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第十四話『吾輩、戦うのである』

 吾輩は犬である。名前はポチという。


「ワン!」


 ベリオスを出て、次の街へ向かっているのである。

 

「ワンちゃん、どこいくのー?」

「オルグちゃん、トコトコ歩く姿も可愛い!!」

「オルグたん、マリンシアに向かってるんかな?」

「……ってか、いつまで追いかける気なんだ?」


 剣聖と愉快な仲間達はまだ吾輩の後ろをついて来ているのである。暇なのだろうか? 吾輩は訝しんだ。

 まあ、人間の同行者が居れば人間の集落にも入り込みやすい。ここは少々サービスをしておいてやるのである。

 吾輩、尻尾をあえて左右に大きく振る。


「わー! わー! なんか、すっごい可愛い!!」

「ぎゃばばばば!! オルグちゃん、尻尾フリフリしてる!!」

「うおおおおおお!! オルグたん!!」

「……可愛いんだよなぁ、ほんと」


 これぞ、秘儀『尻尾ふりふり』である。客が少ない時、吾輩がちょっと外に出てこれをやると面白いように人間が釣れたものである。

 メロメロ状態になった四人はもはや吾輩の奴隷も同然。


 ◆


 しばらく街道沿いを歩いていると、彼方で血の匂いがした。

 人間の匂いがいくらかと、死肉の匂い。そして、大量の獣の匂いがする。

 

「ガルルルルル!!」


《『スキル:バトルモード』発動》


 どうやら、襲われているようだ。匂いの中には人間の子供のものもある。

 カイトくんではない。だが、人間の子供は守らなければならない。


「オルグちゃん、どうしたの!?」

「オルグたん!?」

「……これは」

「剣聖様? オルグは一体……」


 後ろの四人がゴチャゴチャ話していたが、相手にしている暇などない。

 今の状態では間に合わないのである。


《レベルアップ承認。保有経験値:300を消費。レベル10になりました》

《条件達成。エヴォルク承認。保有レベル:10を消費。『種族:バーニーズ・マウンテン・ドッグ』から、『種族:ストーム・ベルーガー』へエヴォルクします》


「オルグちゃん!?」

「変身した!!」

「でも、青いぞ!?」

「……まさか! ワンちゃん、そっちを頼んでいい!?」


 剣聖はベリオスの方角を見ながら叫んだ。そちらに何があるのかは分からぬ。だが、そっちとは助けを求める人間の子供の事だと受け取った。


「ガオン!!」

「ありがとう!!」


 吾輩が大地を蹴ると同時に、剣聖も反対方向に向かって大地を蹴った。


「なになになになに!?」

「どわぁぁぁぁぁぁ!?」

「剣聖様!? オルグもどこに行くんだ!?」


 その声を彼方へ置き去り、吾輩は全速力で街道を駆け抜けた。


《『スキル:エアリア・ブースター』発動》


 不味いのである。吾輩の嗅覚は自分で思っていたよりも遥かに優れていたようだ。

 全速力を出しているというのに、辿り着かない。このままでは間に合わない。到着した頃には人間が全滅してしまう。

 吾輩の脳裏にはご主人のカフェにやって来る子供達の顔が次々に浮かんで来た。

 他の犬が人間をどう思っているかなど知らぬ。だが、吾輩は人間の子供達の事が好きだった。一緒に遊んでもらって、幸せだった。

 だから、人間の子供は死なせたくないのである。


《条件未達成の為、『称号:雷の帝王』の再取得に失敗しました》

《必要条件をレベルで代用しますか?》


 なんでもいい、早くしろ!


《レベルアップ承認。保有経験値:100,000を消費。レベル70になりました》

《条件達成。エヴォルク承認。保有レベル:70を消費。『種族:ストーム・ベルーガー』から、『種族:ライトニング・ベルーガー』へエヴォルクします》


 爪の先から全身に向かって、雷霆が駆け巡る。

 この感覚を吾輩は知っている気がする。もはや、忘却の彼方に置き去った記憶。吾輩が犬として目覚めるよりも前のもの。

 思い出せぬし、思い出す気もない。今の吾輩は犬である。名前はポチという。それで良い、それが良い!


「グォォォォォオオオオオオオオオオン!!!!!」


 吾輩は雷になった。一歩で千里を超え、匂いの下へ辿り着いた。

 人間の死肉が壁を築いている。そして、その中央に僅かな生き残りが身を寄せ合っていた。


《『スキル:雷霆招来』の再取得に失敗しました》

《『スキル:レクス・トニトルス』の再取得に失敗しました》

《『スキル:レガリア・ストライク』の再取得に失敗しました》


 早く何とかしなければならないと言うのに、あの声が頭の中でゴチャゴチャ言い出して集中が出来ない。


「グォォォォォォォォォォオオオオオ!!!」


 黙れ!! 吾輩がやりたい事をやらせるのである!!


《『スキル:ヴォルティクス・レイジ』を会得しました》


 吾輩の怒りが雷となって、人間を取り囲む無数の獣へ降り注いだ。

 地面が真っ赤に染め上がっている。不味いのである。あれでは人間まで死んでしまう。

 辿り着いた以上、この姿は過剰なのである。


《エヴォルク承認。『種族:ライトニング・ベルーガー』から、『種族:ストーム・ベルーガー』へエヴォルクします》


 雷霆が吾輩の体から抜け出し、代わりに風が吹き荒れた。


《『スキル:エアリア』と『スキル:ガード・シェル』から、『スキル:エアリア・ガード』へ派生しました》


 風が人間達を取り囲み、見えざる壁を築き上げた。その前に降り立ち、吾輩は周囲の獣達を睨みつけた。

 千は消し飛ばしたが、それでも辺りを埋め尽くさんばかりの数である。

 大木より巨大な猿。虹色の羽を羽ばたかせる鳥。光を帯びた鹿。目が六つある虎。黒いモヤを垂れ流す馬。

 

「ガオォォォォォォォオオオオオオン!!!!」


 相手にとって、不足なし。全員纏めて、掛かって来るがよい!

 吾輩、戦うのである。

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