第百六話 足の引っ張り合い
「出ろ、ピーコ」
上を目指すと決めたなら、今回使う魔物は当然ながら空を飛べるピーコだ。
久しぶりの出番に張り切るピーコの上に乗り、一気に上昇した。
このダンジョンは浮遊している足場を跳んでいく構造になっているが、空を飛べるならば一直線に上へ向かう事が出来る。
まだ一階層しか見ていないが、飛行能力なしでこのダンジョンを攻略するのは至難の業だろう。
シーカー達も色々と工夫して、風の魔法で高く跳躍したり、仲間を持ち上げて投げて無理矢理先の足場へ到達させたり、投げる方向を間違えて仲間を奈落の底に落としてしまったり、仲間を踏みつけて先へ行ったりと様々だ。
しかし結局のところ、飛行可能なメルセデスほど最短距離で上に向かう事は出来ていない。
この一階層ではメルセデス以外に飛行可能な魔物に乗っているシーカーを見ていないが、恐らくそういった者達はとっくに先へ進んでいるのだろう。
あそこで四苦八苦している連中はいわば、スタートダッシュに失敗して取り残された連中というわけだ。
メルセデスは取り残された側に入る気はないので悠々と高度を上昇させていく。
するとある程度の高さになったところで、何かが接近して来る事に気付いた。
「コケッコー!」
飛んできたのは鶏のような鳴き声を発する空飛ぶペンギンであった。
何だアレは。
そう思っているとツヴェルフから説明が入る。
『現地識別名ピジョーン。鳥形の魔物で脅威度はDランク。
属性は水属性ですが、口から火を吐きます。
あんな外見ですが、遺伝子的にはアヒルの仲間です。しかしピジョーン自身は自分をカラスであると信じています』
「酷い魔物だ」
突っ込みどころしかない魔物の突撃をピーコは軽々と避け、蹴り一発で無力化した。
そのまま爪に捕え、どうするか確認するようにメルセデスを見る。
「こいつの捕獲依頼も受けていたし、捕まえておこうか」
とりあえず依頼達成には一体捕まえておけば十分だろう。
意識のないピジョーンをダンジョンに収納し、メルセデスは更に上へと向かった。
すると足場がなくなっており、そのゴールと思われる場所に扉があった。
それを開けるとまた、新たなエリアが待ち受けていた。
空の上である事は変わらないが、今度の足場は平均台のように狭い道が延々と続いており、シーカー達はバランスを取りながら少しずつ進んでいる。
しかし一本道という事は他のシーカーに追いつかれれば突き落とされる可能性があるわけで、今も一人のシーカーが奈落へ突き落とされていた。
「ひいいいいぃぃぃ~……っ!」
メルセデスは黙って落ちていくシーカーを観察する。
するとシーカーはほんの10mほど落ちた辺りで消えてしまった。
恐らくは一階層へ戻されてしまったのだろう。
今回は一階層ほど下の空間が広いわけではないらしい。
それでも一応下の方も調べ、何もない事が分かってから高度を上げた。
ここにも魔物に搭乗しているシーカーはいない。
まあ所詮はまだ二階層だ。飛行出来れば無条件で突破出来る程度の難易度なのだろう。
すぐに次の扉に到着し、三階層へと移動した。
三階層まで来ると流石にシーカーも今までと動きが違う。
魔物に乗っていないシーカー達は狭い足場でも迷いなく走り、跳び、そしてライバルを蹴落としたり踏み台にしたり投げたりして互いの足を引っ張っていた。
そして三階層まで来てようやく、飛行可能な魔物に搭乗しているシーカーもちらほら見えてきた。
乗っているのは大体がピジョーンだが、それでもここに留まっているのはこの階層の難易度がそれだけ高いという事なのだろう。
足場のあちこちには砲台が取り付けられており、あちこちに砲弾を発射してシーカーの道を塞いでいる。
恐らくよく観察すればパターンとかがあるのだろうが、初見で見破るのは難しそうだ。
そこに一人のシーカーがピジョーンに乗って突っ込むも、砲弾を避け切る事が出来ずに被弾して墜落していった。
「ウワアアァァァァァ~……」
甲高い声をあげながら落下していくシーカーを見送り、再びメルセデスは砲弾の嵐を見る。
砲弾とはいっても、どうやらただの鉄の塊らしく爆発はしないようだ。
とはいえ高速で飛んでくる鉄の塊はそれだけで凶器なので、普通に命にかかわる。
だがメルセデスにとってはそこまで恐れるものではない。
ハルバードを手に突撃し、飛来する砲弾を切り払いながら強引に突き進んだ。
するとメルセデスが通過して開けた空間に、我先にと他のシーカー達も飛び込んで次の砲弾が来るまでに何とか突破しようと急ぐ。
しかし互いが邪魔で上手く進めず、最後は全員仲良く砲弾の餌食となって落ちて行った。
砲弾さえ抜けてしまえば後は平和なもので、すぐに扉が見えてきたので四階層へと移動した。
四階層まで来ると、流石に徒歩で来ているシーカーはほとんどいない。
ほとんどが飛行可能な魔物に搭乗して頑張っているようだ。
その中に何人か、耳の尖った華奢なシーカーを発見した。
男女関係なく秀麗寄りで、身体は細い。
恐らくあれがエルフェだろう。時刻的には今は吸血鬼の時間だが、恐らく朝か昼辺りからずっとダンジョン内で粘っているに違いあるまい。
エルフェは流石に吸血鬼ほどアクロバティックな動きはしておらず、堅実に少しずつ高度を上げている。
一方吸血鬼達は我先にとどんどん高度を上げ、その先に待ち構えている罠に面白いように引っかかっていた。
どうやら四階層はある程度以上の高度に達すると竜巻の如き風が発生して侵入者を落とす仕組みになっているらしい。
エルフェはその攻略法が分からずに立ち往生しているが、吸血鬼は構わず突っ込んでは落とされている。
メルセデスはとりあえず下を探索し、何もない事が分かってから上を目指した。
上へ向かうと当然のように竜巻が発生するも、ピーコは翼を鋼のように硬質化させて弾丸のように突撃した。
そして風の妨害をものともせずに突っ切り、更に上へと飛んでいく。
残念だがこれはランクDモンスターのピジョーンとランクBモンスターであるピーコの差だ。
他のシーカーには真似出来ない突破方法だろう。
「グオオオオ!」
扉の近くまで行くと、それを守るように翼竜が待ち構えていた。
しかし妙に扉との距離が遠いので、無視して進む事も可能だろう。
だがこんな場所に配置されているからには何かあるのかもしれない。
そう思い、メルセデスは重力を乗せたハルバードの一撃で翼竜を叩き斬った。
すると翼竜の口から剣が吐き出され、咄嗟にメルセデスがキャッチする。
一階層には盾があった形跡が見付かった。そして今度は剣だ。
やはりこのダンジョンは特定のアイテムを揃えなければ進めない場所があるのかもしれない。
五階層は……何か、やけにシーカーが多かった。
大勢のシーカーが上の方で飛び回り、何かを奪い合っている。
彼等は新しく入ってきたメルセデスへと視線を向け……そしてメルセデスが剣を持っている事に気付くと、何人かが一斉に向かって来た。
「剣だ! 剣を持ってる奴がいるぞ!」
「奪え!」
「俺が一番乗りだ!」
「協力しましょう」
どうやら奪い合っているのはダンジョン内で手に入る武具らしい。
よく見れば上の方では盾と鎧と小手の争奪戦が繰り広げられている。
ワラワラと寄って来るシーカーを振り切って一気に一番上まで行くと、争奪戦の理由が分かった。
扉には四つの窪みがあり、剣、小手、盾、鎧を嵌めこむようになっている。
恐らくそうしないと扉が開かず、次のエリアへ行けないのだろう。
じゃあ争奪戦などせずに誰かが開くのを待てばいいと思うのだが……逆に言えば争奪戦になっている時点で、それは出来ないのだろう。
誰か一人が通過した時点でアイテムが元の場所に戻されるなりして、再びやり直しになるとすればこの無益な争奪戦の理由も分かる。
あるいはアイテムを嵌めこんだ者のみが通過出来るのかもしれない。
少し観察していると盾を持っているエルフェの女性が扉に盾を嵌めこんだが、すぐにそれを別の吸血鬼のシーカーが取り外し、改めて嵌め直してしまった。
だがそれを更に別のシーカーが奪い、そのまま走り去ってしまう。
「これはどういう事だ?」
『恐らく、四つの武具全てを嵌めこむ事で扉が開くのでしょう。
そして嵌め込んだ者のみが通過し、次のエリアへ行けるのだと推察されます』
「武具を持ったまま逃走してる奴がいるぞ」
『他の誰かが三つ嵌め込むまで待つ気なのではないでしょうか? せこいですね』
見事な足の引っ張り合いだと逆に感心させられる光景であった。
全員が先に行きたいのに、抜け駆けされるのが嫌なので互いの邪魔をし合っている。
武具を持って逃げ回る者、最後に漁夫の利を奪うつもりで扉前に待機している者、積極的に武具を奪いに行く者、とりあえず他のシーカーを落としてライバルを減らす者……実に様々だが、協調性がまるでない。
『どうしますか、マスター』
「どうもこうもない。このままでは夜が明けてしまう。
邪魔な奴を全員叩き落として先に行くぞ」
ここで小競り合いをしていても埒が明かない。
ならば邪魔者を全て排除して突破あるのみだ。
メルセデスはそう決断し、他のシーカー達をハルバードで叩き落し始めた。




