第3話 彼の想い
デウスが酒場でご飯を食べている頃、空軍支部のある一室では、不穏な空気が流れていた。その不穏な空気を出しているのは、この街の支部長ヘイト中佐である。
「おい、今月の納入はどうなってる?」
「はっ!先月より若干少なくなってはおりますが、例年に比べ天候が芳しくないことを考慮致しますと、充分な納入量と考えられます。」
「ダメだ。この納入は俺に感謝を示すものだろう?誰がこの街を守ってやってるんだ?ーーこの俺様だろうが!」
「で、ですが!これ以上の納入を望んでしまっては街の人々が生活できなくなってしまいます!」
「ダメだ。それは甘えに過ぎん。今すぐ足りない分を回収してこい!いいか、これは命令だ。」
軍という組織に属している以上、上官からの命令は絶対なのだ。彼は仕方なしに了承するしかなかった。
「りょ、了解いたしました。失礼いたします。」
彼がそう返事をして中佐の部屋を出て行こうとしたその時、なぜか彼は中佐に呼び止められた。
「おい、待て。貴様、名は何だ?」
「はっ!私の名は、ハンガー准佐であります!」
「貴様はもうこの支部に来なくてよい。上官の、俺の命令を聞けないものに用はない。出ていけ。」
「なっ!お、お待ちく「おい、貴様。俺は出ていけと言ったんだ。」
「し、失礼いたします…。」
彼は何を言っても無駄だと思い、中佐の部屋を後にした。彼はたった今、これから先のことを考え、下を向きながら歩いていた。すると、誰かの影が目に入り目線を上に戻すと最近この支部に配属されてきたトゥエム少佐がみえた。自分の上官にあたる人物なのでハンガーは足を止めた。
「おや?下を向いてて気付かなかったが、誰かと思えば良心の塊、ハンガー准佐じゃないか!いやー、ご苦労ご苦労!アハハハハ!」
「お疲れ様であります!トゥエム少佐殿!私、たった今、この支部を辞めさせられたので『元』准佐であります!」
この場を暗くしてはいけないと思い、おちゃらけて伝えているつもりかもしれない彼の顔は、あまりにも悲しそうにみえた。すると、トゥエム少佐は彼を可哀想に思ったのだろうか。彼を連れて、話のできる場所まで移動し、そこで話を切り出した。
「申し訳ないが、場所を変えさせてもらったよ。聞きたいことがあるんだ。どうして君は、そんなにも悲しそうな顔をしているのかな?あぁ、それと堅苦しい言い方はしなくていいよ。今は上司と部下ではないのだからね。」
「はっ!それでは失礼して、、、自分は、この街が少しでも良くなるよう努力していきたいと思っていました。ですが、その気持ちとは裏腹に、この支部に納める量が明らかに多く、中佐はいい物を食べるばかりです。これでは、市民の生活は苦にしかなっていません。今の自分では、何も変えることのできない己の、己の無力さが悲しくて仕方ありません!ーーはっ!?し、失礼いたしました!」
「いや、いいよ。全然気にしなくていい。君のような志のある者を知れただけでも充分だ。それにこれは、君だけの問題じゃない。大丈夫、すぐに戻って来られるさ!アハハハハ!」
それに問題はまだある。
「そう言って頂けるだけでも大変有り難く思います!」
「あ、そうだ。君は、しばらくはこの街に滞在するつもりなのかい?」
「はい。その予定でおります。」
「そうか!また今度話をしたいから、君が滞在の予定でよかったよ。ーーおっと、そうだった。俺も中佐に呼ばれてたんだった。では、ここで失礼するよ。また、会える日を楽しみにしてるよ。」
そう言って立ち上がり、去っていくトゥエムにハンガーは頭を下げて御礼を述べた。
「はっ!今までお世話になりました!ありがとうございました!」
トゥエムはそんな彼を横目でチラリと見た後、彼との会談部屋を出た。トゥエムは、そのまま中佐の待つ部屋へと向かっていった。ただ、一言呟いて。
「問題はまだある。」
そのトゥエムの言葉は、廊下を歩く兵士の靴音に掻き消され、誰にも聞こえることはなかった。
トゥエムは目的地であるヘイト中佐のところにやってきた。
「ヘイト中佐!呼び出しに応じ、トゥエムが参りました!」
「入れ。」
「はっ!失礼いたします!」
トゥエムが入るなり、ヘイトは呼び出した本題に早速入るため、質問をした。
「おい、捕まえた『ヤツ』はどうだ?」
『ヤツ』というのは酒場でも話題に上がっていた人物のことだ。トゥエムはヤツが未だ何も吐いてないことを口にしようとしたその時、部屋にノック音が響き渡った。彼の声を聞くに、急用であることは明白であった。
「中佐!中佐はいらっしゃいますか!?」
そこで彼は舌打ちしながらも、話を中断させ、ノックしてきた人物を部屋に招き入れることにした。
「し、失礼いたします!あ、トゥエム少佐もいらっしゃいましたか!」
「おい、貴様、何用だ。」
「はっ!そ、それがこの支部内に何者かが入り込み、例の人物と何処かにいなくなりました!!」
その報告を聞いた2人は驚愕の顔に包まれた。それはそうだ、せっかく金の在処を知っていた人物がいなくなってしまったのだ。しかも、誰とも知らない者もいるというオマケ付きで。
ヘイトは今までみたこともないほどに怒り、直ぐに見つけ出すように命令した。
「見つけ出して、今すぐ俺の前に連れてこい!!トゥエム、貴様も行け!!」
「「はっ!失礼いたします!」」
誰もいなくなったヘイトの部屋では、彼はある所に電話をし始めた。
「もしもし、こちらヘイトです。ヤツが逃げ出しました。くれぐれもお気をつけ下さい。」