勇者と翼人
side 翼
「どうして!どうしてだ!?」
俺は思わず、デスクに拳を力いっぱい叩きつけた。鋼鉄で出来ている筈のデスクがいとも簡単に半ばから引きちぎられた。
・・・しかしそれでも、俺の怒りゲージはこれっぽっちも下がらない。
「何故だ!?お前らも翼人と同じだろう!?この世界の人間たちに、自分たちの全てを奪われてきた被害者だろう!?・・・確かに、俺たちはお前たちと戦ったこともあるだろう。でも、俺たちは望んでやった訳じゃないぞ!?もし、過去の戦争で自分たちと戦ったことを恨んでいるのなら、お門違いだ!!!」
俺は今、『勇者の国ランデルディー』の現国王ダルクと交渉を行なっていた。周りには、千尋さんを除いた残りの四天王と、ジルが同席している。・・・が、全員が怒りを隠しきれていないようだった。
「翼人と勇者が組めば、この世界の人間なんて何人いても敵じゃない!俺たちは囚われている仲間を助け出したいし、お前たちも、襲ってくる人間から自分たちを守らなきゃいけないはずだ!互の利益は一致しているだろう!?」
必死に説得する。それというのも、勇者たちの陣営に千尋さんがいるから、俺たちの元へ返して欲しいという理由と、もう一つ、勇者と敵対などしたら、翼人はほぼ確実に負ける事が決定しているからだ。・・・いや、勝利したとしても、その後、世界と戦う力など残ってはいないだろう。
『勇者』。その称号は、この世界最強の証だ。切り札、鬼札。ジョーカーなのだ。
翼人も、確かに強い力を有している。風を操り業火を生んで、光を制御し時間や空間までも操作する。俺に至っては、『この世全てのルール』を改変することさえ出来る。
・・・だが、『勇者』もそれは同じなのだ。
単純に持っている力の強さだけで言えば、恐らく互角。・・・が、俺たちは爆弾を抱えている。『魂の摩耗』という名の爆弾を。
それなのに、『勇者』は何の制約もない。俺たちと同等の力を有していながら、何の制約も無しに能力を使いまくれることがどれだけ脅威か分かるだろう?言ってみれば、『盲信』と『絶対服従』が、勇者に付けられた『首輪』だったわけだからな。それが解かれた今、彼らに敵はいない。
「いくらお前たちが強くても、たった300人にも満たない『勇者』で、世界中を敵に回して勝てると思っているのか!?」
「・・・戦力なら、其の辺にいるだろう?」
そう言いながら、映像の中のダルクは小さな粒を取り出した。
「テメエ・・・まさか、それを使うつもりなのか・・・!?そこまで俺たちと一緒に戦うのが嫌か・・・!!つまり、この世界の人間に代わって、今度は勇者が世界を支配しようってことなのかよ!?」
今まで黙っていた黒兎さんが叫ぶ。ほかの皆も、ダルクの持っている物を見て、顔を青くしていた。
「・・・別に、世界が欲しい訳じゃないさ。俺たちはただ、幸せに生きたいだけなんだ。・・・本当なら、お前たちとも共闘したかった。・・・・・・でも、もう無理なんだよ。」
悲しそうに首を振るダルクが持っているのは、『傀儡呪』。
『名前を剥奪された神』とやらが作成した、悪魔の道具。翼人の脳みそに寄生した後、脳全体に溶けて、使用者の思うがままに記憶を書き換える、『首輪』の数百倍恐ろしい道具だ。
そもそも、この道具は『首輪』みたいに、対象に常に効果を発揮している道具ではない。記憶を書き換えるその瞬間だけ効果が発動し、以後、使用者だけが自由自在に記憶を書き換える事が出来る物なのだ。
・・・それはつまり、俺の”理改変”でも解除出来ないということだ。明らかに、俺の能力への対応。これを使われたら最後、自分が日本人だったということすら忘れて、過去のありとあらゆる記憶を好き勝手に弄られ、全くの別人へと変化する。しかも、『傀儡呪』は翼人にしか効果を発動出来ないというオマケ付き。
今は”アーカイブ”で、各国の動きを監視している。材料が珍しい物ばかりな上に、作成自体が途轍もなく難しいので、まだ持っている国は少ない。持っていても、一個か二個。各国が、これを大量に作る前に、『牧場』の皆を助けないといけない。
勿論、『勇者の国 ランデルディー』にも二つあるのは分かっていた。『ランデルディー』は『レジナル王国』を勇者が乗っ取って建国したものなので、元々は『レジナル王国』の物だ。今回の軍事同盟が締結すれば、その時に『傀儡呪』は渡してもらうつもりだった。
「今アナタは、本当なら翼人と共闘したかった、と言いましたね。・・・つまり、我々と共闘出来なくなった理由が存在すると?」
激高して我を失っていた俺たちとは別に、宗二さんは冷静に話を聞いていたようだった。ダルクに質問する。
「あ~・・・その、よ?」
すると、今までは落ち着いていたダルクが、妙に焦りだした。数十秒程考えていたが、結論を出したようだ。
「・・・そうだよな。これじゃぁフェアじゃない。お前らも、『勇者』と同じ異邦人だ。これぐらいは話しておかないとな。」
そして、彼は一つ深呼吸すると、話しだした。
「俺たちはな、『名前を剥奪された神』に脅されてるのさ。」
凄く遅くなりました。スイマセン。




