーの群れが……!」
「えぎゅああああ!今度こそダメだああああ!!」
女性二人にとっては悪夢ともいえる光景だろうな。
前門の虎、後門の狼ならぬ前門のジャグロック、後門のマッチョベアーだ。
だが俺にとってこれは……友からの声援だ。
体中にたまっていた疲労が取れていく気がした。
一頭のマッチョベアーが俺に近づいてくる。
先日友情を育んだあいつだ。
言葉はいらなかった。どちらともなくうなずきそして腕を組む。
それで通じるのだ。「負けるな友よ、勝て」
マッチョベアーはそう言っている。
「本当に何なんだよ。てめぇと闘ってると頭がおかしくなりそうだ。おい、女ども。こいつは本当に何なんだ」
「いや、何と言うかあたし達もそれ聞きたいです!!」
「あはは。ボクもう考えるの止めたよ。一緒に応援しよう……クーマッ!クーマッ!」
リゼットは現実逃避なのかマッチョベアーたちと同じように声援を送り始めた。
「リゼット!お願いだから気を確かに!!」
何やら楽しそうだがとりあえず応援してもらってるのだ。
ここが踏ん張りどころというやつだ。
「行くぞ、ジャグロック。俺はお前に勝つ」
「ほざけっ!」
怒声と共に動きだす。
ジャグロックは鋭い爪の乱撃を繰り出し俺を抉り殺そうとする。
だが声援の効果もあるのだろうか、自分でも驚くほど敵の攻撃が見えた。
ジャグロックの攻撃は少しも被弾せず俺は逆に奴の左腕を取ると体全体を使って捩じり上げ……折る!
「ぬあああ!?て、てめぇ!!」
強く踏み込む。
足を伝い爆発的なエネルギーが上半身に上っていくのを感じる。
正面から堂々と、全身全霊の一撃を叩きこむ所作。
それは『拳の弾丸』の威力を更に特化させた一撃、名を冠するならば『拳の砲弾』。
「があっ!」
腹に食らった一撃でジャグロックが白目をむき後ろへと吹っ飛ばされる。
そしてそのまま一回転し巨木に叩きつけられた
ずるっと地面に座り込み血泡を吐き前のめりに倒れ込んだ。
「グ、グシャバ~ッッ!!!」
ジャグロックは一度大きく痙攣すると動かなくなった。
気絶したようで獣化も解除されていた。
更なる威力を持つ『拳の砲弾』。だがそれは相手を殺すために放ったものではない。
最初は自分の力が人を傷つけるのではないかという恐怖があった。
それゆえ全力を出すのを躊躇っていた。
だが気づいた。それならば相手の命を奪うことなく相手を倒そう、と。
まあ、思いついただけで実行できるとは何とも都合がいい話だがそういった心構えをしたところ、意外なほどに思う通りの力が出せた。
俺は勝利を確認すると力を抜きその場に座り込んだ。
同時にマッチョベアー達が咆哮を上げる。
我が友に至っては勝利のゴング代わりかドラミングをしていた。
感動的なんだがな……お前、クマだろ。
「お、お兄さあああん!!」
リゼットが泣きながら駆け寄ってくる。
少し遅れてアンジェラも。やはり泣いていた。
「ジャグロックには勝てたけどこのクマ達どうしましょおおおお!!」
ああ、そうか。この娘達にはそっちもシリアスな問題だよな。
「いや、まあ大丈夫じゃないかな。あいつら俺の応援に来てくれただけだし。それよりコンロン草を探さないと。」
すると気絶していたはずのジャグロックがピクピクと動き出す。
リゼットの顔がみるみる青ざめていった。
そして視線はアンジェラの方に向いている。
「まさかこのタイミングで。このタイミングで『あれ』が来るの!?そんなっ。やっぱり変わらないの?」
うわごとの様に呟いていた。
恐怖を感じている表情だった。
だがそれはいつものリゼットの様子とは違った。
元々怖がりでわーきゃー叫ぶ娘だがそれとは明らかに一線を画している恐怖。
それが張り付いていた。
アンジェラも恐怖を感じている風だったがやはりそれとは何かが違う。
「俺はまだ……まだ負けちゃいねぇ。」
意識を取り戻したようで小鹿の様に足を震わせつつ立ち上がろうとする。
マズイな。このまま2回戦はややきついものがある。
いや、そうだとしてもここは戦うしかない。
こんなに怖がっているリゼット達を放ってはおけない。
瞬間、何か巨大なものが飛んできてジャグロックに命中した。
棘がついた巨大な輪であった。
輪はがっしりと閉まりジャグロックの身体を拘束する。
「な、何だこれは!?」
「まったく、マッチョベアーが群れてると思って来てみたらジャグロックがぶっ倒れてるし何だべさこの状況。」
声の主は巨漢の男だった。
身長は2mを遥かに超えており3mに近いんじゃないかというほどであった。
全身がたくましい筋肉に覆われており顔には1本の大きな傷が刻まれている。
「あの人ってまさかランピオン・ガルマージ!デストロイドモンスターの上級冒険者だよ!」
「おやおや、オデも有名になっちまったもんだなぁ。」
ガルマージは頬を掻きながらジャグロックへと近づいていくと奴が何か言う前に殴りつける。
するとジャグロックは今度こそ完全に気絶し動かなくなった。
マッチョベアーは彼に対し敵意なども見せず俺に親指を立てウインクすると仲間たちと共に森の奥へと奥を消していった。
「ドナテリーノ・ジャグロック。おめぇを拘束してギルドに引き渡す。」
ガルマージは鎖を取り出すとジャグロックを拘束している輪に繋げた。
「おめぇら、もう安心だ。ジャグロックはもう悪さ出来んべ。」
言うとガルマージはジャグロックを担ぐ。
今度こそ本当に終わったか。
安心と同時に今度こそ全身の力が抜け、俺は気絶した。
「お兄さんっ!?」
◇リゼット視点◇
信じられない。
未だかつてこんなことがあっただろうか。
いや、はっきり言ってなかった。
今日、アンジェラはこの森で命を落とす。
それがボクが視た未来だった。
森の奥へ近づくにつれそれが起こるという感覚は強くなっていった。
ボクはただただ、親友との別れの瞬間、それに立ち会う恐怖に苛まれていた。
そこへきて凶悪犯のジャグロック登場。
完全に理解した。
アンジェラはコンロン草を採りに森に入り、何とかここまで来るがジャグロックに出会い、殺されてしまう。これが答えだったのだ。
お兄さんがボクらを守るため立ち向かってくれたけど獣化魔道具を使うジャグロックに追い詰められていった。
そしお兄さんを助けようとアンジェラが放った魔法。
これが引き金。
ジャグロックの標的はアンジェラになり、奴はその爪を振りかざして飛び込んできた。
ナイフで攻撃を受け止めたのは反射的な行動だった。
「何なんだてめぇは!!」
「びゃあああああああ、ごめんなざぁあああい!!」
こんな事をしたところで未来は変わらない。
なのにボクは、無我夢中でナイフを振りジャグロックからアンジェラを守ろうとしていた。
これはただの時間稼ぎだ。
その時が来るのを遅らせているに過ぎない。
だが、そこから信じられない事が起きた。
マッチョベアーが応援に駆け付けた。しかも群れで。
もう何だよこの状況。
もうヤケクソでボクも応援することにした。
そして遂に、お兄さんがジャグロックを倒してしまったのだ。
その瞬間、ボクの中で渦巻いていた絶望的な未来が霧散したのを感じた。
今まで決してなかった感覚だった。
まさか、お兄さんがジャグロックを倒したことで未来が変わった?
どれだけボクが抗っても変わらなかった未来の結果を、お兄さんが変えた?
アンジェラを、救ってくれた!?
その後、ジャグロックが再び動き出そうとしたけど上級冒険者の人が止めてくれた。
アンジェラが死ぬ未来は、もう見えない。
やっぱりそうだ。お兄さんが、ボクの絶望を払ってくれた!




