おかえり。
今現在、ユキの頭の中はどうしようという気持ちでいっぱいでした。
リーフは大きな樹の根元に腰を降ろしてユキを膝に乗せたまま思案顔で遠くを眺めています。
過去にバケモノだと言われ、慕っていた飼い主に恐れられ、捨てられたことを思い出したユキは次にリーフが自分へと向ける言葉が怖くて仕方ありませんでした。
このまま猫の姿になってしまおうか、そうすれば言葉が分からないリーフに説明しなくてもいい、逃げてしまった方が捨てられた時、辛くないのではないだろうかといろんな事を考えていましたが、そんなことをしてしまえば二度とイフやリーフ、リュウキや他のみんなにも会えなくなってしまう。
グルグルと渦巻く感情に押し潰されてしまいそうになっていたユキにリーフは静かに声をかけました。
「・・・・・・ユキ。顔をお上げなさい。」
「・・・・・・。」
じっと俯いてフルフルと首を横に振るユキに、リーフはフゥ・・・と小さくため息を吐くと、きゅっとユキの小さな体を抱き締めて引き寄せます。
びくりと体を震わせて寝てしまっている小さな耳を視界に入れて、リーフは気持ちを落ち着けて問いかけました。
「大丈夫、大丈夫ですよ。ユキが何を恐れているのか私には分かりませんが、落ち着きなさい。多分、ですが。ユキのおかげでこの星の危機は免れたようです。」
「り、ぃふ?」
「私には、どうしてユキにあんな治癒能力があったのか分かりません。ですが確かにあの瞬間、あなたの力でひとつの尊い命が救われた。それが全てです。」
リーフは少しだけ見えたユキのゆらゆらと揺れる大きなチェリーピンクの瞳を見つめて優しく目を細めました。
「りぃふ・・・。ゆき、きもち、わりゅい・・・?こあく、にゃい・・・?」
不安げに問いかけてくるユキに、リーフはユキが何を恐れていたのか理解し、ゆっくりと首を振りました。
「いいえ。気持ち悪くありませんし、ちっとも怖くありません。」
「ほ、んと?」
「ええ、私は冗談も嘘も好きではありません。ですが、もっと知りたいとは思います。ユキの力のこと、教えてくれますね?」
リーフの言葉に体の力を抜いたユキは、おでこをリーフの胸に押し付けると小さく頷きました。
ぽんぽんと優しくユキの背中を撫でながら、リーフはほっと息をつきます。
そしてぽつりぽつりと話し出したユキの話に耳を傾け、ユキが『神猫』という種族であること、別の世界から来たということ、気づいた時には癒しの能力を持っていたこと、初めてその力を使った時に『バケモノ』だと恐れられ捨てられたことを聞きました。
話し終えたユキは何もかもを吐き出すかのように泣き、それでも受け入れてくれたリーフに安心したのか、泣き疲れて眠ってしまいました。
「さて・・・・・・。ユキ。帰りましょうか。私たちの帰るべき場所へ。もうあそこはあなたの帰る場所でもあるのですから。」
リーフは腕の中で目元と鼻の頭を赤くしてスヤスヤと眠るユキの体温を愛しく感じながら立ち上がると、転送門へ足を向けながら通信をオンにしました。
「帰還します。門を開けなさい。」
『了解致しました。お帰りをお待ち致しております。リーフ様。転送門で守護精様方がお待ちです。・・・俺知りませんよ。マジで。』
セナの最後の言葉にリーフはため息をつくと、やれやれと呟き歩みを速めました。
*****
転送門から聖域に戻ると、既に門の前にはイフ、リュウキ、マナ、ジン、アルフ、エイルが待っていました。
イフとリュウキはリーフが転送台から下りると同時に近づくと、リーフに抱かれているユキを覗き込み、無事であることを確認して胸を撫で下ろし、そして土に汚れたリーフの姿を見て眉を寄せました。
「リーフ。貴様どういうつもりだ。どうしてユキがリーフと共に行動している?」
「そうや。説明してもらわな納得もできへんよ。頼むわ・・・。」
「まあまあ。イフもリュウキも落ち着きなさい。リーフもその格好ではゆっくり話も出来ないでしょう?先に湯浴みでもして着替えてくださいね。ユキもその状態ではかわいそうです。寝かせてあげましょう。ね?」
イフとリュウキが非難の声を上げると、アルフは落ち着きなさいと2人の肩に手を置きました。
リーフは静かに頷くと腕の中で眠る小さな幼子に視線を落として、きゅっと少しだけ腕の力を強めて抱き締めると、近くに立っていたイフへユキを抱き渡します。
「話は後ほど。お時間を頂けるのでしたら私の執務室でお待ちください。それでは。」
リーフは自身の汚れた体を見下ろして、改めて酷い格好だと思いながらその場を去りました。
「酷い有様だなぁ。僕リーフが慈善活動するなんて思わなかった。びっくりだよ。」
「ふふ。確かにね。きっとユキが原因なんだろうね。」
ジンがリーフの出ていった扉の方へ視線を留めながら大げさに首を振ると、マナはクスクスと笑います。
確かに以前のリーフだったらあの場は、その星の人間でない者が手伝えばどんな影響が出るか分からないと立ち去ったのだろうと、マナの言葉を聞いてリーフと付き合いの長いイフも確かに変わったと感じていました。
イフはイフで、ユキが目の届く場所にいないだけで、こんなにも不安に駆られるだなんて思ってもいなかったので、ユキの存在がこんなにも大きくなっていたことに驚いたのですが、それはイフだけではなく、この聖域にいる者すべてに向けて言える言葉だと確信していました。
ユキが無意識に体温の高いイフへ擦り寄ると、イフは視線を落としてユキの赤くなっている瞼と鼻の頭に気づきます。
「泣いて、いたのか・・・・・・。」
「っ。しろ・・・、ユキ。もう何も怖いことはあらへんよ。ゆっくりおやすみ。な。」
イフと同じ事を思っていたのか、リュウキも小さな声でユキへ言葉をかけると、安心させるように小さなユキの頭を撫でたのでした。




