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第九十八話 発見

 ダンジョンの中に用意させた屋敷……その自室の中でバジルは頭を抱えていた。

 何度も髪を掻きむしり、まるで脳の中にまだ使ってないアイディアがあれば出てこいと引きずり出そうとしているかのようだ。

 余裕のあった顔は今や焦燥に支配され、繊細そうな顔は皺だらけになって歪んでいる。

 ……詰みである。

 真の王派には、最早手が残されていなかった。

 有力者達は次々とハンナの裏工作で寝返り、苦肉の策として実行した襲撃も何故か失敗に終わった。

 魔物達はあろう事か襲撃の犯人が真の王派である事をバラして回り、国内でのマックスへのヘイトは最高潮まで高まっている。

 意味が分からなかった。魔物がこちらを裏切る事など絶対にないはずなのに……恐らく、ユリアがあれを命じたに違いあるまい。

 100%裏切らない魔物が馬鹿な行動をしたという事は、それを命令した者が味方内にいるという事だ。

 なのでユリアはもう余計な事をしないように牢に閉じ込め、後日処刑する予定だ。

 本人は『アタシは無実だ!』と喚いているが、こいつ以外にやらかす馬鹿などいない。


 ユリアは閉じ込めたので、これ以上引っ掻き回される恐れはなくなった。

 だがもう遅い。詰みだ。終わっている。

 民の感情は完全にマックス憎しの方向へ向いてしまっており、今からではたとえ国を乗っ取ったとしても即反乱という末路を迎えるだけだろう。

 吸血鬼は力の信奉者だ。ならば力押しで玉座を乗っ取れるという最後の方法もまだあるにはあった……が、いくら強い者を崇めるといっても、自分達を襲う王は流石に崇めない。

 つまりはもう、どうしようもなかった。


(駄目だ……もう打つ手がない。

こうなったら……逃げるしかない……)


 最後に残された選択肢は、打開策でも何でもない、ただの逃亡であった。

 ここからの逆転は不可能だから、一度王都から逃げて別の場所で立て直す……これならばまだ再起は不可能ではない。

 ダンジョンキーとマックスさえいれば、どこからでもやり直しは出来る。

 何ならダンジョンを所有していない小国の王から始めてもいいし、ダンジョン持ちである事を売り込んでどこかの国の中枢に食い込めるかもしれない。


(そうとも、私はこんな所で終わる男ではない。

大丈夫だ……マックスとダンジョンさえあれば、またやり直せる……)


 この国での戦いは終わった。

 これ以上続けても、ただ自分の足で絞首台に向かうだけだ。

 だが戦場を変えればまだ戦える。

 だから彼は、この国から手を引く事を決意した。

 故に彼はその事を伝えるべく部屋を出て、マックスのいる部屋を目指した。

 決めた以上は、行動は早い方がいい。

 小型化した状態のダンジョンキーを発見する方法など無いに等しいが、それでも想定外の事態があるかもしれない。

 事実、彼の判断は正しい。

 彼は知らない事だが、ダンジョンキーを判別する方法は存在するのだ。

 それは攻略者のみが持つ特権であり、攻略者にのみ力を貸す管理者の存在だ。

 管理者は、注視すればダンジョンキーを見分ける事が出来るのである。


 そう、見分ける事が出来るのだ。


「見付けたぞ。こんな所にあったか」


 ダンジョンの外で誰かがそう言い、ダンジョンキーを掴んだ。

 まさか、と思いバジルはダンジョンの外の景色を見る。

 どういう仕組みなのかはバジルにも分からないが、ダンジョンの中からでも外を見る事は出来る。勿論、マスターの許可があればの話ではあるが。

 そして彼が見たのは、数日前にこちらに引き込もうとしたグリューネヴァルト家の長女……フェリックスの妹であるメルセデス・グリューネヴァルトと、その伯母であるハンナの姿であった。



 王都襲撃のヘイトをマックスになすりつけた後、メルセデスはコピーした鎧の魔物から情報を聞きながら王都内を探していた。

 この魔物は元々使い捨て前提で放たれたものである為、これといった情報は持っていない。

 マックスやバジルが隠れたダンジョンキーの位置すら把握しておらず、何も役立つものを持っていないように思える。

 だがそんな魔物達からでも取れる情報があった。

 それは王都襲撃の際、『攻撃してはならない』と指示された場所だ。

 真の王派である貴族や潜伏している仲間まで攻撃してしまってはただの同士討ちだ。

 それ故にあの王都襲撃は、不自然に攻撃されていない箇所がいくつか存在していた。


 そこでハンナは襲撃を受けていない貴族を、メルセデスはそれ以外を調べて回った。

 魔物が攻撃しなかった場所……その何処かにダンジョンキーはある。

 何故なら、何かの間違いでダンジョンキーが瓦礫などに埋もれてしまえば向こうだって面倒だからだ。

 それに瓦礫を撤去する際に兵士などに発見されてしまう恐れもある。

 だから攻撃を受けなかった場所に隠れている可能性が高い……その判断のもと、メルセデスとハンナは調査に乗り出した。

 普通ならばダンジョンキーは見ても判別できるものではない。

 例えば市販のアクセサリと同じ形をしていたとして、それがダンジョンキーかどうかなど見て分かるものではない。

 だがメルセデスにはそれが出来る。

 ツヴェルフならば、注視すればダンジョンキーかそうでないかが判別出来てしまうのだ。


 更にメルセデスにとって幸運であり、バジルにとって不幸だったのはダンジョンが二つになった事で他のダンジョンを感知する能力が僅かながら上がっていた事であった。

 これは当然のことで、大体の事は一人でやるよりも二人で分担した方がより作業効率が上がる。

 ツヴェルフの他にもう一人……影の薄い方の管理者のズィーベンが加わった事で精度が上昇していたのだ。

 そのおかげもあって、メルセデスは管理者のナビゲートと建物の壊れ具合などから一つの物置小屋へ辿り着いていた。


 余談だがナビゲートといっても、実はそれほど正確なわけではない。

 『何となく、そっちの方向にありそうな気がしないでもない』という程度の、フワッとした頼りないナビゲートで、ここに来るまでに何回か全く関係ない建物を調べる羽目になってしまった。

 ズィーベンの案内に従った結果、公衆浴場の野郎共の裸を見る羽目になった時は捨ててやろうかと本気で思ったほどだ。

 つまるところ彼等のナビゲートとは、例えるならば全身青タイツの少年ロボがスノボーをやっている時に周囲を飛び回って『ジャンプジャンプ!』、『スライディングスライディング!』と的外れなタイミングで指示を出して来るナビゲーターくらい役に立たない。

 しかし下手な弾も数撃ちゃ当たる。

 何度かの無駄足の末、メルセデスは何とか正解に辿り着き、ハンナと共にダンジョンキーを手にしていた。


「それなの?」

「ああ、間違いない……はずだ」


 ハンナの問いに、メルセデスが若干頼りなく答える。

 ツヴェルフはこれだと言っているが、見た目的にはただのアクセサリにしか見えない。

 デザイン的には鎖に繋がった小さな剣のようなもので、前世でお土産コーナーに並んでいた龍の剣のキーホルダーを思わせる。


「けど、何の反応もないよ?」

「恐らく向こうも気付いているだろうが、どうしていいか分からないんだろう。

このまま黙っていればただのアクセサリと思って私達が立ち去る……とでも期待しているのかもな。

とはいえ、それも不可能とすぐ悟るだろうが」


 出来ればダンジョンキーにはこのまま、沈黙を守っていてもらいたい。

 こんな所で暴れられると割と面倒だ。

 しかし、相手からすればここで暴れて逃げ遂せる以外の道などない。

 ダンジョンキーが光り、中から鎧の剣士が飛び出してきた。

 どうやら、向こうも誤魔化せる段階ではないと気付いたらしい。

 振り下ろされた剣の一撃を腕輪で受け、裏拳で鎧の顔を砕く。

 しかしその直後にダンジョンキーが待機モードから鍵モードへと変わり、槍と化した。

 王剣とは言っているが、どうやらクリストフはダンジョンを槍の形にしていたらしい。

 続いて複数の魔物とバジル……そしてマックスがその場に姿を現し、槍が彼の手に握られた。

【役に立たないナビゲート】

ロックマン8で多くのプレイヤーを悩ませた存在。

スノボーステージでロックマンがジャンプするかスライディングするかを教えてくれるのだが、そのタイミングがシビアでナビ同士が互いを食い合うように主張しまくるせいで全然役に立たない。

後半はほとんど同時にジャンプ!スライディング!と連呼してるだけ。

具体的には↓みたいな感じ。


ナビA『ジャンプ! ジャンプ!』

ナビB『スライディング! スライディング!』

ナビA『ジャンプ! ナビB『スライディング! スラ……ナビA『ジャンプ! ジャンプ!』

\ジャンプ!/\スライディング!/\ジャ\スライディング!/ンプ!/\スライディ\ジャンプ!/

\ジャ\スライ\ジャン\スライディン\ジャ\スラ\ジャンプ!/

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― 新着の感想 ―
[一言] ロックマソ懐かしや………笑 ネタの世代がドンピシャで、楽しんでます。
[一言] 某クソナビゲーターくらい役に立たない影の薄いハゲナビゲーター… 要らなくね?
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