第10話 初級冒険者登録試験
「それでは試験を始めましょうか。試験内容はトイシダケ5本の納品です。」
セドリックに連れられ森にやって来た俺は今回の試験内容を伝えられた。
依頼内容はいわゆる納品クエストと呼ばれる類のものだ。トイシダケは黒々とした色と傘の凹凸が特徴的なキノコで軸がかなり硬いのが特徴でこれは砥石代わりになるそうだ。
「傘の部分は食べられないのか?」
元いた世界には無い未知のキノコ。食べられるのかが非常に気になる。
「残念ながら軸程ではないとはいえ硬いですからな。凹凸があるので研磨にも向いていない。」
残念。食べられるキノコでは無かった。食べられないキノコなんか只のキノコだ。あれ、何かおかしいな?
「確認だがこの試験に制限時間はあるのか?」
「そうですな。一応、1時間半と制限時間を設けております。まあ、大概30分以内に達成します。時々探すセンスがない人がいてそういう方は1時間ほどかかってしまうことがあったりはしましたが……」
まあ、何事も向き不向きがあるのだろう。ただ、基本的には簡単に合格できるような難易度なのであろう。
俺は渡された絵を見ながら森の中を歩く。
「それにしてもこんなキノコがあるなんて本当に異世界って感じだな。」
呟きながら木陰に生えるものを一本。
その隣にもう一本。
倒れて空洞になっている木の脇にも発見。
そうしているとあっという間に5本のトイシダケが集まった。それらをセドリックの所へ持っていく。
「実に素早く正確な採取ですね。初心者は割と探すのに手間取るものなのですが……」
後ろについて来てみていたセドリックも感心する。
どうやら俺はこういう事は得意らしい。
要するに同じものをたくさんの中から探し出すという行為だ。
「とりあえず、これでいいのか?」
専用のポーチをセドリックに渡す。
セドリックが中身を検める。
「はい。どれもトイシダケですね。お見事。合格です。それではこれで試験を……」
「あっ、もしいいならもう少しだけ森に居ていいか?」
「はぁ、構いませんが……何かお探しですか?」
いや、と俺は首を横に振る。
「少し、ここで自分を知りたい。」
セドリックが首を傾げる。
しかしすぐに。
「なるほど。いいでしょう。己の内に秘めたる力を解き放つ訓練ですな。」
何か勘違いしているが話が早くて助かる。
それじゃあ、と俺は少しセドリックから離れ目を瞑る。
そして考えた。
俺は自分が誰かわからない。
ただ、令和の日本人だったことは確かである。
何故かモンスターと渡り合えるだけの実力がある。
中級モンスターくらいなら問題なく戦えるようだ。
では、これは何なのだろうか?
思考する。
恐らくこの世界に転生した際に身に着けたものだろう。
今の状態はゲームで言う「高レベルで序盤の街に飛ばされました」状態ではないかと思われる。
ならば、レベルで言うとどれくらいなのだろう。
最強とは考えられない。俺より強いやつは山ほどいると考えている。
たまたまこの辺のモンスターより強い力を持つだけ、だろう。
自分は強いと胡坐をかいていれば思わぬ落とし穴が待っているだろう。
必要なのは自分の能力を知ることだ。
防御力に関して言えば、俺は昨日マッチョベアーの攻撃を受け止めた。
だが皮膚が特別硬いわけではない。
何せ朝、廊下で小さな穴に躓いてこけた際、軽く膝を擦りむいた。
「ということは、だ。」
マッチョベアーの時の様に両腕を顔の前で揃え集中してみた。
全身の筋肉が収縮し何かを纏っているというイメージが脳裏に浮かんだ。
なるほど、防御姿勢を取ると格段に防御が上がるのか。
試しに腕をクロスさせてみるなど別の防御姿勢を取るが同じようなイメージが沸かなかった。どうやらこの姿勢限定らしい。
そしてもう一つ判明した。
この防御態勢を取ると飛躍的の防御が上がる。だが、動けないのだ。
全身を強張らせているからか、防御姿勢を解除しないと移動が一切できない。
武器適性が全くない、むしろマイナスであることを知ってから何かあると思ったがやはり他にもあったようだ。
即ち、無敵ではない。
よし、ならば次は攻撃についてだ。
今まで一撃で勝負を決めていたがどれくらいの持久力があるか調べよう。意外と「3分間しか戦えない」とかそういうリスクがある可能性もある。
この森の中なら誰の邪魔にもならないだろう。
◇リゼット視点◇
ギルドに依頼達成報告をした後、コープスウルフの件を報告すると副ギルド長のエクリーさんの部屋に通され詳しい話をすることに。
エクリーさんは自身も冒険者で有事の際は依頼を受け色々なところに派遣されている。
大柄で顔の大部分が髭で覆われている中年男性だ。
お兄さんの事も聞かれたが変な誤解が広まるのも嫌なので一緒にいる経緯なども説明した。
「コープスウルフの件は気になるな……それにしてもお前さんも運がいいんだか悪いんだか。」
「え?」
「いや、だってお前さん、今まで遺跡の周囲まで潜ることはまず無かっただろ?森の中じゃ深部に当たる場所だ。お前さんいつも、浅い部分か中程までで済む依頼ばっかり受けていたじゃねぇか。それなのに昨日に限って遺跡周辺でしか採れない『アスコーナモリトコブシ』の納品依頼だからな。」
エクリーさんの言葉に心臓が激しく鼓動を打った。
もしかして『気づかれた』?
「た、たまには違う依頼も受けてみようと思ったんだ。報酬も結構いいし。」
「そういうもんか。まあ、お前さんも1等下級冒険者になって1年半、これも何か前進するきっかけになるといいな。」
きっかけか……
そう、確かにこれはボクにとってきっかけになる。
「しかし、お前さんが連れてきたあの男も遠くから見たが中々の潜在能力を持ってると見た。拳だけで戦ったんだって?まるで拳聖コウ様だな。」
やっぱりエクリーさんほどとなるとお兄さんの実力も何となくわかるんだ。
「……そうだね。お兄さんが冒険者になったら組んで一緒に色々やっていこうかなって思ってる。」
「ますます驚いたな。お前さんからパーティを組むなんて言葉が出るとは……明日は天気が荒れるか?やっぱりいい男との出会いは人を変えるって言うのかな。」
「な、何それ。だからお兄さんとはそういう関係じゃないから……」
そう、そういう関係じゃない。
そうなるわけがないじゃないか
ボクみたいな人間に…………そんな未来、ボクにはみえないよ。




