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第11話 冒険者の初仕事

 瞑想しながら自分の状況を整理していくこと1時間。

 流石にそろそろと促され、俺はセドリックと共にギルドへ戻ることとなった。

 冒険者としての情報が魔道具により登録証に保存され、渡された。

 『5等初級冒険者ナナシ』。それが俺の肩書だ。


「おめでとう、お兄さんなら合格って信じていたよ。」


 登録証を受け取るとホールで待っていたリゼットが早速声をかけてきた。


「ありがとう。これで君と同じ冒険者だ。」


「そうだね。それじゃあ、ついでにボクとパーティ登録とかをしてみないかな?」


 パーティ……要するに一緒に冒険をする仲間ということだよな。


「登録しておけば複数人で依頼を受けられるんだ。まあ、報酬は山分けになるけどね。」


「そうだな。俺はこの世界についてよく知らないしリゼットが居たら心強い。」


 しまった。つい『この世界』って口走ってしまった。

 混乱を招かないためにもと俺が異世界人であることは今の所秘密にしているのに。


「うぇへへ……そんな風に言われたら照れるなぁ。」


 リゼットは俺の言葉に気が付かず頬を掻きながら照れてくれている。

 それにしても何だこのかわいい生き物は。とりあえず気づいてはいないようだ


「それじゃあ、登録しようか。こっちだよ。」


 リゼットに促され再度登録カウンターへ。

 どうやら階級が5以上違うとパーティは組めないらしい。いわゆる『寄生』を防ぐ為かもしれない。

 運がいい。俺は5等。リゼットは1等なのでギリギリ大丈夫なようだ。


「そう言えば俺はキノコの納品が登録試験の依頼だったが……初級にはどんな依頼があるのかな?」


「うん?そうだなぁ、4等くらいまでなら街中でのペット探しとか、お店の臨時店員とか、最下級モンスターの間引きとかみたいな感じかな。便利屋的な感じだね。3等からは初級モンスターの討伐だったりと少し難易度が上がる感じかな。」


 まあ、そんなものか。冒険者だからと言って冒険に出るだけではない。そう考えるとこのギルドは一種のハローワークみたいなものだな。元の世界での俺はハローワークを利用していたのだろうか。

 

「一応、自分の階級より3つ上くらいまでの依頼なら受けられるよ。ただ、下級と中級みたいに大きな階級をまたぐ場合は1個上の階級までだね。」


 ということは俺は3等初級、リゼットは5等中級まで受けられるということか。そういった取り決めをすることで冒険者が命を落とすリスクを抑えているのだろう。全滅したら王様の前で復活するとかは無いのだから。


「もしかして、何か依頼を受けてみたい?」


 リゼットはカウンター横の掲示板を指さす。

 そこには無数の依頼書が貼られていた。

 どうやら俺はこの光景にあこがれたことがあるようで胸が高鳴るのを感じる。

 幾つかの依頼書を見ると『スイーツコーンの間引き(5匹)』という依頼書が見えた。


「このスイーツコーンというのは……モンスターなのか?」


 何だか甘ったるそうなトウモロコシのような名前だが「匹」とついている以上は動物なのだろうか。

 

「ああ、角が生えたウサギだよ。毛並みがクリームみたいで綺麗なんだけど畑を荒らすのとすぐ増えちゃうんだ。」


 ウサギは繁殖力が強い動物だからそうなるのか。というか何でこう異世界のウサギは角が生えているのだろうか。最早定番の形だ。

 そんな事を考えていると突然、リゼットの身体がビクッと震える。


「どうした……んだ?」


 瞬く間にリゼットの両目から涙が溢れだし、彼女は慌ててそれを隠す。


「そ、そんな……何で。こんな時に……」


 何かに取り憑かれた様に同じ言葉を繰り返す。


「ど、どうしたの、リゼット?」


 背後からの声に振り向く。眼鏡をかけた少女が立っていた。年の頃はリゼットと同じくらいだろうか。赤みがかかった髪は肩にかかる程度まで伸びていて先が少しカールしている。

 成育に関してはリゼットよりも進んでいる。というか俺は何処を見ているのだ。 


「アンジェラ……っ!」


「こんなところで急に泣き出すなんて……ハッ!もしかしてこの男の人に何かされたとか!?不審者?ギルドの人呼ぼうか?」


「待て。思いっきり濡れ衣だ。弁明の機会を求める。」  


「認めます!どうぞ!!」


 まあ、客観的にこの状況を見ると俺が泣かせたと思われても仕方がない。

 必要な事はありのままの事実を説明する事だろう。


「実は俺もわからないんだ。さっきまで普通に話をしていたが急に泣きして……」  


「いいですか、自覚なく相手を傷つけていることってあるんですよ。女の子は繊細な生き物ですから。」


 アンジェラが頬を膨らませる。む、妙にかわいい。


「なるほど、厳しい意見だが一理ある。」


 と納得したものの先ほどの会話で何か失言はあったのだろうか。脳をフルに働かせてみるが……まさかウサギ関係だろうか?そうか、兎関係に違いない……わけがない!!


「ところであなたは……あ、もしかして巷で噂になってるリゼットの彼氏さんじゃあ……ハッ!まさか別れ話!?」


「いや待て。違うぞ。そういう関係では……」


「まさかリゼットの心を弄んだ!?都合のいい女扱いして、ポイッってやつですか?鬼畜の所業ですか!?男として最低ですね。見下げ果てた存在ですよ!!」


 言葉の刃が次々へと刺さっていく。じんわりと嫌な汗がにじむのがわかった。

 この娘、もしかしたら想像力が豊かかもしれない。頭の中ではどんなドラマが展開され始めているのだろう。

 とは言え、リゼットが泣いている以上分が悪いのは事実。


「ち、違うよ。お兄さんはそんな酷いことは……って待って。だからボクとお兄さんはそういうあれじゃないよ!?あーもう、セドリックさんどれだけ噂をばらまいたのさ!!」


 涙をぬぐいながらいつものリゼットが戻って来た。


「リゼットみたいな女の子はいつだってそう言って我慢する側だよ?今ならあたしが一緒に被害届を出しに行ってあげる。」


「いや、本当に違うんだよ……目にゴミが入っただけで……」


 何だかDV被害者を説得する女友達といった感じだな。いや、俺はDVなどしていないのだが。


「……本当に心当たりがないのだ。もし俺の言動が彼女を傷つけたのなら謝りたい。」


 アンジェラが「むー」と唸りながら俺の顔を見つめる。

 背中を冷や汗が流れる。


「うーん、確かに悪い人には見えない、か…………何だかあたしの勘違いだったのかな。それにしてもリゼットも男の人を拾ってくるなんてね。本当にびっくりしたよ。」


 と言い警戒の表情を解いてくれた。

 いや、良かった。そして俺はやはり『拾われた扱い』なのか……


「ね、ねぇアンジェラ。もしかして君、どこか行こうとしてたりしない?変な依頼受けてたりしない。」


「依頼……まあ、受けたって言えば受けたよ。変な話だけど……自分で出した依頼をね。」


 彼女は罰が悪そうに視線を逸らす。


「それってもしかしてコンロン草の依頼?えっと……」


「うん。誰も受けてくれなくてね……」


「すまん、俺は状況が全く掴めないのだが……自分の依頼を自分で受ける?」


 するとリゼットが状況を説明してくれた。

 まず彼女の名前はアンジェラで、雑貨店の看板娘らしい。

 最近、彼女の母親が珍しい病気にかかってしまい、その治療にはコンロン草という薬草が必要なのでギルドに依頼を出したものの誰も依頼を受けてくれない。

 そうしている内にも母親の病気は重くなっていきそれなら自分で採りに行くと彼女は冒険者になった。そして……


「もう待てないの。だから、あたしがお母さんを助ける。」


「……しかし不思議だね。困っている人が居るというのに何故、誰も依頼を受けてくれない?」


「そうだね……まずコンロン草の生えている場所がね。森の奥の方なんだけど道が悪い上に結構な距離があるんだ。森の西側だからそんな凶悪なモンスターも住んではいないけどね。」


「もう一つは報酬が低い事なんです。何とかお金をかき集めはしたんですがそんな高い報酬は払えなくて……4等初級程度で一番人気がないランクの依頼なんです。」


「ボクも1回そっちの方へ行ってみようとしたんだけど上手くいかなくてね……」


 面倒な割に報酬が大したことのない系統の依頼か。ゲームで例えるなら進行に支障がないサブイベントだ。下手をすれば放っておかれてしまう。


「コンロン草は売ってはないものなのか?」


 その言葉にアンジェラが表情を暗くする。


「実は以前、行商人が取り扱ってました。それで何とかお金をかき集めて手に入れたんだけどそれは……」


「そうか……何となく察した。」


 偽物だったのだろう。人の弱みに付け込んでお金をだまし取る輩というものは何処の世界にもいる。腹立たしい事だ。


「父は何とか生活を良くしようと小さい時、大きな都市の方へ出稼ぎに行ったんですがそこで行方不明になってしまってずっと母と生きてきました。あたしの家族は母しかいない……だからあたしが何とかしなきゃ。」


 親子、か。俺にも親はいたのだろう。その親は俺のことを心配してくれているのだろうか。

 残念なことに親に関する記憶は全くない。

 もしかして意図的に封印しているのかもしれないしたまたま忘れているのかもしれない。


「なあ、リゼット。質問なのだが受注済み依頼への途中参加というのは許されるのか?」


「え?まあ、問題ないよ。出発した後なら多少報酬の分け前は減るけど……お兄さんもしかして……」


「察しの通りだ。アンジェラ、コンロン草の捜索だが手伝わせてくれないか?」


「え!?」


 俺の言葉にアンジェラが目を丸くする。


「本当についさっき冒険者として登録したばかりだから役に立つかはわからないが、困っている人を見捨てるわけにはいかない。力になりたい。リゼット、問題は無いか?」


「え、あ、うぇ?ま、まあお兄さんがそう言うなら……そうだね、アンジェラは友達だしボクも力を貸すよ。」


「えっと、あれ?はい?」


 突然の展開にアンジェラは状況をまだつかめていない様子であった。

 かくして俺にとって冒険者として最初の仕事が確定した。

 だが出発前、リゼットが小さく呟いた言葉が心に引っかかった。


「それでも、運命は変わらないんだ……ごめん、アンジェラ。」

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