転生者
「この大陸の広さは、丁度オーストラリア大陸くらいなんだよ」
勇者は俺の問いには答えずに、向かいの椅子に座って楽しげに話しかけてくる。
とりあえず見つかっているこの世界の大陸名を思い起こしてみる。
おーすとらりあ大陸とは、どこの大陸だろうか。
広さを示す基準にしては、そんな名称は思い浮かばない。人族と魔族で名称の違う大陸なのだろう、そういう物も、確かあったはずだ。
それに、この世界で魔王の俺が把握できているのは、有名なほんの一握りだけ。数々の海を渡ってきた人族の方が詳しいだろう。
俺の反応を見て勇者は、つまらなさそうに口を尖らせる。
「魔王君も知らないかぁー。魔王君は俺と同じくらい冷めてるし、同じ時期に産まれたって風の噂で聞いたから転生者かと思ったのにな」
ーー転生者?
「他の世界で生きてて、その記憶のまま生まれ変わることだよ。前の世界じゃテンプレ小説として人気があったんだ」
そんなことがあるのか。
俺が言えた義理じゃないが、それはなかなか難儀な生き方になるはずだ。2度目の人生と聞こえはいいが、こちらの世界が前の世界より良くても悪くても後戻り出来ないから。
勇者の言葉振りから予想するに、こいつは転生者という者らしい。
「だから、同じくテンプレの、同時期に生まれた勇者と魔王が共に転生者っていうオチを思い描いてたんだけどなぁ」
勇者はこの上なく残念そうに、作り笑いを投げかける。
元の世界に帰りたいのか。
整った勇者の顔立ちに、そう思わせる寂しげな紫の瞳があった。




